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21.悪役令嬢(?)のお母様

 この寮には偉い方が来訪した時専用の応接間がある。というのは今日この時初めて知った。


「というわけで初めましてですね。ステラさん」

「は、はぁ、ど、どうも……じゃなくて、初めまして。えっと」

「私はラティーナ。ぜひ気軽にラティーと呼んで欲しいわ」

「無理です」


 急に何を言い出すんだろうか。一般庶民Aの私が公爵夫人をあだ名で呼んだりしたらどうなるか考えるだけでも恐ろしい。


「うふふ、それはそうよね」

「…………」


 冗談が心臓に悪い。当たり前だけどこの応接間、私とラティーナ様の二人ではない。恐らく護衛と思われる方々が4人、そして……白い立派なお髭をたくわえたお爺さん。


「学園長も今回の件は大変でしたね。まさか魔物が校内に発生するなんて」

「前代未聞ではございましたが、しかしラティーナ様のおかげで大きな被害も出ず……なんと感謝すればよいか」


 そう、この人は学園長である。漫画では入学式の挨拶だけしている描写があったけど、こうして近くで見るのは初めてだ。


「偶然が重なっただけですわ。そう、とっても強い自慢の護衛達を連れてきたことを含めて。だから、気になさらないでくださいな」

「そう言って頂けると助かります」

「ところで今回の件、原因は掴めまして?」

「まだ、整理されておりませんが……現状の報告をしても?」


 学園長はチラッと私を見た。今のところモブでしかない私がいるけど報告していいのかという目線だ。


「もちろん。寧ろぜひお話ししてくださいな」

「……わかりました」


 見透かされているような目線がラティーナ様から私に飛んでくる。もしかしてリーティアさんが預言について教えてないよね……?

 学園長が話を始める。


「今回の件は学園の地下に魔物を召喚する用の魔法陣が敷かれており、そこに材料が投下され召喚されたようです。魔法陣を見つけたのは王都から派遣されてきた兵士の方々です」

「既に破壊したの?」

「はい。陣は壊してあります。またその場に置かれていた"材料"は回収できるものは回収しました」

「そう……それを仕掛けた人物は?」

「報告では……その地下の部屋に身元不明の死体が一つあったのみで主犯はわかっておりません」


 死体。それがあるのは知らなかった。漫画ではただアルティス先生が犯人として描かれているだけで、その裏で何が起きていたかはわからなかった。


「そう。学園長の考えだとどこだと思う?」

「それは……」

「帝国でしょう?恐らく」

「……確証はありませんが、やるとしたらそこでしょうな」


 帝国は最終的に明確に敵対し争う相手だ。漫画ではアルティス先生は帝国のスパイに復讐心を煽られ、魔物を発生させる手筈を教え込まれて実行したはずであった。

 ただ、アルティス先生はあの時学園を駆け回り魔物を倒していた。アリバイを作るにしたってその行動は本末転倒だし、結局生徒に大きな被害は出ていないのだ。どこかで何かが変わっているが、しかし事件は引き起こされたと考えるのが正しいのだろうか。


(というか私……場違い過ぎじゃない?)


 ラティーナ様と学園長は難しい顔をして話し合っている。政治情勢だとか色々な話をしているがまったくわからない。しかしこんな場で眠くなるはずもなく、緊張の時間が続いた。


「ありがとうございました学園長。引き続き何か学園側でわかりましたら教えてもらえると助かりますわ」

「もちろんです。では、私はこれで」


 そう言って学園長は席を立つ。「くれぐれも粗相がないように」と言葉を残したが……え、私まだ帰っちゃだめなの?


「ふぅ、ごめんなさいね。どうしても色々と確かめておかないといけないことが多くて長話になってしまったわ。どちらかというと私は貴女とたくさん話したかったんだけど」

「……でも、私そんな話すようなこと」

「あら、そうなの? じゃあ私から色々と勝手に話しちゃおうかしら」


 ウフフと優雅にほほ笑むラティーナ様。優雅だけど底知れぬ何かがあって警戒してしまう。


「実は光魔法を使う子が入ってくると聞いて、あの子……リーティアにどんな子か手紙を出すように言っていたの」

「へ、へぇ……」

「怒らないのかしら?」

「いや、まあ理解は出来るというか。そういうのはありえない話じゃないでしょうし」


 稀有な魔法を扱えるのだ。ノーマークはありえないし何とかして取り込もうとする派閥も出てきておかしくはない。


「だから、別に気にはしてないです」

「ふーん……そういえば、貴女アルティス先生について知りたがっていたみたいね」

「え? まあ、そうですけど」

「私が知っている限りだと家族は父母、それと姉。お姉さんの方は昔貴族から猛アプローチを受けて籍入れしているわ」

「……? そうなんですか?」

「ええ、今はお子さんが2人。もちろん健在だし、時折会ったりもしているみたいよ」

「え、えええ???」


 あっさりと衝撃の事実が明らかになった。お姉さん生きてるんかい!と突っ込みを入れたくなった。そしたら前提全てが変わってしまう。


「アルティス先生はお姉さんのお子さんが可愛くて、いずれ魔法を教えたいからと教職に応募して選考を勝ち抜いたのよー。お姉さんが本当に好きだったのねぇ」


 いやいやいや、教師になった理由が闇から光になっている。だけど一瞬怖い目をしたのは一体なんだったんだろうか……


「それとその先生からだけど、とっても怠け癖のある子がいて教え甲斐があるって息巻いていたみたいなんだけど……そういう子がいるのかしらねぇ」

「…………」


 やべぇ、あの時の目は普通にお叱りの目だったのか……。となると益々魔物乱入事件はなぜ起きたのか、謎は深まってしまう。

 しかし、少なくともあの先生に後ろ暗い理由はなかったことを今は喜ぶべきだろう。


「はぁ……そうだったんだ」

「…………」


 そんな風に安心する私を、値踏みするようにラティーナ様が見ていることに私は気づかなかった。

いつも読んで頂きありがとうございます!

次回から視点がリーティアに移ります!今週もよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[一言] え? お母様ってそういうこと・・・・・・?
[良い点] 先生の姉さんが生きていて、闇の理由じゃなくなって良かったです〜 ラティーナさんとても凄いですね!
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