20.解決及びお母様
信じられないものを見た。どうして彼がここにいるのか理解ができない。
「怪我人はいないか!?」
アルティス先生。彼はこの事件の主犯で、この後捕まって舞台からは去るはずの人物のはずだった。
私達に襲い掛かろうとしていたアンデッドはどうやら彼によって跡形もなく消し飛ばされたらしく、元からいなかったかのように痕跡がなくなっていた。
「せ、先生……助かりましたわ……」
まさに危機一髪であった。リーティアさんは大きく安堵の息をつくと私に近づいてきた。
「大丈夫、ステラさん? サーラさんも」
「う、うん」
「はい……ごめんなさい、私動けなくて……怖くて」
私が庇った彼女の名前を初めて知った。いや、クラスメイトとあんまり話すこともないしまだほとんど覚えていないのだ。
「その……ステラさん、ありがとう」
「あー、いや、どのみち何もできなかったし、そんな気にしないで」
その時、バタバタと廊下から駆けてくる音が聞こえたかと思えば、ウェール先生が飛び込んできた。
「アルティス先生っ! 私のクラスは……!?」
「大丈夫です。魔物が入り込んでいたようですが、けが人はいないようで」
「あぁ、よかった……」
「私は他のところも回ってきます。ウェール先生はここをお願いします!」
きっと戦える先生は校内を見回っているのだろう。アルティス先生はすぐに教室から飛び出して行ってしまった。
(えぇぇ、どういうこと……?)
もうめちゃくちゃである。仮に先生が犯人だと仮定すると魔物を倒して回っているのはまずおかしい。マッチポンプとか、犯行を隠すためという可能性もなくはないが、そういう小賢しいことをする人ではない、と思う。
「皆さん落ち着いてくださいね。発生した魔物はもうだいぶ減らしているようですから、もうしばらく教室で待機しましょう」
ウェール先生の言葉にクラスメイト達の緊張がわずかに緩む。流石に油断はできなかったがそれから先は本当に何も起こらず、なんとその日の夕方には魔物の掃討は終わってしまっていた。いや、喜んでいいところなんだけども!
「えー、今回の件については魔物の召喚陣が発動されたことが原因でした。その陣は既に破壊済みで怪我人は出ましたが幸いにも死者は出ませんでした」
後に情報が集まり、先生の報告を聞いて皆ホッとしていた。負傷者は出たが死んだ人がいないということだけでも心に受ける深刻さは変わるものだ。
公爵家夫人の来訪と共に来た警護隊の成果は凄まじかったらしい。どういった方々を連れてきたのかわからないが、とりあえず発生した魔物をほとんど掃討したのは彼ららしい。
「えー、学園はまだ警戒態勢を敷いていますので皆さんは寮に帰って出歩いたりはせず、静かに過ごしてください。また、何か異常があったらすぐに伝えるようにしてください」
というわけで当たり前だけど今日の授業は全て中止で寮に帰ることになった。帰っている途中に巡回している兵士の人達を見かける。
「恐らく要請があって派遣されてきたんでしょうね。最悪また魔物が出ても普通のだったらすぐ対処できるわ」
「うん、それならいいんだけど」
私は特に意識もなくリーティアさんと帰っていた。といっても周りには他にもたくさんの生徒がいるから二人っきりで帰っているとかそういうわけじゃない。
「ノートを見たのは偶然だけど貴女が話してくれたから今回の事態は何とかなったのよ。だから、これからも何かそういうのがわかってどうしようもない時は話して欲しいわ。出来る限り協力はするから」
「あ、ありがとう」
「いいのよ。でもあの時は驚いたわ。まさか貴女が庇うように割り込むなんて思ってもいなかった」
「いやぁ、あれは自分でも無意識というか」
本当に気が付いたら間に入っていたのだ。ある意味不可抗力である。
「貴女っていつもやる気がなさそうに見えるけどそういうところあるわよね。変に情に厚いというか」
「そんなことはないと思うけど……」
「だったら今回の件だって見過ごして知らないふりもできなかったわけじゃないでしょう。でもどうにかしないといけないと思ったから一人で悩んでいたのでしょう?」
「そ、それは、もしかしたら起きるかもしれないっていうのを知ってしまったからで」
「そういうところよ。貴女道で困っている人がいたらどうしようか悩みに悩む人でしょう?」
「う、うぐ」
悔しいけど容易にそうなることは想像できる。でも大体人間という者はそういうものじゃないのだろうか。前世だとそういうのを見て見ぬふりをして後悔することも多かった記憶がある。
そんな図星の私をからかうように彼女は笑った。
「大事なのはそれを一人で抱え込まないことだわ。まあ、容易に話せないこともあるだろうけど、私は事情を知っているからもう少し頼りなさいな」
「…………え?」
「な、なに? 急に立ち止まってどうしたのよ。」
彼女のセリフには覚えがあった。漫画で出てきたセリフ……ではない。
「先輩?」
「え?」
それは記憶の中で思い出せなくなっていた、すごく大事な……
「あら、リーティアちゃん、やっと帰ってきたのねぇ」
「え、あ、お母様!?」
ただ、それを完全に思い出す前にリーティアさんの驚いた声で我に返る。いつの間にか寮の前まで来ていたようで、そこの入り口に佇む護衛に囲まれた女性。
リーティアと同じ金髪で、穏やかながら勝気を宿す瞳からしっかりと存在感が出ており、オーラが出ているような気品がある。
「お母様って……」
「え、ええ、私のお母様ですわ。でもどうしてこちらに……?」
「へぇ、貴女がステラさんなのね。へぇ……ふーん?」
ものすごい美人である。海外映画に出てくるスレンダー美人という表現が私的にはぴったりだ。そんな人が何故か私を観察するように目を光らせていた。
「あ、あのー、お母様?」
「リーティアちゃん、ちょっとこの子借りるわね」
「え?」
「はい?」
なぜか気が付いたら私の腕はリーティアさんの母に掴まれ、引っ張られていた。決して力強く握られているわけではないのに、なぜか誘導されるように足がついていってしまう。
「お、お母様!? なにを……」
「二人っきりで話したいのよ。あとで貴女の部屋にも行くからちゃんと準備しておきなさいねー」
「お母様ー!?」
大体察した。この人、無茶苦茶だ。
いつも読んで頂きありがとうございます!
誤字報告などいつもして頂いて推敲が甘くてすみません・・・直接お礼が言えないのでこの場を借りてお礼させてください。本当にいつもありがとうございます。
次回の更新は火曜日になります。少し空きますが続きもお付き合いよろしくお願いします!




