17.断れない協力
「それで、これはどういうことなのかしら?」
一生の不覚というのはまさにこういうことなんだろうなと思う。いつも寝起きはぼんやりと思考力が低下しているというのに、今日この時だけはこの状況をどうやり過ごすか出力最大で脳が働いている。
「……えーっと、その、そういう妄想とか、ですかねぇ? ほら思春期特有の……」
「……私の目を見てもう一度言ってくれるかしら?」
「あ、あははぁ……」
これから起こる可能性のある事件について考えすぎたせいかいつの間にか寝てしまった。そして起きた時、そこにはなぜかリーティアさんが私の書いたノートをもって固まっていたわけである。
「それで……これはこれから起こりえることと思っていいのかしら?」
「いや、わかんないです……」
「起こる可能性もあるってことよね。貴女はやっぱり預言の力が……」
「いや! 本当にそういうのじゃないですから!」
自分の現状を説明するのが大変すぎる。前にも思ったが前世で知ってましたなんて信じてもらえるわけはないし、今の状況だと適当な言い訳だと思われてしまうだけだ。
「貴女がその力のことを言いふらされたくないことはわかるわ。でも、あの実習の時みたいにこれは個人でどうこう出来る問題じゃない。お願いステラさん、本当のこと教えて欲しいの」
リーティアさんの目は真剣そのもので、誤魔化すのは無理だと察するには十分だった。
「……その、本当に確実じゃないけど、もしかしたら起こるかもしれない、です……」
「そうなのね……」
私の言葉にリーティアさんはうーんと唸り何かを考えているようだった。いや、事件についてってことはわかる。だけど一人二人の知恵でどうにかなるものでもない。
「日時とかは……」
「わかんないです……」
「どこで起きるとか、どこが被害にあうとか具体的には」
「わかんないです……」
「……むずかしいわね」
漫画だけの情報じゃ本当にわからないことの方が多い。まず、いつ起きたかについてあやふやだ。少なくとも魔法実習の事故よりは後だが、それ以降で普通の授業中に突然起こるのだ。そして被害についても詳しくはわからない。主人公目線で描かれているためそれ以外の場所がどうなったかは詳細不明だ。少なくともすっごい怪我人と死者も出たことは確かである。
「何とかそれが起きる前に防げないかしら」
「うーん……」
そもそも根源を断てればそれで済む話ではある。ただ、怪しい実験室とかそういう場所があるわけではない。この事件、実はこの大陸の北にあるグリティア帝国という国が一枚噛んでいるのだ。この帝国というのは資源豊かなこの国を静かに狙っており、何かとばれないように工作をしているわけである。
漫画では最終的に悪役令嬢リーティアとその帝国が組んでこの国でめっちゃ悪さをするわけだが、それが失敗に終わって帝国に釘を刺す形で終わっていた。
それでだ、アルティス先生は昔から貴族を憎んでいて、それに目を付けた帝国の工作員に魔物召喚のやり方と道具を渡されていた……と物語ではなっている。
つまりアルティス先生を拘束しておけばいいかもしれないが、確証もなくそんなこと出来るはずもない。
「そもそも誰がそういうことを?」
「う……」
そもそもそれをリーティアさんに話していいかわからない。確かに物語と同じ流れではあるが違うところも多々ありまだ断言できないのだ。そもそも公爵令嬢リーティアがこうして関わってくる時点でまずおかしい。
話していいか悩む。しかし──
「もしかしてアルティス先生?」
「っ!? な、なんで」
なぜか当てられた。もしかして普段から怪しいところがあるのだろうか……
「今日の昼食、あまりにも突然マリーシアさんに先生について質問していたでしょう?」
私のせいだった! あまりにもバカすぎる! そりゃそうだ、気になることはあるって言われていきなり先生の名前を挙げる奴がいるだろうか!(私以外)
「いや、まだ確定じゃないよ! たぶん、もしかしたらって話で!」
「そうなのね……うーん、でも特にそういうことをしそうな先生には見えないし、先生をどうにかするとしたら証拠がないわね。何か良い手はないかしら」
「まず起きるかどうかわかんないし、そんな深刻に考えなくても……」
「起きないならそれでいいのよ。でも起きた時何もしてなかったら絶対後悔することになるわ。まあ、お母様の受け売りなんだけど」
くっ、人間が出来過ぎている。嫉妬まみれでめちゃくちゃな行動ばかりしていた悪役令嬢はどこへ……
「だいぶ遅くなっちゃったわね。とりあえず私も出来る限り何か出来ないか考えて見るから、貴女も何かわかったりしたらすぐ教えて欲しいわ」
「わ、わかりました。はい」
「それと鍵は絶対にかけること! 寮だからって完璧に安全ではないのよ?」
「う、うす」
「それじゃあ、また明日。おやすみなさい」
「お、おやすみなさい」
そんなわけで夜の密室会議は終わった。部屋の入り口まで見送って廊下に出た彼女だったが、その場で背を向けたまま立ち止まった。
「あの、ステラさん」
「はい?」
彼女は振り向かない。
「その、今話したことが起こるにせよ起こらないにせよ、貴女に一つどうしても聞きたいことがあるの。今度また部屋を訪ねてもいいかしら……?」
「え、あ、はぁ……いいですけど」
「そう……ありがとう。じゃあ、今度こそおやすみなさい」
彼女は一度も振り返らずにそのままスタスタと歩いて行った。どこか急いているようなそんな雰囲気だった。その後ろ姿を見送って部屋の鍵をしっかりと閉めた私は、またベッドに倒れ込んだ。
(考えること多すぎて辛すぎる……!!)
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