14.物語を振り返りましょう
若干遠巻きにされつつある教室で授業が始まった。今の私の知識としては日本で生きていた時とこの世界で生きていた時の二つの知識があるので、ほとんど問題はない。
(う、全然わからぬ……)
と思っていたがそんなことはなかった。日本の学校生活もなんだかボーっと過ごしていた気がするし、この世界ではただの村娘だったので貴族の教育についていけるほどの知力があるわけがなかった。
(漫画でも苦労していたっけ……なんでここは原作通りなのか……)
数学(のようなもの)だけは何とか問題ないのは不幸中の幸いというべきか、しかしこれはちゃんと勉強しないとついていけないのは明白だ。
(まあ、するかどうかっていうと話は別なんだけどね!)
私は自覚のある怠惰人間だ。そんなやつが自主的に勉強するわけがないのだ。テスト前はよく先輩の家で夜通し教えて貰っていたのが今は懐かしい。
そんなわけで私は今のうちに前世で覚えていることを書きだすことにした。というのもこっちで前世があったことを自覚してからどうしても思い出せないことや穴抜けになっている記憶があるからだ。もしかしたら日が経つにつれてそういう記憶がなくなっていくのかもしれないと考えると、早めに整理しておいた方がいい。
まず、ゲームの知識はほとんどない。先輩が楽し気にやっているのを後ろから眺めていたことはあるが基本的に寝落ちしていた記憶しかない。なので、基本は漫画の内容からということになる。
(まず、最初の魔法暴走事件は終わってる。次は……そう『魔物乱入事件』だ)
今更の説明だがこの世界には魔物がいる。これは魔法という概念から生まれるバグのような存在で、自然を破壊したり人に襲い掛かったり大体害がある。それで国は防護壁を物理的あるいは魔法的に構築し侵入しないようにしている。
この事件では何故か学園内に魔物が解き放たれてけっこうな被害が出る事件だ。そこで主人公ステラが魔物に狙われたところをオルソン王子に助けられて、そこからは光魔法で王子をサポートしながら魔物を撃退していくことになる。
漫画では魔法暴走事件で王子から一目置かれているステラなので、今回の件でさらに信頼を深めてお互いを意識し始めるのが印象に残っている。
(……そしてこの事件の首謀者は)
私の目線が横に向く。教室の窓側の真ん中にリーティア嬢が真剣に授業を聞いていた。ちなみに私の席はど真ん中である。どういう席のわけかたしているのか知らないが、これが主人公力である。
「ステラさん? 大丈夫ですか?」
と、リーティア嬢を眺めていたら教壇から声がかかった。
「あ、す、すいません……」
そこに立っていたのは優し気な雰囲気の眼鏡をかけた男性の先生だった。名前はアルティス先生、彼は魔法学の座学教師で誰にでも親切に接するのと雰囲気も中々イケメンなので女生徒から人気がある。
「色々と慣れないでしょうけど、よく授業を聞いておかないと置いて行かれますよ? 気を付けてくださいね」
「は、はい」
何やってるのよ、というリーティアの視線とクラスメイトのクスクス笑いが耳に届く。
「…………」
瞬間、先生の目が鋭く細められたのを私は見ていた。何を隠そう魔物乱入事件の主犯は彼だからである。
*****
「し、しんど……」
午前の授業が全て終わった段階で私はヘトヘトだった。何もしない時間が過ぎるというのは苦痛だ。
「何もしないんじゃなくてちゃんと勉強しなさいな。貴女ずっと上の空だったでしょう?」
「慣れない環境は精神に多大な悪影響を云々……」
「えっと……?」
机に突っ伏している私の元にリーティアとマリーシアがやってきた。マリーシアは初めて見る私の様子に困惑しているようだった。
「あまり気にしないでいいですわよマリーシアさん。ほら、一緒に昼食に行きましょう。食堂の場所とかわからないでしょう?」
「うぃー……」
ノロノロと起き上がりついていく。
「先生にも言われていましたけどちゃんと勉強しないと後から苦労しますわよ」
「……最悪リーティアさんが教えてくれれば、それでいいかも……」
「あのねぇ、まあ、教えるのはいいですけれど」
いいんだ、と思ったら何故かマリーシアさんが大きく反応した。
「えっ、リーティアさんに教えてもらえるんですか!? 羨ましい……」
そして嫉妬の目が飛んでくる。この人リーティアさん好きすぎじゃない?
「おや、皆さんこれから昼食かい?」
そんなやりとりをしながら歩いていたら前から例の先生が現れた。リーティアさんとマリーシアさんが優雅に礼をする。
「アルティス先生、ごきげんよう。ステラさんが初めてなので案内しようかと」
「そうか。二人とも親切だな。ステラさんは元々村に住んでいたみたいだが何か不便なこととかないかな?」
「うーん……? ええ、まぁ特には」
生活レベルは格段に上がってるし、まあまあよくしてもらっているから不便はない。学園の授業がなければいうことはない。
「先生も元は平民だったから、何か相談事とかあったら遠慮はいらないからね。それじゃ私はこれで」
そう言って優しく微笑むと先生は立ち去って行った。
「相変わらず優しい先生ですね……」
「ええ、私達も見習わないといけない立ち振る舞いですわね」
「…………」
まだ、事件が起きるか確定ではない。だけど、あの先生が「元平民」だからこそ、魔物乱入事件を起こしたということを知っている私は、どうしたものか彼女らの後ろで悩んでいた。
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