13.初めての学園
まさに悪夢である。基本的に私の根幹には動きたくないというさぼり魔が在中しており、大体はそいつのおかげで怠惰な日々を過ごしていた。
それなのに今はその悪魔の上に私は動かされていた。
「ご、ごきげんようリーティア様」
「ごきげんよう。ほら貴女もちゃんと挨拶して。こういうのは最初が肝心なんだから」
「は、はぁ……おはよう、ございます?」
朝食を頂いてから私はそのまま学園に連れていかれた。それは百歩譲っていいのだ。どの道さぼり限界なのはわかっていたし、登校するきっかけをくれたのは素直に感謝したい。
しかし、しかしだ。
「まずは職員室に行きましょう。ウェール先生はずっと貴女のことを心配していたんだから。それと頒布物も保管してくれているはず」
これではまるで母である。この世界の私の母親でもここまで過保護ではない。
「あ、あの、別に一人でもいけるんですけど」
「そういって一人にしたら面倒になって帰ってしまうかもしれませんわ」
「いや流石にそれは……うーん」
否定できないところが憎い。そのままウェール先生のいる職員室まで挨拶に行き、すごく感激している先生からたくさんのプリントなどなど受け取って、そして遂に私が学ぶ場所──つまり教室に辿り着いた。
「リーティアさん! 昨日の件は大丈夫だったんですか!?」
「あの時助けていただいてありがとうございました!」
教室に入るとクラスメイトほとんどが彼女を囲む。登校していた時も昨日の実習に参加していた学生が感謝のためによってきており人気者になっていた。
そんな集まってきたクラスメイトの面々は、リーティアさんの後ろにいる私に気づいたのだろう。すぐに察する者やしばらく誰かわかっていない者など反応は様々だ。
どうしたものか悩んでいたら振り返ってきたリーティアさんと目が合う。流石にクラスメイトに彼女を介して紹介されるのは恥ずかしいので、一歩前に出て頭を下げた。
「えっと、昨日まで体調など優れないところが多くて欠席していましたが、今は大丈夫になったので今日から通うことになるステラです。よろしくお願いします」
取り繕うのは得意だ。前世含めてこのスキルで何度修羅場を乗り越えてきたか。いや、そんな大層な物ではないのだけれど。
そんな私の挨拶にクラスメイトの反応は微妙である。そりゃそうだろう。そもそも公爵令嬢と一緒にいることからおかしいところであるし、元が平民だと知られているのか厳しい目線も感じた。
その後軽くリーティアさんに紹介してもらって自分の席に案内してもらった。なんというか既に心労が凄い。
「まあ、いきなり馴染むわけはありませんわね」
「帰っていいですか」
「ダメに決まっているでしょう。そうでしたわ、ステラさんに紹介しようと思っていた友人がいますの。マリーシアさん!」
彼女がその名前を呼ぶと藍色の髪の大人しそうな女生徒が反応した。そして私は彼女の姿に見覚えがあった。
「あ、えっと……はじめまして」
「ど、どうも。じゃなくて、はじめまして……」
声もどこか自信なさげで儚い雰囲気を持っている彼女だが、漫画では情報役として登場していた。
恋愛ゲームをやり込んでいた先輩が「ステータスや好感度を教えてくれる便利キャラはゲームに絶対にいるの! そういう決まりがあるからね!」と言っていたことを思い出す。
ゲームは知らないが漫画では最初孤立していたステラに色々とコッソリ学校のことなどについて教えてくれる相手だ。確かリーティアのことをある理由から嫌っていて、それでステラに協力してくれていたと終盤判明する。
「マリーシアさんは入学した際に知り合った方ですけど、いつも落ち着いていて物腰も柔らかく令嬢の鑑といっても過言ではない方ですの」
「え、いや、そんな……リーティア様に比べたら私なんて……」
そんな彼女はリーティアに紹介されて頬を染めながら恥ずかしそうに俯いた。
(全然嫌ってないよねこれ? むしろ逆!)
これで内心嫌いだっていうならこの世全てが信頼できなくなってしまう。
「私の自慢の友人ですからぜひ二人とも仲良くしてくれると嬉しいですわ」
「え、ええ、はい……私なんかでよければ」
「よ、よろしくお願いします」
なんとか挨拶するがまた漫画と違う設定が出てきたかもしれない。今日の夜、一度漫画で起きた事件事故を整理したほうがよさそうだ。
「そういえばリーティアさん、今日はステラさんと一緒に登校してきたのですね……朝食もいつもの時間にいらっしゃいませんでしたけど……」
「ああ、それは私がステラさんを起こしに行ったので遅れたのですわ。初めてですから案内もいるかと思って登校まで一緒に」
「えっ、リーティアさんが起こしに行ったのですか!?」
羨ましい……ボソリと呟かれたそれはどうやら私の耳にだけ届いたらしく、そしてマリーシアさんからは羨望の眼差し……これって逆に私が嫌われるパターンでは。
「なんだか放っておけなくて……でもステラさん、明日からはちゃんと一人で起きて登校するよう心掛けてくださいね」
「ぜ、善処します……」
マリーシアのジト目を何とか流していたら授業の鐘がなった。勉強は嫌いだが今に関しては最高のタイミングだった。
そんなわけで波乱(?)の学園一日目が始まったのだった。
いつも読んで頂きありがとうございます!
感想や評価など本当に励みになっております!
次回もよろしくお願いします!