10.ステラと王子様
一応男性が出てきますが、ガッツリ絡むことはないのでご安心(?)ください
やばいことをしてしまった。
「おい! 急いで怪我人の確認と救護班を呼べ!」
「は、はい!」
起こらないならそれでいいと思っていたが、まさか本当に起こるとは……私がいるとかいないとか関係なく物語はやっぱり進んでいるのだ。
ただ、今回は結末が変わっている。
「リーティアさんを保健室に運んで! 他、怪我をした生徒はいない!?」
咄嗟に氷の壁を咄嗟に作って生徒達を守った彼女は倒れてしまい、抱えられるとそのまま運ばれていく。
その後講師の人達が確認をしていたが幸いにも大怪我を負った生徒はいない。今回の事件の首謀者……というかちょっと何か大きなことをやってやろうぜと魔力を暴走させてしまった生徒達も、炎が外に向かって広まっていったおかげか逆に軽い怪我で済んでいた。ただふらついているところを見ると魔力欠乏症か何かだろう。ゲームでも確か魔法を使いすぎるとそういう症状になるという描写はあった。
「…………」
だけど今はゲームとか物語とかあんまり客観的に考える余裕はなかった。
「ステラさん……? その、大丈夫?」
「あ、はい……」
「あ、あのね、こういうことは滅多に起こることじゃないから……その、怖がる必要はないからね」
ウェール先生は恐らく私が今日のこれのせいで益々来なくなるんじゃないかと心配しているのかもしれない。確かにあの魔法の暴走は漫画で見るものより迫力もあったし、恐怖もあった。
だけど、何よりもやらかしたと思ったのは、彼女のことであった。
「先生、リーティア様は大丈夫でしょうか?」
「え? あぁ、そういえば少し交流していたのよね。あれは恐らく魔力を一気に使いすぎちゃっただけだからゆっくり休めば大丈夫よ」
「そうですか……」
結局その日の授業は当たり前だけど中断となった。
私もどうしようもないのでその日は帰らされて、気が付いたら夕方になっていた。
珍しく開けたカーテンから外を眺めて大きなため息をつく。
「……やらかしたぁ」
元々、あの事件で大きな被害を出さなくて済むんじゃないかとリーティア様に話したわけだが、その結果危険になったのは彼女であった。
じゃあ、何も言わなかったらと思うと被害はもっと大きなことになっていたかもしれないが、結果としては私のせいで彼女は倒れてしまったといっても過言ではないはずだ。
「はぁ、どうしよう。謝りに行った方がいいのかなぁ」
当たり前だけど謝ったって相手からしたら意味がわからないだろう。実際今回のことに私が関係しているわけではないからだ。
しかし、何の気なしに呟いた自分の言葉でこうなるとは思ってもいなかった。
「部屋は……管理人さんに聞けばいいとして……帰ってるかどうかも、管理人さんに聞けばいいか……」
滅多にない部屋からの外出である。でも一言何か伝えないと心にモヤモヤがずっと残りそうだった。
「おや? 君は……」
「え?」
そうして何とか第一歩を踏み出した私に声がかかった。この寮は女生徒専用だから絶対に聞くはずのない男性の声。
「お、オルソン……様?」
「こうして会うのは初めてだが知っていてくれて嬉しいよ」
知らないわけがない。そこに立っていたのは漫画での主役での一人でこの国の王太子殿下であるオルソン=ラドガルドだった。いかにもな王子様ルックスに輝かんばかりの金髪がむしろ眩しい。もちろん周りにはすごい数の取り巻きというか、数多の女生徒がいて声をかけられた私にナイフのような目線が刺さるように向いてきた。理不尽すぎる。
「そういう君は光魔法の適性があるのに学園に中々こない子だよね? よく彼女から話を聞いているよ」
「彼女ってリーティア様のことですか? もしかしてお見舞いに……?」
「察しがいいね。彼女とは立場上話すことが多くてね。今日の魔法実習の時間は私も参加していたんだが、彼女に助けられたものだからお礼とお見舞いにきたんだ。当たり前だがちゃんと許可を取ってね」
「そ、そうなんですか」
ということは彼女は部屋に戻ってきているわけだ。しかし、間が悪かったらしい。流石に「私もお見舞いに行くんですー」などと言って王太子と一緒に行くほど図太くはないし、何より絶対に面倒なことになる。
「君は? 滅多に部屋から出ないと聞いていたけど……」
「え、あ、あー、いやー、ちょっと学園に行くために少しずつ出てみようかと思って」
必死に脳を働かせて言葉を見繕う。
「なるほど。確かに環境に慣れようとすることは良いことだ。そうだ、それならついでにリーティア嬢の部屋まで共にお見舞いに行こうじゃないか」
「え、ええっ!?」
な、なぜそうなる!? 刺さるような目線がますます鋭くなって胃を貫通しそうだ。
「い、いやいやいや、私は大丈夫です! お二人の時間を邪魔なんてできませんし!」
「ん? そんなことはない。彼女も君のことはよく話しているし、お見舞いに来たと知ったら喜ぶはずだ。いや、もちろん何か予定があるなら無理強いはしないが……」
そしてこの質問も中々に卑怯だ。ここで断ろうものなら「王太子の誘いを断った生意気な生徒」の烙印を押されるだけ。となると、出せる答えは一つしかなく。
「わ、わかりました」
「よし、それじゃあ行こう。道中君の話も聞いてみたいしね」
いや、もう勘弁してください。そんな私の心境とは真逆でどこか楽しそうな王子と私はリーティア様の部屋に向かうことになった。
お見舞いには行くつもりだったし、色々と手間が省けたしここはもう得をしたと思うしかない。
「なに、あの子……急に出てきて」
「確か編入してきたとか噂の子じゃない?」
「生意気だわ……」
いや、損しかしてなかった!
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