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9 婚約破棄

 私は降りしきる雨の中、馬車を走らせていた。

 強い雨風が馬車にたたきつけられる。

 雨と土のにおいが私の鼻をついた。


「いったい、何なのかしら」

 私はそう言いながら、希望を持っていた。

 私は急遽呼び出されたのだ。


 ノーサンバーランド公爵家。この国で古来より続く貴族だ。

 領地は帝都より離れているが、今嫡男が帝都の屋敷に住んでいる。

 帝都には学園があり、そこに通うためだ。


 ヘンリー・ド・ノーサンバーランド。

 それは私の婚約者の名前だった。

 幼いころは遊んでくれた覚えがある。

 彼は6つ年上の18歳だ。


 交流があまりなかったが、将来はこの人のお嫁さんになるのだと思っていた記憶がある。

 今は前世の記憶を思い出したため、気持ちは少し薄くなっているのだが。

 それでも、彼への思いは甘やかなものに思えた。


 私の、過去の記憶と、過去の感情が揺れ弾む。

 私が困っている現状を、なんとかしてくれるのかもしれない。

 ヘンリーが助けてくれるかもしれない。


 しかし今の私の頭がこれはいい話でないと警告をする。

 もし私に対する気遣いがあるなら、手紙一枚で呼び出したりはしないはず。

 内容も記されていなかった。

 ただ『至急来るように』その一文である。


 しかし無視するわけにはいかない。

 格上の公爵家の長男からの呼び出しである。


 私は馬車の中で雨の音をBGMに、甘い夢想と、冷たい思考の中で揺れていた。


 途中で宿に泊まることも含めて、いくばくの時間が経過したのか。

 ようやく帝都についた。

 いくら私の領地が帝都に近いとはいえ、日帰りとはいかない。


 そのまま馬車を走らせて貴族街へ。

 大きな門をが見える。公爵家の屋敷だ。

 その門と広い庭に、威圧感を覚える。

 雨はさらに強く降り注いでいた。


 私とマッテオは門を通され、屋敷の中へと案内されて入る。

 傘はさしたものの、横殴りの雨にたたきつけられ、ドレスごと濡れていた。

 私たちは客間に通されていた。


 身体がぶるりと震える。

 雨にぬれてしまい、肌が冷たくなっていた。


 そのまま時間が過ぎていく。

 もてなしのお茶がでることもなく、身体を拭く布を渡されることもなく、私たちはただひたすらに待たされていた。

 マッテオが渡してくれたハンカチで多少水分は拭き取れたが、多少の慰めにしかならない。


「おそい、ですわね……」

「そうですな……。お嬢様をこんなにも待たせるとは」

 マッテオは静かに怒っているようだ。


 こんなにも待たせるなんて。

 もはや私に対する敬意のかけらすらも存在しない。


 ここで私の甘やかな記憶の過去からくる思考がいう。

 何かあったのかもしれない。だって彼がこんなことをするはずないのだから。


 そのまま数時間が過ぎたころ、ようやくお呼びがかかった。

 使用人に案内されながら呼び出された部屋へと向かった。


 部屋に入る。

 高級な椅子に机、絵画などの飾られた部屋だ。


 私は挨拶をしようと思った。だが、できなかった。

 その光景に目を奪われたからだ。


 私は唖然としてしまい、言葉がだせない。

 ヘンリーは一人ではなかった。

 その腕に、しなだれかかるように女がいた。


 美しい少女ではあった。清楚に見える顔に、それとは相反する肉感的な体だ。

 その体を惜しげもなくヘンリーに押し付けている。


 ヘンリーはまじめ腐った顔でいう。

「久しぶりだな。ラヴァル家侯爵令嬢」


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