52 アデライード
少し離れた位置で炎が燃える中、私はガブリエル皇子に向かって口を開く。
「……ありがとう存じます、ガブリエル皇子」
感謝の意を伝えると、ガブリエル皇子は微笑んだ。
「そうだね。感謝してくれよ」
と軽く聞こえるように言ってみせた。
彼なりの気遣いなのかもしれない。
「私はね、君に憧れたんだよアデライード」
「私に、ですの?」
「ああ。君のようになれたらな、と思った」
「……私のように……」
「でも、今回それは無理だと思ったよ。私は決してそこの彼を救うという判断はできない」
気を失っているフェルナンドを見てガブリエル皇子がいった。
正直私もできない。
原作『トワロマ』知識というチートがあるから、できることだ。
「私は法の執行者だ。だから決してできないだろうね。でも、アデライード。君のような考えを持つ人と協力するのは、それはそれは面白いものだと思う。君の考えをすべて無条件に認めるわけじゃない。私と君は同じ世界を見ているはずなのに、まったく違う世界を見ているみたいな気がするよ」
「まぁ……そうですわねぇ」
「これから先、どうするつもりなんだ?」
「まずはフェルナンドは死んだことにして、名前を変えさせますわ。彼は悪行を積み重ねすぎました。生きているだけで許せない人もいるでしょう。彼が死ねば溜飲が下がる人もいるでしょう。だから、彼は生きていてはいけませんの」
「……なるほど」
「それから、魔法契約書で行動を縛ります」
「そうか……」
「ええ」
ガブリエル皇子は少し考え込むように俯いた。
「私には君にできないことができる。だが、君は私にできないことができる。だから、君と私が協力しあえれば、それはとても良いことだと思う」
「そうですわね。私たちの考え方が違うからこそ、お互いに補うことができる。それは、私も感じますわ」
私は彼の理解と協力に深く感謝した。
炎と月の光が交差する、美しくも切ない夜景の中で、ガブリエル皇子は彼の意志を固めたかのように、まっすぐに私に向き合った。
彼は何か大切なことを私に言おうとしているようだった。
おそらくこれは気のせいだろうが、彼が、緊張しているようにも見えた。
燃え盛る庭園の炎が舞う夜空に、ガブリエル皇子の姿は神秘的に見えた。
炎の赤と、月明かりが彼の銀の髪を照らす。
彼の紅い瞳は月明かりで輝き、真剣さと優しさが混ざり合っていた。
彼の声は静かでありながらも力強く、周囲の火の音さえ掻き消していた。
「だからアデライード嬢――」
月が満ち欠けするように、彼の言葉はひとつひとつゆっくりと流れ出る。
「――私と――」
夜風が微妙に皮膚をくすぐり、私の心拍数を加速させる。
「――いや、アデライード――」
彼の言葉が私の心に響き、まるで夜空に光る星のように明るく輝いていた。
「――俺と結婚してくれないか――」
彼はまるで騎士のように膝を地につけ、私に求愛の言葉を捧げた。
その姿は月明かりに照らされ、神聖なほどに美しかった。
「だから私と――いや、俺と結婚してくれないかアデライード」
彼が告白をした瞬間、まるで時間が止まったかのような感覚に陥った。
彼の言葉は彼自身の深い愛情と献身が詰まっており、それは強く、純粋で、実直なものだった。
彼が普段使う言葉とは異なる「俺」が、彼の真剣さをより一層際立たせていた。
夜空に広がる無数の星々が、彼の真剣な願いを見守るように静かに輝いていた。
それはまるで、この瞬間が運命の一部であり、必然であったかのように感じさせる。
彼の告白は、静寂に包まれた月明かりの下、炎のように燃え上がっていた。
彼の心情が溢れ出す言葉は美しい夜景を背景に、なお一層ロマンチックな雰囲気を演出した。
私は彼の提案に対して驚きつつも、彼の瞳に映る真摯な感情を見つめ返した。
彼の言葉は皇子としての立場を超え、彼自身の心からの真実の願いであることを理解していた。
彼の言葉を聞き、私の心は高鳴った。
彼の想いが真実であることを感じ、それが私の心に響き渡った。
ガブリエル皇子としてではなく、一人の男としての彼が私に求愛しているその姿は、私がこれまでに見たことのない、新たな彼の一面を映し出していた。
私は、彼の言葉に、気持ちが揺れ動いて――。
そして――。




