51 ガブリエル皇子の判断
私は闇ギルドのマスターであるフェルナンドを勧誘した。
彼の行動原理はすべてが自らと妹のためだ。
それらを利用すれば、彼が裏切る確率は非常に低い。
そこに魔法契約も加われば、ほぼ間違いはないだろう。
しかし、ガブリエル皇子の懸念しているであろうこともわかる、
フェルナンド、彼はたくさんの犯罪をおかしてきたのだ。
それを許すというのは、法に反することだった。
「ガブリエル皇子、私の決断をお許し頂けませんか?」
私がいうと、ガブリエル皇子は一瞬言葉を失ったようだった。
たしかに私の提案は一筋縄ではいかないものだ。
「……私は、そこについて手を貸したくはない。私自身の判断でいえば、フェルナンドは確実に処刑すべきだと思う。いつ裏切ってまた悪事を働くともわからない。……だが、君の目には、まったく疑いの色が見えない。まるで、未来を見通しているかのように」
「はい。私は、確信しておりますわ」
私は胸に手を当て、ガブリエル皇子に言う。
熱風が私の肌をなでる。
「フェルナンドを見逃すというのは、法には反する……しかし……しかしだ」
ガブリエル皇子は一度言葉を切った。
「アデライード嬢、君がそれを選んだというのなら、一度は信じてみよう」
私は深く頭を下げた。
「ありがとう存じます、ガブリエル皇子。私のこの決断を、受け入れてくださって……大変感謝しておりますわ」
「ただし、これは一度だけのことだぞ、アデライード」
嬢とつけずに、アデライードと呼ばれた。そこに私は彼の本気を感じた。
彼の瞳はまるで、真夜中のラヴァル領でガブリエル皇子一行と戦った時のように、強い意志を持っていた。
だが私は気圧されることもなく、頷く。
「ええ」
「君がフェルナンドを制御できることを確信させてくれ。確信できなければ、私は私で動き、その男を始末する」
ガブリエル皇子は眉を寄せながら言った。
「約束します、皇子。フェルナンドが再び問題を起こすことはないでしょう。彼が裏切り、私の家族や国を害することは絶対にありませんわ」
それに対してガブリエル皇子は沈黙した。
彼の目には疑問があった。だが同時に、自意識過剰かもしれないが私に対する信頼も見て取れた。
「そうだと良いんだが…」
彼は最後に言った。
私は微笑みを返した。
「それは、私が保証しますわ」
動けないフェルナンドを運ぼうとすると、ガブリエル皇子が手を貸してくれた。
そして、燃え盛る庭園の外まで行くことができた。
帝宮の人たちが消火に一生懸命になっていた。




