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50 処遇

 私はガブリエル皇子と協力してフェルナンドを倒した。

 フェルナンドは血を流しながら、地面に倒れている。


 周囲の炎は次第に強くなっていっている。

 このまま放っておけば、フェルナンドは炎に巻かれて死ぬだろう。


 だが、私はフェルナンドを勧誘していた。

 彼の闇ギルドを急成長させた手腕と、原作攻略キャラとしての高スペックを求めてだ。


 断られたら、残念だが死んでもらうことになる。

 私は自分と弟と家門を守らなければならない。

 生かしておくことはリスクにしかならない。


「フェルナンド……。あなたの道はここで終わりにしますの?」


 彼の身体から流れる血は、止まらない。

 フェルナンドの目には闘志と絶望が混ざり合ったような複雑な感情が見て取れる。


「……だが、君は俺を殺すでしょう。なぜ今生かそうとしているのかが、理解できません」


「なぜそう思いますの?」


「君の弟を人質に取ったからですよ。君は、弟をとても大事にしています。違いますか?」


「……なぜ、ですの」

 完璧に隠したつもりではあった。


 フェルナンドは、く、と笑おうとして、血を吐いた。


「……上手く隠せていましたけどね。さすがに俺を騙すには、少し足りません」


「…………そう、ですの」


 私は炎に包まれた周囲を見渡す。

 フェルナンドにとって絶望的な状況だけど、彼が私を見つめる瞳には確かな意志がある。

 フェルナンドは私の弟を人質に取った、だから私は彼を許すことはできない。

 だけど、フェルナンドは手放すにはもったいない力を持っている。


「確かに、私の弟は私にとって大切な存在ですわ。あなたが彼を人質にしたという事実は許せません。けれど……」

 私は深呼吸をして言葉を続ける。

「それでも、あなたを利用したいのです。あなたの力、知識、経験を。私のために、私の家族のために。だからこそ、提案します。私の側で働いてくれませんか?」


 フェルナンドは苦痛に顔を歪めながらも、瞳に驚きが浮かぶ。


「一緒に戦いましょう、フェルナンド。私たちは似ていますわ。あなたが自分と妹を守るためにすべてを利用しようとしたように、私も自分と弟、そして家族を守るためにすべてを利用するつもりなのですわ」


 しかしフェルナンドは、信じてはいないようだ。

 彼は自嘲ように言った。


「信じる理由がありません。私の妹が次に殺されるのは、君の手によってです。君の弟を人質に取った俺を、君が信じられるわけがないですよ」


 確かにその通りだ。

 私たちは敵同士。

 理解し合うのは難しい。

 それでも私は言葉を続ける。


「だからこそですわ。フェルナンド。もしあなたが私の部下になるなら、妹さんも守ることができます。あなたは妹が一番大切なのでしょう? そうであるなら、私を裏切る理由がありません」


 フェルナンドは激しく咳き込みながらも、私を見つめた。

 その目には迷いと絶望が浮かんでいた。

 しかし、それだけではない。

 微かな希望の光も見える。


「このままあなたが死ねば、あなたの妹さんの庇護者がいなくなりますよ? 妹さんは、一人で生きていくことができるんですの?」


「く……」


「確実に妹さんが死ぬ未来より、せめて生きる可能性がある道を選ぶ方がいいのではないでしょうか?」


 私の言葉に、フェルナンドは瞳を伏せた。


「死ぬか、生きて私と一緒に戦うか。選択はあなたの手にありますわ、フェルナンド」


 私はそれ以上何も言わなかった。

 彼が自分自身で決断を下す時間を与えるために。


 だがタイムリミットは迫っていた。

 息が苦しくなってきている。


 フェルナンドは口を開く。

「そう、ですね……。魔法契約を、してくれませんか? 魔法契約で俺を縛れば、あなたは安心できるでしょう。そうすれば、俺が不信によって消される可能性は低くなる」


「ですが、あなたほどの人間を縛られる契約は……」

 魔法契約は、本人の『格』によって難易度が違う。

 生まれ持った資質があり、それを修練によって鍛え上げていくのだ。

 フェルナンドの資質はおそらく高く、さらに自らを鍛え上げてきているため、魔法で縛ることは相当難しい。


「俺の、拠点に、古代の魔法契約書があります……。それを、使えば、できるはずです」




 ガブリエル皇子が私を見ていた。

「アデライード嬢。フェルナンドは今までたくさんの悪事を働いてきた男だよ。それでも、連れて行くというのかな」


――あー……。そうですわよねえ。ガブリエル皇子は反対ですわよねぇ……。


 フェルナンドに対する提案を話したあと、私はガブリエル皇子の目を見た。

 彼の瞳には疑念と不信が浮かんでいる。

 彼は正義と法の象徴で、その基準に照らしてフェルナンドは間違いなく敵であった。


 だが私は、ガブリエル皇子が今までに見せてくれた寛容さと、私への理解を信じていた。




「ガブリエル皇子、私の決断をお許し頂けませんか?」

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