49 vsフェルナンド 2
燃え盛る炎の中、私たちはパーティ会場にいた。
私の前にいるガブリエル皇子がフェルナンドとにらみ合っている。
戦いの現状はこちらが不利だ。
いくらラスボス格のガブリエル皇子が味方をしてくれているとはいえ、彼は無手だ。
一方フェルナンドは短剣を握り、おそらく服の下にも暗器などを隠し持っているだろう。
そう考えていると、フェルナンドが短剣を投擲してきた。
ガブリエル皇子が近くのテーブルクロスを引いて、布で短剣を絡めとる。
そして、テーブルクロスをフェルナンドに投げつける。
「こっちへ!」
ガブリエル皇子はそういって私の手を引く。
炎の中を二人で走る。
後ろからフェルナンドが追ってきているのがわかる。
私は視界の端に、ローストビーフを切り分けていた使用人が使っていたカービングナイフを見つける。
それは燃えるテーブルの中においてあった。
――熱っ……!
私は躊躇せずに炎に手を突っ込み、ナイフを握る。
手袋が焦げる匂いがした。
「ガブリエル皇子!」
私はそのカービングナイフを皇子に渡す。
ガブリエル皇子はそのナイフを受け取り、後ろから飛んできた短剣を撃ち落とす。
そこからはガブリエル皇子とフェルナンドの戦いが始まった。
心もとない武器で応戦するガブリエル皇子は次第に不利になっていく。
私はその銀と黒のぶつかり合う戦いを見つめていた。
思い出したのは、ヴォルフが行った訓練だ。
私は直接戦闘の技法はまだ持っていない。
いずれ身に着けたいとは思うが、そんな時間はなかった。
だから行われた訓練は、相手の攻撃をよく見て回避すること。
そういった目を養った。
その目だけはヴォルフにも非凡だと褒められた。
私は激しくなる二人の戦いを見ていた。
そして、ガブリエル皇子のカービングナイフが折れる。
上手く攻撃をいなして使っていたようだ。むしろよくここまで持たせたともいえた。
ガブリエル皇子は近くのチーズナイフや椅子など、様々なものを使って応戦している。
次第に押され始め、ガブリエル皇子の敗北が見え始める。
だけど、私には別の物が見え始めていた。
フェルナンドが短剣でガブリエル皇子を刺そうとした――その瞬間が見えた。
身体の動かし方や雰囲気から、いつ『来る』かが、私には見えていた。
「あなたもこんな愚かなことをしなければ長生きできたでしょうに」
彼はスローイングダガーをガブリエル皇子から見えづらい場所から投げようとする。
「ガブリエル皇子! 右足ですわ!」
私の声を聞いたガブリエル皇子は、そのスローイングダガーを回避する。
私は暗器の攻撃を見破り、ガブリエル皇子に伝えていく。
戦闘がわずかに勝利に向けて傾いた。しかし、それでもまだ、有利なのは依然としてフェルナンドだった。
「これで終わりです。ガブリエル皇子!」
フェルナンドの短剣が、ガブリエル皇子の腹部に刺さろうとする――その瞬間。
フェルナンドの背中に石がたたきつけられた。
私が投げたのだ。
ガブリエル皇子の長い脚から繰り出される蹴りがフェルナンドに突き刺さる。
不吉な男が跳ね飛ばされる。
フェルナンドはすぐに反撃に移ろうとするが、その攻撃の開始のタイミングを私が見抜き、石や食器、近くにある何もかもを投擲して潰していく。
私、アデライードは元々原作の敵役のネームドだった。
それは相当なスペックを有していることを意味する。
だが、その攻撃は決してフェルナンドを倒すには十分ではない。
それは彼の攻撃を遅らせ、ガブリエル皇子が反撃する時間を稼ぐだけのものだ。
しかし、これが逆転の糸口となった。
フェルナンドの短剣が再びガブリエル皇子を狙う。
私はすでにその動きを読んでいた。私は手に取った最後の石を、最大の力で投げつける。
石はフェルナンドの手元に命中し、彼の短剣は振り絞った力で彼自身の足元に刺さる。
痛みと驚きで一瞬、彼は防御の手を緩める。
その一瞬が、全てを決する。
「これで終わりだ、フェルナンド」
ガブリエル皇子の声が響き、彼の拳がフェルナンドの腹部に突き刺さる。
フェルナンドは激しい痛みに膝を折り、ついには地に倒れ込む。
戦いはここで終わりだ。
ガブリエル皇子の勝利だ。
そして、私の勝利でもある。
フェルナンドは地面に伏し、体中から血を流している。
私は彼の元へと歩み寄り、言葉を投げかけた。
「一応最後に聞いてあげるわ。私の下につかない? フェルナンド」




