フェルナンド・ダークウッド
フェルナンドは自身の豪華な部屋で、一見して高価とわかる椅子に座っていた。
部屋は上品な家具と、素晴らしい美術品で飾られている。
フェルナンドがいるだけで、その部屋は不吉の象徴のような雰囲気が漂っていた。
陰惨な殺人事件でも起こりそうな空気があった。
フェルナンドは部屋の隅を見る。
部屋の片隅には鎖で縛られた幼い男の子がいた。
それはラヴァル家の長男、ルイだった。
ルイはおびえるような目をフェルナンドに向けてきていた。ルイの紅い瞳は恐怖で満ちている。
そんな表情を浮かべているルイを、フェルナンドは感情のこもらない目で見た。
そこ表情だけで、ルイに何の感情移入もしていないことが伝わるような視線だ。
「ルイでしたか。君は幸運ですね。ずっとぬくぬくと、屋敷の中で育てられて。ただ無為に時間を過ごすだけで生きていける」
ルイは怯えのこもった目でフェルナンドを見る。
フェルナンドの言葉は淡々としていて、ルイの恐怖を煽ったのだ。
フェルナンドは椅子から立ち上がり、部屋の一角に飾られた絵を手に取った。
それはフェルナンドと彼の妹、フェリエが描かれた美しい肖像画だ。
フェリエは明るく微笑んでいた。
そしてフェルナンドもまた、笑顔を浮かべていた。
もしアデライードがみたら『え。これ誰ですの?』と言いそうな笑みだった。
兄妹の仲の良さが伝わる一枚だった。
フェルナンドはその肖像画を両手で優しく持つと、目を閉じた。
このときばかりは、彼の持つ不吉さも少しだけ薄まっていた。
「フェリエ……。君にはわかってほしいですね。いや、最後まで知らないでいてほしい。知ってほしいというのは、俺のエゴでしょう。君のために、俺はなんでもするつもりです」
フェルナンドは、自分だけに聞こえるように静かに誓った。
そして再びルイを見つめる。
その様子には、ひとかけらの優しさすらも感じられない。感じられるのは不吉さだけだ。
フェルナンドは感情の一切含まれない声でいう。
「君は駒です。君のおかげで、私の計画は進行します。ありがとうルイ。お礼に、用が済んだら苦しまないようにしてあげましょう」
その言葉はルイを道具としてしかみていない証拠だった。
そして、最後にルイは殺されてしまうのだろうということを伝える言葉でもあった。