41 ルイ
ことが起こったのは静かな朝だった。
アデライードは書斎で、来るべき帝宮のパーティでの行動計画を練っていた。
だが、その静寂は突如として破られた。
「お嬢様!」
老執事マッテオの声が響いた。
その声には、彼が普段見せる落ち着きはまったくなかった。焦りと、緊迫感がにじんだ声だった。
私は、マッテオがそんな声を出したのを初めて聞いた。
「何が起こったのかしら? マッテオ。そんなに慌てて」
て
私が尋ねると、マッテオが顔をゆがめて言った。
「……それが、ルイ様が……」
その言葉に私のおなかの奥が冷えた。
氷が直接胃の中にぶち込まれたような感覚。
「ルイが!? ルイが、どうしたの!?」
私は椅子から転げ落ちるように、マッテオにつかみかかった。
「……ルイ様が、誘拐されました」
「……そんな」
私はずるずると滑り落ちるように、床に膝をついた。
「そんな、馬鹿な話が……」
「残念ながら、事実のようです。ルイ様はメイドのアンナと共に庭にいたらしいのですが。何者に襲われ、連れ去られたようです。アンナは庭で倒れておりました」
「…………警備の傭兵は?」
「傭兵たちは反応しました。しかし、それが信じられないことに、全員倒されていました。予想外の事態です。襲撃者、もしくは襲撃者たちは非常に強く、事前に計画を立てていたと思われます」
「……そう」
私は息をはいた。
「今すぐ探しに行くわ! マッテオ!」
とマッテオにいうが、マッテオは
「こんなものが、落ちていました」と手紙を差し出してきた。
名前のない封筒を破るように開いた。
中には手紙が入っていた。
内容は脅迫状だった。
弟は預かったというものと、今夜のパーティでこちらの手のものと踊り、婚約するように、とのことだった。
「……ぐ」
私は歯噛みする。
歯の根が割れてしまいそうなほどに強く。
フェル……ナンド……。
先に叩き潰しに行くべきだった。
けれど、今更そんなことを言っても意味はない。
私は原作と違って、ヴォルフとその傭兵団という戦力を手に入れていた。
だが、原作ではいなかったルイという要素がどう転がるかを考えられていなかったのだ。
自分の無能さに嫌気がする。
この状況は、フェルナンドが導いたもの。
許さない。
絶対にルイを取り戻す。
そして、フェルナンドの計画を阻止する。
そのためにはどのような手段も使って見せよう。
だって私は狂犬を超えた悪魔になるのだから。




