38 帝宮からの招待状
私は自分が爵位継承の資格があることを証明するために社交界へと出た。
しかしその社交界にはあの元婚約者ヘンリーが乱入してきたのだ。
なぜか私を婚約者に戻そうとしてきて。
そして浮気相手だったカロリーヌも、それを応援していたのだ。
私は意味がわからなかった。
だが、そのような話を受けるわけがなかった。
私はヘンリーに婚約破棄され強く侮辱されたのだ。
元に戻るなんて、何があってもできるわけがない。
私は断り、ヘンリーが金で解決しようとしたことを周囲に喧伝した。
するとヘンリーとカロリーヌは悔しそうに会場を去った。
『帝宮のパーティで君と僕は踊ることになる』。
そう言い残して。
私が帝都の屋敷に戻って数日が経った。
馬の駆ける音が聞こえて窓の外を見ると、男がやってきた。
その身にまとっているのは、帝宮からの使者だと知らせる公式の紋章を施した制服だ。
彼は門をくぐり、馬を使用人に預けると、使用人に案内されて屋敷の中へと入ってきた。
いったいなんだろう、と私は思った。
私は客間で彼を出迎えた。
私が知る限り、ラヴァル家にわざわざ帝宮から使者がやってきたことは一度としてなかった。
ラヴァル侯爵家は、かつてはこの帝国でも栄華を誇った名門だった。
だが私が産まれるころにはすでに没落一歩手前だったのだ。
使者は使用人に連れられて、客間にやってきた。
彼は良く通る声で丁寧に言った。
「アデライード・ド・ラヴァル殿。これはあなたへの手紙です」
私は優雅に見えるように立ち上がり、使者から手紙を受け取ります。
それは立派な封筒に入っており、意匠のこらされた封蝋がしてあった。
帝宮からの公式な手紙だった。
私は中を確認して尋ねる。
「これは帝宮のパーティへの招待状ですね」
「はい。アデライード殿。間違いありません」
「返事はいつまでに?」
「三日後までにご返答を。もちろん今でも構いません」
私は複雑な気持ちで心が満たされた。
一つは喜び、社交界への入っていくのは困難ではあったが、爵位継承の下準備が上手くいっている証だ。
そしてもう一つは緊張か、恐れか。避けて通れない二つの影、ヘンリーとフェルナンドの存在が心にのしかかった。
「ありがとう存じますわ。ゆっくりと考えてみたいと思います」
使者はよく訓練された人物なのか、その返事にどのような感情も示さず、頷いた。
「承知いたしました。それでは返答お待ちしております。では、失礼いたします」
そう告げて使者は帰っていった。
まだ午後になって早々。
帝宮からの使者がラヴァルの屋敷から出立する音を聞いてからというもの、私の頭はずっと招待状の事でいっぱいだった。
さて。どうするべきかしら。
といっても行かないという選択肢は、よほどのことがなければないのだけれど。
私が部屋に戻ると、私の部屋の中にはルイがいた。
「ねえさま、さっきの人はなんだったの?」
「帝宮からの使者よ」
「すごいねぇ」
ルイはわかっているのかいないのか、感心するような声を出した。
「そしてこれが、帝宮からのパーティーへの招待状ですわ」
「おうきゅうから呼ばれるなんて、ねえさますごいね!」
「……そうね」
確かにその通りだった。ここ十数年のラヴァル家では考えられないことだった。
「でもそこには、私たちを狙っている人がいるわ。ヘンリーがね」
「ねえさまにこんやくはき、したやつ!」
ルイは怒った様子をみせた。
もしかしたらメイドあたりから何か聞いたのかもしれない。
「そんなねえさまにいやなことしたやつがいるところには、いかないほうがいいよ!」
私は首を横に振る。
「だけど、私は行かなくてはなりませんわ」
「どうして?」
「家門のために。あなたのために。この屋敷のみんなのために。そして、何より私のために」
その夜、私はベッドで横になりながら考え事をしていた。今の私にはフェルナンドとヘンリーの問題を解決する力があるだろうか?
わからない。
だけど、だからと言って何もしないでただ見ているわけにはいかない。
一度決めたからにはただ進むだけだ。
次の日、突如として現れたガブリエル皇子の手紙が私の元に届いた。
皇子が何を書いているのか見てみると、私は不思議な納得感に包まれた。
それはフェルナンドが何かを企てているという情報だった。
ガブリエル皇子はフェルナンドの行動を怪しんでいた。
そして、その彼が私に警告を送ってくれたのだ。
手紙にはこう書かれていた。
『アデライード、フェルナンドが何かを計画しているようだ。詳細はわからないが、彼の周囲に注意することを忘れないでくれ。帝宮のパーティーで何が起きるかわからない。でも、君なら何とかなるはずだ』




