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狂犬令嬢は悪魔になって救われたい~婚約破棄された令嬢に皇子様が迫ってくるけど、家門のほうが大事です~【完結です!】  作者: もちぱん太郎


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36 社交界でアピールしますわよ!

 私が襲撃者に出会ってから、数日が経過した。

 私は社交界にでなければならなかった。


 爵位継承にきてんのに、そんな暇あるの? と思うかもしれない。 

 違うのだ。


 この社交界こそが爵位継承において、それなりに役割を担っているのだ。

 ややめんどくさい話をすれば、貴族社会において社交界はコネづくりや情報交換など様々な役割がある。

 古来よりのルールと慣習である。


 だから社交界すらまともに扱えない貴族は、爵位を得る資格がない。

 ということになる。


 特に私なんかは未だ十二歳。

 さらに邪魔をしようとする人間が一定数いるらしい。

 なればこそ、瑕疵は少ないほうがいい。


 とゆーことで、私はその日、マッテオとヴォルフを護衛として連れて、とある公爵の屋敷へと向かった。




 夜が深まり、星が帝都をつつむ。

 帝都でも有力な貴族の一人、フレデリック・ヴァルドヴィア公爵が主催する社交イベントが開かれたのだ。


 屋敷が豪奢なものであり、その美しさによって、フレデリック公爵の名声は帝都全体に広まっていた。

 彼の開くパーティは常に華やかで、社交界を引き付けている。


 アデライードはドレスに身を包み、会場へと足を踏み入れた。

 すでに貴族たちは集まり歓談をしていた。


 貴族の子供たちは子供同士で集まって、何かの話をしたり、食事を楽しんだりしていた。


 アデライードは子供たちの集まりには目もくれず、大人の貴族たちに近づいていく。


 大人の貴族たちは絵画を見ながら、その作品について語っているようだった。


「さすがは公爵。素晴らしい絵画をお持ちだ」

「まことに。これはいったい誰の作品でありましょうな?」


 貴族たちはマナーや知識を競い合うことがある。

 それは自分たちがきっちりと教育を受けた存在であり、平民とは違うという線を引く行動であった。

 マナーを知っているから偉い! ということではない。マナーを知っているということは、マナー以外のことについても教育を受けているということの証だった。


 アデライードはその会話に入っていく。


「それはなんとも美しい絵画ですわね、デュポン子爵様。おそらくヴィゴーの作品かと思いますわ」

 私の、幼さの残る声に、貴族たちは少し驚いた顔で振り向いた。


「おお。あなたは……?」

 デュポン子爵は尋ねてくる。彼は少しでっぷりした、中年の貴族だった。


「私はアデライードですわ。アデライード・ド・ラヴァルです。この度は父が亡くなり、侯爵の爵位を継承するために帝都に参りましたの。皆様の楽しげな話し声に誘われて、つい声をかけてしまいましたわ」

 そういった後一人ひとりの顔を見ながら、名前と爵位を当てていく。

 帝都に来るにあたり、貴族たちの名前と顔、爵位はずっと勉強していたのだ。

 また、教養の面についても、耳から血が出るほどに学習してきた。


「おお。お見事。それにしても、そのお歳で爵位継承ですか。それは大変なことですね」


 デュポン子爵がびっくりした様子でいう。

「あなたはまだ若いのに、すでに芸術について深い理解をお持ちなのですね」

 それは、子供に対するものではなく、一人の貴族として扱ってくれるような態度だった。


 そして試すようにいった。

「アデライード嬢、この絵画はどう思いますか?」

 デュポン子爵は私に向けて、壁に掛けられた絵画を指差す。

 彼は貴族として社交界でやっていけるかどうか、教え導いてくれるような様子だった。


 彼が指示した絵画は壮麗な風景画だ。

 深い青の空に広がる雲、緑豊かな森。

 そしてその中心に静かに流れる川が描かれている。

 川辺には若い女性が描かれており、彼女は穏やかな表情で水面を見つめていた。


「実に美しいですわね」

 私はじっくりと味わうような声で言う。


 少し絵を眺めてから口を開く。

「この色彩の調和、そして女性の表情。まさにヴィゴーの作風と言えますわね。彼の作品ではよく、静寂と調和、そして自然の美しさに重きを置かれています。それが彼の作風の一つですわ」


 デュポン子爵は驚いた顔で私を見つめた。周りで話していた貴族たちもだ。

「おお。その知識、そして審美眼は驚くべきものですね。この絵は、確かにヴィゴーの『森と川辺の女性』という作品です」


 私はなるほど、と頷いた。

「確かにヴィゴーは自然と人間の調和をうまく描くのが得意ですわね。その証拠にこの女性の表情は自然に対する恍惚とも言えるような穏やかさを表していますわね」

 と私は絵画の詳細を評価しました。


 自信満々にいってみてはいるが、実はそこまでの自信はない。正答率が8割あればいいかな、くらいだと思う。

 だって時間がなかったんだもん、と私は脳内で誰かに言い訳をした。


 その言葉を聞いたデュポン子爵は、更なる驚きと尊敬の念を顔に浮かべる。

「なんと深い洞察力。アデライード嬢、あなたはまさに貴族の教養を体現しておられますな」


 周囲の貴族たちも、私の見る目の正しさと論評に、一目おいたように見えた。


 私は貴族たちと、絵画とその背景について話していた。

 しかし、その会話は突然途切れた。


 なぜなら、静かな会話は傲慢な声によって打ち消されたからだ。

 会場の空気が一変する。


 ヘンリーが現れたのだ。


 彼はその品性とは反対の上品なスーツを身にまとい、横にカロリーヌをつれていた。

 カロリーヌもまた艶やかなドレスを身にまとい、ヘンリーにくっついている。


「アデライード。懐かしいね


絵画とその背後の意味について話し合っていると、突然アデライードの話が途切れました。静かな会話は、傲慢な笑い声によって打ち消され、会場の空気が一変しました。ヘンリーが登場したのです。


彼は上品なスーツを身にまとい、カロリーヌを引き連れていました。彼女もまた、艶やかなドレスを纏い、ヘンリーにくっついていました。


「アデライード、なつかしいな」


 ヘンリーの声は上機嫌であり、ある種の馴れ馴れしさが混じっていた。それはまるで私に対する所有権を示すかのように感じて、私は不快になる。

 これが婚約破棄した相手の態度だとは信じがたいほどに、不適切な態度だった。

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