31 穏やかな時間
私はマルクを倒した後、一息つくことができた。
マルクの手下の悪徳商人たちはガブリエル皇子が一掃した。
また、マルクの息がかかった衛兵たちもそのほとんどを追い出すことができた。
そして屋敷にいた裏切り者の騎士たちも、その大半を追放した。
まだやらなければならないことはまだあるが、それは今すぐではない。
爵位継承用に提出する書類の準備が終わるまでは、ゆったりとした時間を過ごすことができるはずだ。
もう親族も、爵位を狙ってくる可能性は低いだろう。
ある日私は弟ルイの幸せを願いながら、庭園で一緒に遊んでいた。
「ねえさま、こっちだよー」
ルイがぱたぱたと駆け回る。やわらかな金の髪がなびいていた。
「ルイは足が速いですわね」
そういいながら私はゆっくりと追いかける。
以前よりもルイの足が速くなっている気がする。
身長も伸びてきている。
そんなことを考えながらルイを見ると、彼は振り返ってニパっと笑った。
「ねえさま、おそいよー」
「うっ」
輝く笑顔だ。かわいすぎる。
私はルイのあまりの可愛さに立ち眩みを起こしそうになった。
「ねえさま!? 大丈夫!?」
びっくりしたルイがこちらへと駆け寄ってくる。
近寄ってきたルイを捕まえる。
「ふふふ。引っかかりましたわねー!」
引っかかるも何も立ち眩みは本当だ。
だが、罠ということにしてごまかす。
「ねえさま、ずるいよー」
きゃははとルイは笑いながら言った。
私は久しぶりに穏やかな日々を過ごしていた。
その日の夜だ。
私たち姉弟は窓辺に座りながら、星空を見上げていた。
瞬く星々を見ながら息を吐く。
「星の光に願いを託せば、奇跡は舞い降りる、ですわ」
私が言うと、ルイは首をかしげてこちらを見た。
この世界の他愛ない言い伝えの一つだ。
星の光に願いを託すことで、奇跡が起こると伝えられている。
星々の輝きが願いを受け取り、宇宙の力が奇跡を起こすと信じられているのだ。
だから人々は星の光が最も輝く美しい夜に、静かな場所に行く。
そして星たちに向けて願いを込めて祈るのだ。
その言い伝えを思い出してしまうくらいの、きれいな夜だったのだ。
私はその言い伝えをルイに説明してから尋ねる。
「ルイはどんな願いを叶うのかしら?」
「ぼくは、ねえさまとずっと一緒にいたいよ。あとね、ねえさまが幸せだとうれしいな」
――あああああああああああ! なんて! なんてかわいいんですの!? うちの弟最高!!!!
私は可愛さの過剰摂取により心中で吐血しながら、それを隠して弟にいう。
「私も同じですわ。ルイ。ずっと一緒にいて、二人とも幸せになりましょうね」
この願いが、星に届きますように。
◆ ◆ ◆
それからしばらく後、私は屋敷に最低限の人員だけ残して帝都に行った。
もちろんルイやマッテオ、傭兵たちも一緒である。
爵位継承の準備が整ったのだ。




