27 マルク邸
衝撃でしたわ。
『トワロマ』でかなりお気に入りのキャラクターだったヴォルフが、まさか、口調が荒いから恥ずかしくてしゃべれなかっただけの騎士だったなんて。
たしかにサブキャラで会話イベントもほとんどなかったから、想像するしかなかったけれど。
ヴォルフの見た目を整えさせたら、そんな事実が発覚しましたの。
まぁそれはともかく、そんな感じで見た目を整えさせた傭兵たち五人を連れて、マルクの屋敷に乗り込んでいるのですわ。
それに加えてヴォルフとマッテオもいますわね。
とゆーことで、私はここでマルクとの決着をつけるつもりですわ!
そしてマルクは私にこんな無礼なことを言ったんですの。
「ああ、なるほど。君は幼いのに、よほど好きものらしいな」
イケメン騎士たちを連れてるから、男好きだとか。
そんなつもりはまったくありませんのに!
マルクは屈強そうな護衛を五人ほどつれている。またここはマルクの屋敷の中なので、呼べばいくらでも相手の戦力は出てくるだろう。
「では、こちらへ来るといい」
というマルクの言葉に従い、しおらしーく、ついていく。
歩く姿はまるで繊細で可憐なコスモスのよう。
たぶん、そんな感じ。
その途中で、マルクの娘と思しき女の子がでてきた。
フリルわっさーな服をきている。
大きなうさぎのぬいぐるみを抱えている。
「あなたがアデライード?」
少女は見下すような視線を向けながら、口元に手をあててくすくすと笑った。
「はい。はじめましてですわ。私はアデライード・ド・ラヴァルですの」
少女は自分の名前すら告げずに言ってくる。これはかなり無礼なことだ。
「あなたは運よく貴族の家にうまれたの。わかる? さいのうのない、くだらない女よ」
少女はアデライードにそんなことを言ってくる。
「そうかもしれませんわね。でも才能があるかないかは、自分ではなく周りが判断することですわ」
「あたま悪いこといってないで、だまりなさい。ばかはマルグリッドのいうことをきいてればいいの」
どうやら名前はマルグリッドというらしい。
それからマルグリッドは私の後ろに控えるイケメン騎士団を見て目の色をかえた。
ふすーっと鼻息を荒くして、騎士たちを見ている。
「いいじゃない。アレ、わたしがもらってあげるわ」
「それは私が決めることではありませんわ」
「ねえ! あなたたちも、そう思うわよね! こんなばかな女にしたがう価値なんてないって。こんなくだらない女より、マルグリッドにつかえたほうが、みんないいって思うわよね!」
そんなふうに騎士たちに問いかける。
しかし騎士たちは何も返事しない。
それはそうだ。
私が決して口を開かないように厳命したからだ。
なぜって?
そりゃぁ……こんなイケメンたちなのに口を開けば「あっし」とか「おいら」とか言い出すのだ。
口調だけで騎士ではないことがばれてしまう。
「ちょっと! 何か言いなさいよ!」
怒った様子でマルグリッドは言い募るが、私の護衛たちはみんな沈黙を貫いている。
どうしたらいいんです? といった視線を投げかけられるが、スルー。
マルグリッドは何度か地面を踏みつけて、護衛たちを強くにらんだ。
「わかった。もういい。覚えてなさい。マルグリッドに逆らったこと、絶対後悔させるから」
そういってどすどす足音を立てて、彼女は屋敷の奥へと入っていった。
「だいぶ怒らせてしまったみたいですな」
「どうでもいいわ」
小声でマッテオと会話を交わす。
マルクが話しかけてきた。
「あれも君の娘になるんだ。ちゃんということを聞くんだぞ」
ぞぞぞぞぞぞ、と背筋に大量の虫が走り抜けるような、とんでもない気持ち悪さを感じるようなセリフを言われてしまう。
私はその気持ち悪さをこらえながら返事をする。
「……はい」
たぶん屈辱を堪えてるような声になったんじゃないかと思う。きっと。




