表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狂犬令嬢は悪魔になって救われたい~婚約破棄された令嬢に皇子様が迫ってくるけど、家門のほうが大事です~【完結です!】  作者: もちぱん太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/64

26 解釈違いですわ!!??

 私が夜遅くに屋敷まで帰ってくると、弟のルイが庭園で出迎えてくれた。

 ルイは私に抱き着くと夜空がきれいだといった。


 私も見上げてみると、それはそれはきれいな星空だった。

 こんなことにも気づかなくなるくらい、私は余裕がなかったらしい。

 そのことを弟は気づかせてくれた。


 さすが私の弟!

 世界一かわいいですわよ!!


 少し余裕を取り戻した私は、マルクを倒すためにマルクへお手紙をだしたのだ。

 今度遊びに行きたいです☆ ってね!




 そんなわけで翌日だ。

 私の目の前には、ヴォルフがいた。

 髪の毛も髭ももっさもっさの、むさいおじさんだ。

 しかしその腕は一流である。


 あのラスボスであるガブリエル皇子といい戦いをしたマッテオが、以前ぼそりとつぶやいていたことを私は忘れていない。


『全盛期の私でも、苦戦しそうな腕前ですな』

 ということは、彼も超つよつよキャラなのである。


 しかしこんな見た目と名前のキャラは知らないので、ランダムエンカウント用に自動生成されたマップボスのような存在かと、私は疑っている。


 原作の『トワロマ』にヴォルフという寡黙な二枚目で甘いマスクの騎士はいた。

 だが、間違ってもこんなおっさんじゃないのである。


 二つ名は『沈黙のヴォルフ』だ。

 間違ってもこんな『ガハハ』と笑っているおっさんじゃないのである。


 ゲーム中では『沈黙のヴォルフ』のヴォルフにはかなりお世話になったし、正直かなり好きなほうだった。

 彼のエピソードはなかったので想像するしかなかった。


 きっと過去につらい出来事があって口を閉じているのだろう。とか。

 あの端正なマスクは育ちの良い貴族の出なのだろう。とか。


 暗い過去! 抱えた闇! 傷ついた心!

 表情一つ動かさず悪いこともやっちゃうのがクール!


 まぁ、表情は想像でしかないのだが。


 いつか彼と出会ったら仲間にしたい。

 ヴォルフが二人になって紛らわしいかもしれない。


「そんで、なんで俺が、こんなことになってんだよ。お嬢」

 と、むさいほうのヴォルフがいった。

 彼はめんどうくさそうな顔で、椅子に座っていた。


「もうすぐ私の護衛任務があるから、そのむっさい見た目をなんとかしてもらいますわ!」

 近くにいたメイドのアンナがハサミをちゃきんちゃきんと鳴らした。


「は!? いや、待て。俺ぁこの姿気に入ってんだ!」

 とヴォルフが思わぬ抵抗をする。


「ま、ま、ま。ヴォルフさん。大丈夫ですわ!」

「何を根拠に言ってんだお嬢! やめてくんねえか!?」


 慌ててるヴォルフに私はいう。

「なんとかお願いできません? 今度、マルクの家に行くんですの」

「……マルクって、お嬢に婚約を申し込んだっていうおっさんか?」


「ええ。それで、ヴォルフみたいな強そうな人を連れて行ったら、警戒させちゃうんじゃないかと……」

 多少言葉を選んでいった。

 山賊みたいな人間をつれていったら、きっと誰でも警戒するだろう。


 ヴォルフは眉をしかめて、頭をぼりぼりかいた。

 そのまま大きくため息をつく。

「仕方ねぇなぁ……」

 嫌そうに言った。


 アンナがいう。

「では、はじめますね」

 アンナは散髪が結構うまいのである。昔は散髪などはプロの人間を屋敷に招いて行っていた。だが、自由になる金銭が少なくなってきたため、使用人に切ってもらうようになったのだ。

 アンナは使用人の中でも散髪がうまく、私も弟もよく切ってもっているのだ。


 ちょきちょき。


 ヴォルフのもさもさの前髪で隠れ気味になっていた目が見える。

――やっぱり、山賊に似合わないキレイな目をしていますわね。


 ちょきちょきちょきん。


 だんだんとこざっぱりとしてくる。


――は? はぁ!?


 前髪や、横、後ろも切られていく。


――う、うそですわ????


 ちょきちょきん。


 髪が短くなっていくヴォルフは、印象が全然変わっていく。


「……ヴォルフ、あなた、何歳ですの?」

「二十四だが?」

「はぁぁぁ!?!?!?」

 四十くらいかと思いましたが!?


――というか、なんか、見たことある顔なんですケド???


「それにしてもお顔の印象全然違いますわね」

「あー……。ナメられっからなぁ……。この顔、好きじゃねえんだわ」


 もしかして『沈黙のヴォルフ』……?

 いやいやいや。


「ヴォルフさん。あなたご兄弟とかいらっしゃいます?」

「ああ。いるけど。どうしたんだ急に」


「もしかしてその方の名前もヴォルフだったり?」

「……兄弟で同じ呼ばれ方とかねえだろ」


「ですわよねえ」

 私は大きく息をはいた。


 アンナがようやく切り終えたみたいで、腕で額を拭っている。

「すっごい美男子ですね! 別人みたいです!」

 ヴォルフの変身具合にテンションがあがってる。


 髪とヒゲを整えたヴォルフは、それはそれは甘い顔の美男子だった。

 口をあまり開かなければ、その微笑みだけで多くの子女をトリコにできそうな、そんな顔になっていたのだ。


「……ヴォルフさん」

「さん……?」


「あなた、前に私の騎士になるの渋ってましたわよね。あれって、なんでですの?」

「俺には仲間たちがいんだよ。俺だけなるわけにもいかねえだろ」


「全員騎士にするって言っても渋ってましたわよね!?」

 私がそういうとヴォルフは気まずそうに頬をかいた。


「いや、俺ぁこんな口調だからよ、騎士なんてガラじゃあねえぜ……」

「……もし、もし仮に騎士になったら、どうしますの?」


「恥ずかしくてあんまり喋れねえかもなあ」

 ヴォルフはそう言ってからガハハハと笑った。


――喋り方が、恥ずかしいから、無口、ですの……?


 暗い過去!

 抱えた闇!

 傷ついた心!


 そんなの一個もないと???


「解釈違いですわ~~~!!!」

「はァ?」


「この! 偽物! 偽ヴォルフ!」

「な、なんだよお嬢。叩くな。おい、やめろ」

 私は本物のヴォルフだったという男に、私の想像と違ったから偽物扱いをしていた。


「偽ヴォルフ!」

「なんだよお嬢……」

 誰が見てもまごうことなき美男子になった元おっさん(に見える)青年は、困ったように眉尻を下げていた。


「うぅ……」

 とうめく私はよほど落ち込んでいるように見えたらしい。


「…………なんかしらねえけどよ。悪かったよ……」

 と、何も悪くないヴォルフは謝っていた。




 そして私はヴォルフに命じて、傭兵団の見た目の良い男を集めた。

 そして髪とヒゲを整えさせ、騎士の装備で着飾らせた。


 結果――なんかアイドルグループみたいな集団ができていたのである。


 その翌日、悪徳商人マルクからの手紙が届いた。

 どうやらマルクの家へお邪魔することは承諾されたらしい。


 まぁ、断られるとは思っていなかったけれど。

 マルクから見れば私はおいしいおいしい爵位のプレゼンターなのだ。


  ◆  ◆  ◆


 そしてマルクとの約束の日がきた。

 商業地区の一角に、高い石の壁がそびえ立つ邸宅だった。

 それは悪徳商人マルクの屋敷であり、その存在は街の中でも一際目立つ存在だ。


 午前の日差しが屋敷に照りつける中、馬車の轍が道路に刻まれている。

 門扉は堅固に造られ、見た目には厳重な警備を感じさせる。


 馬車は庭園の入り口に停まり、そこには他の車両が並ぶスペースが確保されていた。

 屋敷の外観は荘厳かつ威厳に満ちていた。

 壁面には美しい彫刻が施されている。


「立派な屋敷ですわねえ」

「さようでございますな」


 屋敷の中庭には広々とした芝生が広がり、花々が咲き誇っていた。鮮やかな色彩の花たちは風に揺れ、微かな香りを漂わせている。その美しい庭園は上品でありながらも、何か隠された秘密を持っているような気配があった。


 私はそんな屋敷に、マッテオとともにきていた。

 そして周囲の警護はアイドルグループのように見える騎士のふりした傭兵という、よくわからん集団がしている。


 私たちは馬車や馬を降り、召使に案内される。


 重たい扉が開かれる。


 屋敷の内部は豪華な装飾が施された広々とした空間が広がっている。

 大理石の床が光を反射し、シャンデリアから優雅な光が降り注ぐ。

 美しい絵画が壁に飾られ、贅沢な家具が配置されている部屋はまさに貴族の住まいといった趣だ。


 マルクが奥からやってくる。

「ようやく心を決めたかアデライード。長らく待たされたぞ」

 尊大な態度だ。

 彼は私を見下すような表情で言う。

 蛇のような中年紳士、というのが彼の印象である。


 まさに蛇が獲物を丸呑みする寸前の雰囲気を漂わせながら、彼は私たちを見て鼻で笑った。


「ああ、なるほど。君は幼いのに、よほど好きものらしいな」

 マルクの視線は私の後ろに控える、アイドル風騎士風傭兵たちを見ていた。

「わしと結婚した後も、そのような男遊びは好きにするといい」


 マルクの言葉にイラっとしたが、私は耐えた。

 

「では、こちらへ来るといい」

 マルクは屋敷の奥へと向かって歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ