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狂犬令嬢は悪魔になって救われたい~婚約破棄された令嬢に皇子様が迫ってくるけど、家門のほうが大事です~【完結です!】  作者: もちぱん太郎


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ガブリエル・ルイス・ダ・シルバ 1

 俺――ガブリエル・ルイス・ダ・シルバは以前スラム街で出会った令嬢について、部下に軽く調べさせた。

 フツーノ・アクヤクレジョーなどと巫山戯た名乗ったあの少女だ。


 俺はこの国のほとんどすべての貴族の名前を記憶している。

 その中にそのような名前の貴族はいなかった。

 なぜ偽名を使うのか、そして見るからに貴族であるのに、スラム街の子供を気にかけるなんて、珍しい令嬢だと感じた。


 さびれたスラム街にいる金髪の少女。なぜか傘もささず、その身体は雨に濡れていた。


 そしてその正体はすぐに判明した。

 ヘンリー・ド・ノーサンバーランドの婚約者である、アデライード・ド・ラヴァル嬢だ。

 あの日に、金髪赤目の貴族の少女が訪れ、出て行ったとの話を部下が仕入れてきたのだ。


 婚約を破棄されたという。

 ならば憔悴して、自暴自棄になり雨に打たれていたのだろうか。


 そうであるならば。そんな状態であったらならば。

 自分が誰よりも傷ついているのに、自分よりも他人を救おうとした高潔な精神。


 もしそうならば。

「……素晴らしいな」

 そのような感性の人間がいると思うと、少し愉快になる。


 この国は悪徳がはびこっている。

 その悪の手は帝都を汚染し、宮廷にまで伸びてきている。

 それをなんとかしたいと俺は考える。


 そのためにいくつかの悪徳商会や貴族も潰してきた。

 だが、潰せば潰すほどに奴らは狡猾になり、闇に身をひそめる。

 手に入れた証拠が消えたり、証人が殺されたり、逃がされたりする。


 また敵の拠点に踏み込めば、誰一人としていなかったりなどはよくあることだ。

 内通者だ。

 だから俺は信頼できる者だけを連れて捜査することが多くなった。


 現在帝都で広まっている幻覚剤は、ラヴァル領から出回っているという情報を得て、ラヴァル領まできていた。

 奇しくも雨の日に出会った令嬢の家が治める領土だった。


「エル様、こちらです」

 エルというのは偽名だ。

 皇子だと喧伝する必要がないのなら、身分を表に出す必要はない。

 怪しい風体の男に案内してもらい、俺はいくつかの店へと向かった。

 この男は俺が雇っている密偵であり信頼できる人物でもあった。


 向かっている先は帝都に幻覚剤を持ち込んだ商人が関わっている店だ。

 その商人と知己の店を、片っ端から当たっていくつもりだ。


 俺はそのうちの一つである詐欺装備を取り扱っているという店に向かった。

 その店では武器や防具を、ほとんど詐欺のような価格で売っているらしい。

 装備の貸し出し詐欺により、奴隷に落とされた冒険者も多いという。


 その店の近くで、あやしげな一行とすれ違った。

 成金趣味の老人商人たちだ。

 ド派手なシルクシャツに、きらめくゴージャスなローブ。

 両手にこれでもかというほどに指輪をはめている。


 その娘か、孫か。

 非常に目立つ色合いの深紅のドレスをきた少女。

 目深にかぶった帽子の下から覗く鼻、口、顎は非常に整っている。

 歩き方も優雅で品がある。

 どこかであったことがあるような気がした。


 そしてその護衛たち。


――正気か?

 と俺は思った。


 トゲトゲした肩アーマーや腕輪をつけ、それぞれに頭に付けた装備は、非常に個性的だ。もちろん悪い意味でだ。

 入れ墨やフルフェイスマスクなど思い思いの装備をつけている。

 もうそれだけで、捕らえようかと思ったくらいだ。

 見た目で人を判断するのはよくないが、逆にあの風体で何の犯罪にも関わっていないなどというほうが少ないように感じた。


 いったい何者かと問いかけるために近寄ろうとした。

 そこで隣の騎士が俺に言う。

「あのごろつきみたいなやつら、ただの護衛らしいッスよ」


 どうやら彼は、あの奇妙ないでたちの五人組を盗賊と勘違いして戦おうとした出来事があったらしい。


 気を取り直して俺は詐欺装備店へと向かう。


「失礼する。私は帝都警備隊のものだが」

 そう俺は告げながら、店の扉を開いた。


 そして、絶句した。


 強盗直後か? というひどい有様であった。


 店の人間はみんな縛り上げられている。

 店主は髭を半分切り落とされ、服の肩辺りも切れ込みがはいり、非常に非対称的で前衛的な姿になっている。


 店の壁はどころどころが壊れており、折れた剣や、破壊された鎧などが転がっている。

 強盗どころではない。

 強い恨みや悪意がなければここまでできないだろう。


「き、騎士様! 助けてください! 強盗が、強盗が!」

 私は部下に、縄をほどくように言ってから尋ねる。

「ふむ……。ここで何があった?」


 店主のいうことは以下の通りだった。

・自分は何もしていない。

・強盗が急に襲ってきた。

・早く捕まえてくれ。


 とのことだ。強盗の見た目を聞き出せば、先ほどの成金趣味の商人たちのようだった。

 しかし強盗というには、店の金銭には手を付けていない。

 ただの強盗ではないのではないかと思わせる


「わかった。私が犯人は捕まえておく。他に何か盗まれていないか、調べさせてもらおうか」

「い、いえ! それには及びません! はやく捕まえてください!」

 と商人は詰め寄ってくる。


 俺が調査をするのを妨害しているようでもあった。

 ほぼ確実に調べられてはまずいことがあるのだろうと思い、俺は店の奥まで調べた。


 しかし、何もなかった。

 あるはずの帳簿や契約書の類が何一つない。

――強盗は、自作自演? 俺の行動が漏れていた?


 一瞬そう思ったが、どうやら違うらしい。

 商人がほっとした様子をみせていたからだ。

 見られたらまずいものがあったのは本当だったようだ。

――もう少し早く到着していれば。


 詐欺装備店を後にして、そのあとに向かった美術店でも同様だった。

 これもあの成金商人たちが行ったこととのことだ。




 そして、月明かりの下で彼らに出会った。

「いたぞ」

 俺は短く、他の騎士たちに告げる。

 少し観察すると妙なことに気が付いた。


「あの老人……妙だな」

 その老人は一見、態度は自信にあふれており、堂々とした足取りをしている、豪商のように見える。


 歩き方も武の経験がない人間のそれであり、疑う余地はどこにもないように思えた。

 しかし本来気を許して頼るはずの護衛を、どこか警戒しているように思えた。


 彼らの動きを観察しているような視線が時折見える。それだけなら、俺も勘違いだと思ったかもしれない。

 しかし、老人は隙だらけに見えるのに、立ち位置がおかしい。まるで少女を守るようだった。

 もし護衛たちが裏切っても、少女を守れるような位置取りをしている。


 その二つを合わせて考えるならば、あの老人は凄腕の護衛だ。


……そしてあの少女、どこかで。

 と考えて思いだす。

 人にはそれぞれ歩き方がある。着地する足の角度や、踏み出すとき最後に離れる位置。足のあげ方や高さ。

 そこから類推するに、帝都のスラム街にいた少女と同一のものに思えた。


――アデライード・ド・ラヴァル嬢?


 そう考えた瞬間、すべてが当てはまった。

 俺は深紅の少女がアデライード嬢だと確信を抱いた。


――なぜだ?

 帝都のスラム街で見せた、あの高潔な精神の少女が。

――なぜ強盗などする?

 貴族家の令嬢であるなら、そのようなことをする必要はない。


 ただ暴れたいから暴れるなどという貴族もいる。

 しかしその姿は彼女とは重ならない。


 いや、いま彼女は変装をしている。

 変装して、その人には言えぬ暗い欲求を満たそうとしている?

――それもない。

 彼女はスラム街で少年を助けたとき、偽名を名乗った。

 聖女然としたいのならば、それを隠す必要などないのだ。


 俺は混乱する思考を無理やり理性で抑え込む。


 そして彼女たちに向かって近づく。

 彼女を見る。

 やはり、アデライード嬢か。

 帽子から覗く顔の形はそっくりだ。

 髪はウィッグか、染めたのか。


「お前たちが強盗か?」


 そう尋ねると、アデライード嬢は不敵な笑みを浮かべた。

◆ガブリエル・ルイス・ダ・シルバ

物攻 S (SS+)

魔攻 D (A+)

物防 B+(SS-)

魔耐 A (SS)

敏捷 A+(S+)

技量 A+(S+)


()内は能力の限界値


SS- 怪物

S - 超一流

A - 一流の腕前

B - かなりの腕前

D - 一般的な兵士

E - ちょっと鍛えてる。駆け出し

F - 一般人

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