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狂犬令嬢は悪魔になって救われたい~婚約破棄された令嬢に皇子様が迫ってくるけど、家門のほうが大事です~【完結です!】  作者: もちぱん太郎


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24 vsガブリエル皇子とその騎士

 私は本日最後の悪徳商人を潰しに行った。

 そこは悪い商談を行ったり、偽の高級酒を飲ませて借金漬けにするような、ぼったくり酒バーだった。


 私たちはそのことを見破った。

 逆に偽の高級酒をバーのマスターに無理やり飲ませてその分の代金を店から回収した。

 マスター曰く『その瓶に入ってれば高級酒なんだ』ということなので、別にいいだろう。

 彼がそういったのだから大丈夫に違いない。


 つまり酒瓶に水を詰めれば高級酒の出来上がりだ。いつでも簡単に復活できる。

 マスターがいうところの高級酒を作り上げ、飲ませてあげたのだ。

 感謝してほしいくらいだ。


 私たちはそれなりの金額の金貨と、違法な取引の契約書、そして騙されたであろう人たちの借用書を手に入れた。

 借用書は私が紙吹雪にした。

 紙吹雪は記されている金額のわりには美しさと優雅さに欠けていた。


 私はいいことした気分で店を出た。

 そこで、帝都で出会ったガブリエル皇子率いる騎士たちに出会った。


 フードつきのマントで顔を隠したガブリエル皇子。騎士風の装いの方が二人。動きやすそうな軽装の方が一人、そしていかにも裏の住人でござい、といった方が一人。

 ガブリエル皇子はラスボス格の人間なので、決して敵対してはいけない。と私は考えた。


 フードから少しだけ覗き見える美しい銀の髪は、月の光で照らされ、よりいっそう美しく見える。

 冷たくなった夜の空気が皇子のマントをたなびかせる。

 彼の紅い眼が私たちを鋭くにらみつける。


 皇子が涼やかな声で問う。

「お前たちが強盗か?」

 それは抜き身の刃のように鋭利な響きを持っていた。


「心外ですわ」

 私は本気でそう言い返した。


「なんだと? ……だが、お前たちが出てきた店が荒らされていた。そして、店の人間も、赤いドレスと帽子の少女と、成金風の老人、護衛の5人に襲われたといっていたが?」

 ガブリエル皇子は嘘をつくなといった様子で言った。

「ええ。たしかにそれは私たちですわ。そして私たちは決して襲ってなどいません」

「……どういうことだ」


 私は説明する。

 私は最強の武器を買いに来ただけであり、店の人間が最強の武器だというから試してみたのだと。

 そうしたら店員が私を奴隷にすると言い出した。だから、劣悪な装備を高く売りつけようとした詐欺商人にお仕置きしただけなのだ。と。


 ガブリエル皇子は額に手を当て、夜空を仰いだ。

「……いったい何を考えたらそんな行動ができるのだ」


「それより、あなた方こそ何なのかしら? 衛兵でもないのに取り調べですの?」


 尋ねるとガブリエル皇子がいう。

「私たちは帝都より、とある事件を追ってきた」

 そこでたまたま私たちの強盗事件(?)を目撃したらしい。


「そしてその後で、美術店でも同様のことを行っただろう?」

――あら。美術店も見つかってますの。わりと全部ばればれですのね。

「そこも似たような感じでしたので。私たちを取り調べたいのなら、きちんと裏を取ってからお願いできますかしら?」


「そのために店の犯罪履歴を調べようとしたんだ。そういった書類を探したのだが、どういうわけか店になくなっていてね」

 知っているだろう? とガブリエル皇子が視線を投げてきた。


――あー……。帳簿まで調べようとしたんですのね。つまり、たまたま強盗事件を見かけたわけではなく、その店を調べていたんですの?

 くわえて美術店まで足を延ばしている。あの二店のつながりといえば、マルクだろうか?


――つまりマルクを調べているんですの? じゃあ、あとはこの方々にお願いすれば――。

 私は一瞬そう考えて、否定する。


――違いますわ。この方の手を借りてマルクを取り除いたところで、私が恐れられることはない。第二第三のマルクが現れるだけですわ。


「私は君たちがその書類を持っているのではないかと、思うのだが?」

「さぁ、何のことかしら」

 うそぶいてみる。


「残念だが、ほぼ確信しているのだ」

「それでも、違いますわ♪ と言わせてもらいますわね」

「もし違うというのであれば、荷物を見せてもらったもいいだろうか?」

「お断りしますわ。知らない人を信じたらだめっていうのが、我が商会の教えですの♪」


「それは素晴らしい教えだが、どうしても必要なのだ。できれば、力づくというのはしたくないのだ」

 ガブリエル皇子が一歩近づいてくる。

 威圧的な空気を感じる。


「マッ――おじい様」

 私がいうとマッテオが私とガブリエル皇子の間に入る。


 そこで、はたと私は疑問を持った。


 そういえばこの方、ずっと私に話しかけている。


 通常であれば、おじい様という設定のマッテオに話しかけてもいいはずなのに。


「わしの孫をいじめるのはやめてもらおうか」

 マッテオがいうと、ガブリエル皇子は薄く笑う。

「ああ。そういった演技はしなくていいよ。君は護衛か部下だろう」


「ぬ……」とマッテオが呻く。

「……見抜いていたんですのね」

「視線の配り方や立ち位置だけでも、多くのことがわかるものだよ」


「それは勉強になりましたわ。今後に活かしますわね。では、ごきげんよう」

 去ろうとするが当然引き留められる。

「待ってくれないか。お嬢さん」

「……えー」


「お願いするよ。お嬢さん。私にその書類を渡してくれないか? どうしても必要なんだ」

「では、私もお願いしますわ。この書類、私もどうしても必要なんですの」

 私とガブリエル皇子の視線が交差する。

 火花が散ったような気すらした。


「では、仕方ない。悪く思ってくれて構わない。鎮圧する」

 そう言って皇子がマッテオに鋭く手を伸ばす。

 首元を掴もうとした皇子の手を、マッテオは手のひらで迎撃。

 マッテオはその勢いのまま肘で皇子の顎を狙う。

 皇子は一歩下がって肘を回避し、後ろに飛びのく。

 そこにマッテオが投げた数本のナイフが襲い掛かる。

 そのすべてを皇子は一瞬で剣を抜き放ち、そのすべてを撃ち落とした。


――わぁお。なんかすんごいバトルが始まっちゃいましたわ。


「……やるね。今まであった中でも有数の使い手だ」

 皇子がいうとマッテオも頷いた。

「あなたも相当なものですな」

 マッテオが自らの袖口をいじると、彼の指にはいつの間にか複数の指輪のようなものが装着されていた。

 あまりにシンプルすぎる作りで、装飾としての意味をなしていないリングだ。

 月明かり。それに照らされ、リングから糸のようなものが伸びていることがわかった。


――鋼糸ですの!?

 そういえば、ゲーム中で敵として現れるマッテオは、鋼糸だけではなく、様々な暗器の使い手だった。


 マッテオは巧みに鋼糸を操った。ガブリエル皇子の剣を拘束したり、細く鋭い糸でマントを切り裂いたりしている。本来であれば身体が切り裂かれるのだろうが、マントだけで済んだのは皇子の技量あってこそだろう。

 ガブリエル皇子は素早く正確で力強く、鋼糸を回避し、反撃している。


「フッ」とわずかに愉快げに笑うガブリエル皇子と、「やりますなぁ」と凶暴な笑みを浮かべるマッテオ。

 いつの間にか目の前で超人バトルが始まっていた。


 さらに周りでも剣戟の音が鳴り響く。

 騎士風の男二人と、こちらの護衛三人。そして軽装の男と、怪しげな男を相手に護衛たちが一対一の戦いを繰り広げている。


 そしてわかったことは、ガブリエル皇子たちは決して悪人ではないということ。原作知識ではわかっていたが、私はそれを実感していた。

 戦える六人の中に、戦えもしない小娘が一人いる。

 人質にとってしまえばいいのに、彼らはそれをしない。


 マッテオと皇子の間では緊迫感に満ちた攻防が続いていた。

 鋼糸と剣の交錯する音、激しい身体の動き、戦術の応酬。

 両者が技術と洞察力を競い合いながら戦い、一瞬の判断が勝敗を分ける。

 そんな戦いだ。


――ラスボス格と渡り合えるマッテオ、めっちゃすごいんですわね……。


 と思っていると、マッテオが押され始める。

 苦し気なうめき声をあげていた。


「ぐ……。もう一度鍛えなおさねばなりませんなぁ……。その機会が、あればではありますがの」

「降参をしてくれないだろうか。私はあなた方を害するつもりはないのだ」

 そう言って皇子が攻撃を緩めたとき、マッテオの鋼糸が容赦なく攻め立てる。

 皇子のフードが切り裂かれ、彼の銀糸の髪が零れ落ちる。


 護衛たちも押され始めている。

 このままでは、負けてしまうのは時間の問題だろう。


「ならば仕方ない」

 いうと皇子の剣に青白い光が走る。

 ガブリエル皇子の持つ武器は魔法剣だ。

 表示名『ヴォイド・ストライカー』。

 能力を使用したターンの戦闘力が大幅に上昇する。


 皇子は素早く一歩踏み込むと剣を振るった。マッテオの鋼糸が切り裂かれてしまう。

 皇子がマッテオに切りかかろうと一歩を踏み出し、剣を振りかぶる。


「お待ちなさい!」

 私は皇子とマッテオの間に割り込んだ。


「降参してくれるだろうか?」

 皇子が私を見る。


「しないわ」

「……ではどうする」


「……少しだけ待ってくださらないかしら」

 皇子は剣を振り上げたまま、私を見る。


 私は赤い帽子を脱ぎ捨て、ダークブラウンのウィッグを投げ捨てる。

 皇子は顔色一つ変えない。


「私は、アデライード・ド・ラヴァル。この地の領主ですの」

「知っている」


「…………知っていますの?」

「ああ。帝都で見かけた」


 一瞬だけのあの出来事で覚えていた上に、見抜いていたということか。

 いや、マッテオとの話を聞いた限りでは確信したのは今かもしれない。


「私は、逃げも隠れもしませんわ。ですから、もう少し待ってください……」

「そうすることで私たちに利などないが?」

「ではお斬りくださいまし」


「…………」

 皇子の紅い瞳と、私の紅い瞳。その視線が交差する。

「…………」

 ただ無言。

 皇子が切ろうと思えば1秒も経たないうちに私は真っ二つになる。

 けれど、ここは引けない。


 ガブリエル皇子は「フン」と鼻を鳴らして剣をしまった。

「三日だ」


「……二週間」


「三日だ」


「……では、一週間。これ以上は無理ですわ」

「ならば、そうしよう」


 ガブリエル皇子が騎士たちに声をかけて、戦いは終わった。

 こちらの護衛たちは疲弊し、斧も折れている。

 ただ死人はいない。

 ラスボス格のガブリエル皇子の仲間相手にここまで戦えたのは、大健闘であろう。


 戦闘では負けた。しかし、要求は通した。

――つまり、私たちの勝ちですわ。


 私は大きく息をはいた。身体から力が抜ける。がくん、と倒れそうになる。マッテオがそんな私を支えてくれた。

「お嬢様!」

「はは……。勝ち取り、ましたわ」


「では、アデライード嬢。君がどうするか、見させてもらおう。楽しみにしている」

「……期待は裏切りませんわよ」


 そして私たちはその場で別れた。

 その場でマッテオにあることを依頼する。

「マッテオ。衛兵に伝手はあります? なければ作ってほしいのだけど」

「できなくはありませんが……、絶対に必要なことですかな?」

「必須ではないけれど、後々のためにそうしたほうがいいと思うんですわ」

「少しお時間をいただきたいですな」

「本当ならあげられたけど、あの方と約束したから、あまり時間はないんですの。一日二日でお願いしたいわ」

「……老人遣いが荒いお嬢様ですなあ」

 とマッテオは嬉しそうに言った。


――ここから、マルクに逆襲を開始しますわよ!

『ヴォイド・ストライカー』

攻撃力強化: 魔法剣を使用することで攻撃力が通常の3割増加。

素早さ強化: 魔法剣を使用することで素早さが通常の3割増加。

クリティカル率向上: 魔法剣の魔力によって、クリティカル率が100%になる。攻撃は常に敵に致命的な一撃を与える可能性がある。

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