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狂犬令嬢は悪魔になって救われたい~婚約破棄された令嬢に皇子様が迫ってくるけど、家門のほうが大事です~【完結です!】  作者: もちぱん太郎


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23 ぼったくり酒場はいい商売ですわね♪ 2

 私たちは夜の酒場でに潜入した。

 夜の酒場は借金で店員を働かせ、お金のありそうな人から盛大にぼったくる酒場だったのだ。

 ぼったくり酒バーなのだ。

 そんな酒場で私は、大騒ぎを起こすために、そのついでに、ぼったくられてそうなまじめな男を助けようとしたのだ。

 私は付け焼刃のワイン知識という心もとない知識で、マスターに勝負を挑んだのだった。



 私はゴブレット型のワイングラスを手の中で回して見せる。

「こうやって空気に触れ合わせることで、ワインは花開き――ませんわね?」

 はて、と私は不思議そうに首をかしげる。

 マスターは不愉快そうなしわを眉間に刻んだ。

「まぁ香りが失われることもあるかもしれませんわね」


 私はワインを見ながら言う。

「そして口に含むと。まるで舞台の上で紡がれる伝統ある音楽のような、味わい」

 私は陶酔するかのごとく、天を仰ぐ。


「あぁ……豊かな果実の甘み、そして酸味……」

 片手でグラスを持ちながら、もう片手を大きく広げる。


「その織りなすバランスはまるで古城の奥深くで、主だけが楽しむ秘密のオーケストラ」

 グラスを掲げるように持つ。


「そしてシルキーな口当たりが舌をつつむ。その中にわずかに、恥ずかしがりな少女のように顔をのぞかせるフレッシュなハーブとスパイスのニュアンス……。複雑なアロマの演奏は……まるで一つの物語」

 恍惚とした表情でいうと、マスターや警備員、そして私の護衛もごくりと唾を飲み込んだ。

 唾を飲み込む音が聞こえるようですらあった。


 私はワインを口元にあて、飲んだふりをする。

 成長に悪影響があっても嫌なので、飲むのは控えたのだ。


 私は苦々しい表情を作る。

「そんな味、どこにもありませんわね」


 嘲笑するかのような声で言う。

「まるで素人が演奏した、音の外れたどころか、適当にかきならしたかのような安い味。これ、安物ですわね」


 マスターはバカにしたような顔で私に言う。

「お嬢さん。あなたのような子供に酒の味がわかるわけがない。てきとうに言っているだけだろう」

 正解だ。

 飲んだことすらない。


「待った! その小さなレディは正しい!」

 そんな声があがった。


「俺は商売が大成功したとき、とある大商人に飲ませてもらったことがある! そこの小さなレディの表現はまさに的確だった! 飲んだことのない人間にあの表現はできるはずがない!」

 まったく見知らぬ、まったく別の席の商人風の男だった。

 彼は、俺は詳しいんだぜ、とでも言いたげな様子で周りの人に『オーディナリア・ドミニオン』がどんな味だったのか説明している。


「お、おれもそんなの飲んでみてえな……」

 と別の席からも声があがった。


 私がマスターに向かって一歩踏み出すと、彼は一歩後ずさった。


「『オーディナリア・ドミニオン』は、その豊かな味わいと華やかな香りで、飲む者の心を魅了するのですわ」

 私がマスターを見つめると、彼は「うっ」と声をもらした。


「飲んだ人の眼差しには夜空の星々が映し出され、そこから流星が降り出したかのような熱い喜びが宿るんですの。このワインに、そんな力がございまして!?」

 私はもし本物だったらどうしよう、などと考えながら叫んだ。

 いや、マッテオは絶対に正しい!


「ち、違う……! それは本物だ! この瓶に入っているのは『オーディナリア・ドミニオン』だ!」

 マスターも叫び返してきた。

 店の警備員たちが私たちに近寄ってくる。

 しかし私の護衛たちが、警備員よりも立派な体格を見せつけ威圧する。


 マスターの表情に動揺と、頬を流れる汗で私は確信する。

――これは偽物ですわ!


「絶対に、偽物ですわ!」

「本物だ!」

「偽物ですわ!」

「いいや本物だ!」


 と言い争っていると、いつの間にかマッテオが戻ってきていた。

「ふむ。では、ワインの鑑定士を呼んで真偽をつけたらどうかの?」


 マスターは一つ頷いて言った。

「それじゃあ、すぐに鑑定士を呼んでくる。もし本物だったら――」

 と言いかけたマスターをマッテオがギロリと眼力で黙らせる。


「そちらの御用聞きじゃなく、わしがまともな鑑定士を呼ぶが?」

「……っく。そちらの息がかかっていないと、どうやって証明するんだ!」

「それはそちらも同じですわよね?


「くそ! ……もういい!」

「何がもういいんですの?」

「もう帰れ! お前らみたいなやつは客じゃない!」

 マスターはそうやって有耶無耶にしようとした。


「は? この私を騙そうとして、それですますおつもりかしら?」

 私はそう言って目を大きく開いて睨みつける。

「どうしろっていうんだ……」


「悪いことをしたら、同じことを返されても文句は言えませんわよね?」

「……なにを!」


 近づく。


「いえませんわよねぇ?」

「俺は騙してなんか……!」


 近づく。

 そして彼の顔を覗き込む。


「言えませんわよね?」

「…………わかった。わかったから、もう勘弁してくれ」


 私はテーブルの上にある『オーディナリア・ドミニオン』瓶をひっつかむ。

 その中身を床に全部開けた。


 そして店の奥にある水樽から水を汲んだ。


「マスター。これ、『オーディナリア・ドミニオン』ですわ」

 私はにっこりと微笑んでで言う。


「え……いや、それは、水じゃあ……」

 くだらないさえずりは無視する。

「たっぷりお飲みなさい」

 私は微笑を浮かべながら、ワインボトル(水)の口をマスターの口に突っ込んだ。

「むご!?」

 口に瓶を突っ込んだまま強く押すと、マスターはそのまま尻餅をついた。


 そのまま流し込む。


 流し込む。


 流し込む。

 流し込む。

 流し込む。


 マスターがぶほぁっ! と口から水をこぼした。


「きったないですわねえ」

 マスターは涙目になっている。

 警備員は「やめろ!」と止めようとしてきたが、私の護衛が軽く取り押さえた。

 護衛に言って、店の外へ出ようとする店員や客も全員引き留めさせる。


「ほら、飲みなさいよ。おいしいでしょう?」

 濡れた地面に座り込むような姿勢のマスターの口に瓶を押し込む。


「げは、げはっ! こんな、ただの水だろうが」


――愚かなことを。あなたが、いったんでしょう? この瓶に入ってたら『オーディナリア・ドミニオン』だって。


「だからこれは『オーディナリア・ドミニオン』ですわ」


 飲ませる。

 飲ませる。

 飲ませる。


「もしかしたら、あなたなんかに『オーディナリア・ドミニオン』の味はわからないかもしれませんわねぇ」

 先ほど言われた子供に酒の味なんかわからないだろうというセリフをアレンジして言い返す。


 私は空になったボトルに再び水を汲む。


「こんなの、ちがっ」

「あなたには味の違いがわからないでしょう? だからあんな安酒をだしたのでしょう? ならこれが『オーディナリア・ドミニオン』でもそうでなくてもわからないでしょう?」


「がは、げほげほ――」

「私とあなたのやってること、何か違くて?」

 水を流し込まれた苦しさで涙目になったマスターに言った。


 何かを言い返そうとした彼の口に、また水を流し込む。


「たーくさん飲みましたわねえ。『オーディナリア・ドミニオン』二本とは大富豪ですわね?」

「かは……かは……。たたの、みず……」


 その主張を無視して私はマッテオに問いかける。

「『オーディナリア・ドミニオン』二本分でいくらかしら?」

 と聞くと、マッテオはとんでもない金額を言った。


「じゃあ『オーディナリア・ドミニオン』の代金、いただきますわね♪」

「そんなの詐欺だろうが!」


「そんなにたくさんこの店にあるかしら。みなさ~ん。ないならある分だけお金をもらっちゃってくださいな♪」

 私は護衛に指示を出した。


「ぜんぜん足りませんわね~~?」

 私は仕方なく、といった様子でマッテオにいう。

「おじい様。足りない分の借金の証書を出してくださいな」


 受け取った紙には、借金の金額と契約内容がかかれている。

 私は店員たちに向かっていう。


「徳政令ですわ~~!」


 みんなシーンとしている。


 さすがに伝わらなかった。

 だから仕方なくちゃんと伝えることにした。

「あなた方の借金、ぜーーーーんぶ、ちゃらですわぁ~~~!」

 言いながら私はその紙切れをぶちやぶる。

 数枚ずつ手でびりびりに破いていく。


 そんな紙吹雪を作った。

 両手を開いて紙をばらまく。

 おそらく相当な金額だろう。


 ゴミくずになった契約書の紙吹雪が店内に舞う。


 それを見た店員たちは歓声をあげた。

 本当に嬉しいのだろう。両手をあげたりジャンプしたりしている。


 あ~~~~~! いいことした!


 私はお礼を言う店員や、真面目そうな男に向かって

「ぜんぜん構いませんわ♪」

 と告げ、店から出て行った。


 そこで私たちは、皇子率いる騎士の一団に出会った。

 そして


『お前たちが強盗か?』

 そう問われたのだった。

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