20 悪徳商人ぶっ潰しDay3
私はマルクが所有する事業の一つ、詐欺を行う高級装備店へとやってきていた。
そこでは装備のレンタル業も行っており、冒険者を騙して高級に見える劣悪装備を貸し出す。
貸した装備は劣悪なのでもちろん壊れる。
それを理由に借金を作らせ、奴隷として売り払う。
そんな唾棄すべき事業を行う場所である。
私はお金持ちのお嬢様に変装し、そこで高級な武器を持ってこさせた。
もちろん高級に見える劣悪武器である。
私はその武器を、斧でぶったたいた。
すると簡単にポキッといってしまったのである。
「ちょ!? お客様!? なにを!?」
と叫ぶでっぷりとした悪徳商人を無視して私は
「え~い☆」とかわいく斧を振り下ろしたのだ。
その先にあった、高級品であるとふれこみの剣はぽっきりと、それはもう見事なまでにぽっきりと折れた。
それを見て悪徳商人は嬉しそうな笑みをもらした。
「ああ。壊してしまいましたね。お客様。これは弁償していただきますよ」
「なぜですの?」
「なぜってあなたがこの武器を壊したからですよ。この国一番の鍛冶屋ムラーマッサの品でしてねえ」
鍛冶屋ムラーマッサ。それは超有名な鍛冶屋であり、その武器を持っていることが貴族のステータスにすらなる存在だ。
その武器がこんな場所にあるわけがない。
「その中でも最高の一品でしてね。城の一つ二つと同じ価値があるんですよねえ」
いじわるそうな微笑みだ。
「へぇ~。そうなんですの」
「だからあなたの家の財産を売り払って、弁償してもらいましょうねえ。あと、あなたも美しい顔立ちをしている」
そういって悪徳商人は、下から舐めるように私の顔を見てきた。
うっ、と吐き気を覚えてしまうような、いやらしい顔だ。
「それでも足りないから、あなたにも奴隷になってもらいましょうか」
ぶひょひょ、と悪徳商人は笑う。
私は鼻で笑った。
「なんです? いまさら謝ったって襲いですよぉ? とりあえず、地べたに頭をこすりつけて謝ってもらましょうかね?」
下卑た声だ。
だから私は言ってやる。
「それで?」
私は冷たい声を出し、斧を両手で握りにらみつけた。
「それでって、状況わかってないんですかね? ちゃんとやったことの責任はとりましょうねぇ?」
私は無視して斧を振り上げる。
悪徳商人は目を見開いた。
ぶるんと巨体を揺らして、慌てているのが見て取れる。
「衛兵を――!」
そう叫ぶ悪徳商人に向かって斧を向けようとした。
脅しのつもりだった。
しかし斧は思ったよりも重たくて。
振り下ろすときに手を放してしまった。
「あ」
斧はすっぽ抜けて悪徳商人の肩の上を通過して飛んで行った。
すぱっ。
悪徳商人の肩辺りの服がすぱっと切れて、ついでに髭もすっぱり切り落とされた。
「ひ、ひぃ……! 何をする――」
私は声を張り上げる。
「何をする、じゃ、ねええええええんですわああああ!!!!」
私は顎をあげて悪徳商人を見下すように見た。
「ねぇ? これが最強の剣ですの? どういうことかしらね? あなたはこのアレーナに最強の剣を用意すると言いましたわよねぇ?」
「は、え……。なんで私が悪いみたいに――」
「悪いみたい、じゃ、ねえええええんですわあああああ!!!!」
私は床をだんっ! と強くける。
「だいったい! ムラーマッサの剣!? 彼が作っているのは東の国の曲刀でしてよ!? そんなことも知りませんの?」
「いやでも、あ」
「詐欺ですの? 最強の剣が簡単にこんな真っ二つにいきますの? いかないですわよね? それとも何かしら。こちらの斧が最強の斧だとでもいうのかしらぁ? それとも私が最強の戦士なのかしら? ぶっち殺しますわよ?」
私は悪徳商人に一歩近づく。
すると悪徳商人は一歩後ろに下がった。
「そ、それは不良品が混じってたみたいで――」
「あぁ、そう? じゃあ他のも試しなさい」
私がパンパンと手を鳴らすと、私の連れてきた傭兵たちが斧を持って動き出す。
彼らは斧を振り上げ――
他の剣にもたたきつけた。
全部がぽっきりと折れていく。
「お嬢! 他の物も折れやしたぜ!」
「あぁ~~ら。ぜ~~~んぶ不良品ですわねえ?」
「ひ、ひい」
悪徳商人は後ずさってから、横を見た。そこにいたのは警備員たちだ。
「お、おい! 警備員! こいつらを捕まえろ!」
命令されて警備員たちは私たちを捕縛しようと動き出した。
しかし、私の連れてきた傭兵たちに一瞬で鎮圧された。
店員たちも拘束されている。
これで衛兵を呼ばれる恐れもない。
「ほぉら! 他にちゃんとまともな装備があるのか、ここにあるの全部試しちゃいなさい!」
私がいうと、傭兵たちは「へい!」といって店の中にある武器や防具に手当たり次第斧を振り下ろし始める。
もうこの店をぐっちゃぐちゃにするというのは、あらかじめ傭兵たちに言い含めてあるのだ。
「な、なんでこんなひどいことを……! おまえら、ただじゃすまさないぞ!」
「うるっさいですわよ!」
私は悪徳商人のすねを思い切り蹴り上げた。
「んぎゃあ!」
悪徳商人はすねを抑えて床に転がった。
「ねえ。商人さぁん。あなたがこのアレーナを騙そうとしたんですよ? ちがいますのぉ?」
「ち、ちが……」
「最強の装備を用意するっていったのに、ゴミくずばっかりでしたわぁ。人を――いえ、私を騙すならぶち殺される覚悟を持ってくださいまし?」
私はかがんで、悪徳商人の前髪をつかんで顔をあげさせる。
「ひぃ……。こいつ、頭おかしい……」
悪徳商人はもはや泣いていた。
「ほーら! もうこの店のぜーんぶ、試しましょう! いい装備が見つかったら買ってかえりましょうね~!」
店中の商品が次々に破壊されていく。
「や、やめてくれ。もうやめてくれ~~~!!」
悪徳商人は涙を流しながら懇願した。
「みなさーーーん! もっとやってくださいって言ってますわぁ~~!!」
悪徳商人は力のない声でいう。
「……ああ、なんてやつらを相手にしちまったんだ……」
「おーい、アレーナ。もうそろそろ終わりにしないかい」
マッテオが、店の奥から姿を現す。
おっと。もう大丈夫そうですわね。
私は店主の目を見ながら微笑む。
「楽しかったですわ。商人さん。でも残念ながら今回はいい武器はありませんでしたわぁ~」
「う、うう……」
「またきますわね♪ そのときには良い武器も用意しておいてくださいまし」
「も、もう来るな……」
「嫌ですわ♪ あと、上の方にも伝えておいてくださいまし。またきますよ、ってね」
私は商人の頭を床にたたきつけてから立ち上がる。
「皆さんいきますわよぉ~」
私は颯爽と店の外へと向かう。
護衛とマッテオはそのあとをついてくる。
「では、また後日。ごきげんようですわぁ~」
そして店を出たとき、この街で出会った一行と出会う。
数人の騎士と、不審な男を連れたフードつきマントの男である。
フードの奥からは銀色の髪がのぞく。
すれ違いざまに、フードの男と目が合う。
――あら。帝都でみた皇子様ですわね。
ガブリエル・ルイス・ダ・シルバだ。
彼は正義感が強く、騎士たちを率いて世直しをしたりしているという設定だ。
だからこのような悪事を働く店に向かうのは、何の不思議でもない。
特に何事もなくすれ違う。
皇子一行は、今さっき私が荒らした詐欺装備店へと入っていった。
私は周りから人気がなくなったタイミングでマッテオに声をかける。
「おじい様。例のものはありました?」
「ああ。あったぞ」
「書類の内容はどうでした?」
「冒険者への装備の貸し付けの契約書と帳簿だな。あとはマルクとの手紙のやり取りと、多数の権利書とかだな」
マッテオは私が騒ぎを起こしている間に、店の資産や権利書、詐欺の証拠、冒険者を奴隷に落とすための契約書などを奪ってきたのだ。
これであの店はしばらく動けない。不幸になる人も減るだろう。さらに私たちは金銭的にもおいしい。世のためにも自分のためにもなるのだ。
狙いはそれだけではないのだけれど。
私は次の標的の店へと向かった。
次は美術品屋だ。
私はそのアートショップの前に立っていた。
「ごめんくださいまし~」
私がそう言って店に入る。
すると店の奥で店主が笑顔で挨拶をしてきた。
「いらっしゃいませぇ~。どうぞ見て行ってくださいお客様!」