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19 悪徳商人ぶっ潰しDay2

 私は悪徳商人を捕まえるために、変装して街へきた。

 変装中の私たちは、むしろ自分たちが成金悪徳商人風のいでたちだった。

 マッテオは成金おじいちゃん。私はその孫で派手好きで性格が悪い。

 傭兵たちはこんなやつらいねえだろってレベルでガラの悪い見た目。

 街を歩くと人が避けて通るし、誰も目を合わせない有様であった。


「じゃ、アレーナは他のところが見たいわ。おじい様」

「うむうむ。それじゃいこうかの」

 マッテオにはマルクが行っている事業について調べてもらったのだ。


「……っと。なんですか? おじい様。あの集団は」

 と私が問いかけた。

「ふうむ……」

 マッテオは視線を鋭くしてその集団を見た。


 堂々とした厳格な雰囲気をした騎士のような男が二人。

 身軽そうな服を着た男は、鋭い視線で周囲をすきなくうかがっている。

 そこに不審な雰囲気を持つ男。

 さらに奥には――フードつきマントを目深にかぶった男だ。

 銀色の髪がフードの奥から覗いている。


「高貴な人間と、その護衛ですな。そこに諜報員や密偵、といった感じかと思われますな」

 なるほど、と納得してから私はマッテオにいう。

「おじい様、口調」

「……貴族とその護衛じゃろうな」


 そこで周囲をうかがっていた男から鋭い視線を向けられた。


「絡まれる前に行きますわよ」

 私は足早にその場を去った。


 マッテオが調べてくれた、マルクの事業のうちの一つまでやってきた。

 その中でも特にあくどいことをやっているところを目指して、私たちは歩いていく。


 そこは街のはずれのほうにあった。

 こじんまりと小さいながらも、高級感のあふれる店構えだ。


 私は護衛とともにずかずかと店の中へと入っていく。

「やあ、いらっしゃい」

 でっぷりと太った店主と思しき男が出迎えてくれる。

 警備の護衛は三人ほどか。


 店の中には高級そうな武器防具が並んでいる。

 そう、ここは詐欺の露天商が所属している商会であった。

 更にマルクが経営している事業の一つでもある。


 私は今日ここをぶっ潰しにきたのだ。


「何かお求めでしょうか?」

 カモがきたと思ったのか、店員はマッテオに話しかけた。


 マッテオは私に向かって

「アレーナ。何が欲しいんじゃ?」

 と問いかけてきた。


 だから私は言った。

「そうですわねぇ~。アレーナ、さいっきょーの装備がほしいのっ! この店でいっちばん強い装備を用意してくだらない?」

 といった。


 すると商人は相好を崩した。絶対にカモがきたと思っているだろう。

「ええ。ええ。いいですよ。当店一の、いいえ。この国で最高の装備を持ってきましょう」

 店主がパンパン! と手をたたくと、近くの店員が奥へと向かっていった。


 この店主は人の好さそうな笑顔を浮かべているが、マッテオの調べによればかなりの悪人であるらしい。

 高く見せかけた粗悪な武具を売り、それを購入した冒険者が死亡や怪我をする率が高くなっていること。


 さらには親切な顔をして装備の貸出を行っているらしい。

 低価格で装備を貸し出すが、もともとが粗悪品。すぐに壊れてしまい、そのあと法外な賠償金を請求する。


 それによって奴隷に落とし、これまたマルクの経営する奴隷市場で売り払う。

 涙を流した人がどれだけいることか。


――私の領地で好き勝手なことをするのは、絶対に許さないわよ。


 その怒りを押し隠し、私はバカ娘のふりをする。私がアデライードとして取り締まれば、悪徳商人マルクが警戒してしまうからだ。


 店の人間が奥から持ってきた幾本もの剣や防具を見る。

 たしかに見た目は、何の知識もない人間が見れば高そうに見えるかもしれない。

 しかし、私は騙されない。


「わぁ~。すごい。見てみてもいいですの?」

「ええ。どうぞ。ご覧ください」


 私は剣を手に取ってみた。剣の刃は非常に薄い。刃に指先をすべらしてみると、いくらかの引っかかりがある。傷だ。目には見えないくらいの小さな傷がいくつもいれられている。

 これは冒険者に貸し出す用の、すぐ壊れる装備なのだろう。

 他の剣を見てみても、同様だった。


 私は剣を手に取って振り回してみる。

――うっわぁ。重心のバランスやばいですわこの剣。鉄の棒で戦ったほうが絶対マシですわぁ……。

 逆にここまでひどい武器を用意するほうが大変そうだった。


 いや、呆れるところじゃない。

 これはわざと壊れやすく作られているものだ。

 冒険者を奴隷に落とすための、薄汚い手管。


「ちょっと。あなたいいかしら」

 私は護衛の一人を呼んだ。顔面に入れ墨お絵かきの男だ。

「うす」

 店主がその男を見てドン引いているのが見えた。


「ちょっと斧をかしてね」

 護衛の手から斧をとる。

 私は台の上に置いた剣に向かってその斧を――振り上げる。


「ちょ!? お客様!? なにを!?」


「え~い☆」


 ばっきゃぁ!!

 剣の刀身はぽっきりと折れて、台にまで斧が食い込んだ。


「な、なにを!? なんてことを! 弁償してもらいま――」


「は?」

 私は冷たい声を出し、斧を両手で握りにらみつけた。

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