18 悪徳商人ぶっ潰しDay
私はロランをヴォルフに鍛えさせることにした。
ヴォルフはロランをある程度は認めたようだし、傭兵団に育成を任せてしまおう。
なぜか私もちょっと試されてしまった。その結果危険が迫っても冷静にいられる辺りを認められたらしい。
まあ、二回も死ねばそりゃ少しはね?
そうしたところでマッテオがやってきた。
マッテオは頼んでいたことをやってくれたらしい。
私は街へといくことにした。
しかし今からやることを私が行ったとばれるのは都合が悪い。
なので、私とマッテオ、護衛の傭兵たちは変装をしていた。
私は街へと向かう途中で、強い感情が込み上げた。
「あはははははは。ははははは! あは、あはははは!」
馬車の中で私の大きな笑い声が響いていた。
私たちは今変装をしている。
街でラヴァル家のアデライードたちだとばれないようにしているのだ。
マッテオも普段のシンプルな老執事の姿ではない。
「おじい様。おじい様の姿、おもしろくてよ?」
マッテオは商家の大旦那に扮している。
役柄としては私のおじいちゃんだ。
色鮮やかなシルクのシャツにゴージャスなローブを羽織っている。
指にはダイヤやエメラルドなど様々な宝石が飾られ、金のネックレスをしている。
とてもガラが悪い
。悪い仕事をしている人間にしか見えない。
「アレーナお嬢様はどんな姿でもお美しいですな」
めちゃくちゃ悪そうな、成金爺さんになっている。それなのに、真面目な顔と口調でいうものだから、より一層面白くなってしまう。
ちなみにアレーナというのは私の偽名だ。
「違うでしょう? おじい様」
そういう私は、ダークブラウンのウェーブがかったウィッグをつけている。
頭には深紅のワイドブリムハットを目深にかぶっており、顔はあまり見えなくしている。
そしてドレスも深紅色だ。金の刺繍も入っている。
イメージはガラの悪い成金商家のバカ娘と、運でうまくいってる悪徳商人の祖父。
こんな感じだ。
「失礼いたしました、お嬢様。今から切り替えます」
マッテオは咳ばらいをする。
「そうだな。アレーナ。アレーナは街で何がほしいんだい? お爺ちゃんがな~んでも買ってあげるからね~」
一瞬で孫を猫かわいがりする祖父になった。
「そうね。おじい様。アレーナ、全部ほしいわ。街へ行って、欲しくなったもの全部買ってほしいの~」
と、私も何でも願いが叶うと思っているバカ孫になりきる。
それを馬車に同乗している護衛の傭兵がじゃっかん呆れたような目で見ていた。
もちろん彼も扮装済みである。
彼は皮の鎧を身に着け、斧を持っている。剣より武闘派っぽいという私の一言で斧に決まった。
顔面には入れ墨だ。入れ墨というか、そう見えるように描いてあるだけだが。
肩にはトゲ付きの肩アーマー。腕にはトゲつきの腕輪。
こんなやついねえだろってレベルでガラが悪い。
「お嬢さん。オレ恥ずかしいんですけど……」
まぁ、そうだろうなあ……と私は思った。
「あとで特別手当出すから許して……」
「…………お願いしますよ」
ちなみに馬車の外を馬で走っている別の護衛4人も、同じような格好である。
ただ頭装備は様々なバリエーションがあった。
頭部から顎まで覆うフルフェイスガード。
目の部分のみを覆う意味のわからないマスク(謎めいた雰囲気出てよいとメイドは言っていた)。
眼は見えているのに謎の眼帯(目のマスクと同じく、小さな穴を複数明けることで視界を確保している)。
口元だけを覆うハーフマスク。
そんな集団が馬車を取り囲むように走っているのだ。
街まではすぐ近くだというのに途中で「盗賊め! 今助けますからね!!」という正義の人が現れ、説得に苦労もした。彼は見た限り、どこか身分の高い人間に仕える騎士のようにも見えた。
そしてその騎士は、こんなガラの悪いやつらが護衛だなんて思えなかったらしい。
とにかく私たちは街の馬車置き場に馬車を停めると、街へと繰り出した。
私たちが街を歩くと、街の人たちは恐れるように距離をとる。
ぽっかりと謎の空間があいていた。
私たちはまるで人の波を割るモーゼのようだった。
ちなみに私たち一行はこんな感じである。
・商家のド派手ワガママお嬢様
・ガラの悪い商家の大旦那
・極めてヤバそうなごろつき護衛5人
「こーれは歩くの楽ねえ……」
私がそんなことをつぶやきながら歩くと、以前衛兵に捕まえさせた、詐欺の露天商がいた。
――何の問題もなく仕事に復帰できてるってことは、やっぱり衛兵ちゃんと仲良しこよしですわねぇ。
「あれも、影の商人関連の店でしたわよね?」
マッテオに問うと、マッテオは鷹揚にうなずく。
「そうじゃな。わしが調べた限りだとそんなかんじじゃよ」
普段のしゃべり方と全然違ってて、また吹き出しそうになってしまった。
ちなみに影の商人とはマルクのことを指す言葉として、取り決めてきた。
マルクの息がかかった店や人間はどこにあるかわからないので、直接的な言葉は使わないことにしたのだ。
――さぁて。悪徳商人、ぶっ潰しますわよ!




