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狂犬令嬢は悪魔になって救われたい~婚約破棄された令嬢に皇子様が迫ってくるけど、家門のほうが大事です~【完結です!】  作者: もちぱん太郎


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17 持たざる者は心を決めた

 私は孤児の少年ロランを、傭兵団長ヴォルフに任せた。

 ヴォルフは相当な実力があるし、ロランには恐るべき才能がある。


 というか敵として現れたロランには苦戦した覚えしかない。

 こちらの攻撃はひらひら避けるから、その辺の自ユニットじゃダメージすら与えられない。


 命中率が上がる装備をさせ、命中率が上がったスキルを使った、素早いキャラクターを使わないと攻撃が当たらない。

 しかもロランは速度差により一回のバトルで二回も攻撃してくる上に、クリティカルもごりごり出してくる。


 二回ともクリティカルした日には、タンク役のユニットですらワンターンキルである。

 ロラン戦前のセーブアンドロードは必須であった。


 しかも、彼は倒しても撤退するため、何度も戦うはめになるのだ。

 味方になることもない。

 その性能によって、多数のプレイヤーに嫌われていた存在がロランである。


 そんなロランが今、息も絶え絶えになっていた。

「く……、はぁっ……あっ……」

 美しい顔に汗が伝う。

 服も汗に濡れて、透けかけていた。


「おぉー」

 これは目の保養ですわね。

 いやらしい気持ちなどではない。

 ただ、美しいものを鑑賞しているだけである。

 日本刀とか、彫像とか、そういうものを見ている気持ちだ。


 ロランは今訓練場をひたすら走らされていた。

 鍛えるためにはまず体力! 次に体力! そして体力! とはヴォルフの言葉である。

 体力さえあれば、集中力を維持したまま長時間の鍛錬が可能となる。

 一日に入る経験値の量が段違いになる、らしい。


 ロランはもう動きに力がない。が、決して足を止めない。

 前へ、ひたすら前へと歩み続ける。

 その横を、傭兵団の団員たちが抜いていく。


「ガキ、がんばれよ~」

「最初にしてはよくやってんじゃねえか」

 などと声をかけていっている。


 ロランが足をもつれさせて転ぶ。

 彼はすぐに立ち上がり、再び走り出す。


「よーし! 準備運動はそろそろ終わりだ! 集まれ!」

 団員たちとロランが集まっていく。

 団員たちも汗に濡れているが、こちらはまだまだ余裕そうだ。


「おめえらはそれぞれ訓練しとけ」

 団員たちにそう告げる。


「こんな寝る場所があって食いもんが貰える機会は貴重だからな! 今のうちにしっかりしごいてやらぁ!」

 ヴォルフはそう叫んで、私のほうに近づいてくる。


「お嬢もちょっと参加してくか?」

「ええっ……」

 私運動はちょっと、と思ったが、思い直す。

 たしかに私がマッテオやヴォルフやロランの足を引っ張ってしまったら目も当てられない。

 ある程度動けたほうがいいだろう、と考える。


「……わかりましたわ。走ればいいんですのね?」

「あー……。それはしておいたほうがいいが。今は襲われた時の対処だな。そんなにがっつり訓練していくわけでもねえんだろ?」

「そうですわね。今はそれほど時間はありませんわ」

「あとガキ、お前もこっちにこい」


 私とロランがヴォルフの近くによる。ロランはふらふらしながらよってきた。

「まずは簡単なことから教える。それは刃物を持った暴漢に対する対処ってやつだ」

「……まあ、そうですわね。知っておいて損はないですわね」


 ヴォルフはまじめな顔でいった。

「逃げろ」


「……逃げるんですの?」

「そうだ。おめえは、刃物を持った男に勝てるのか? 勝てたとして、それは絶対か? ああ。ガキは別だぞ。お前は戦え」


 疑われたことに腹が立ったのか、ロランは息を切らしながらも強い口調でいう。

「あ、当たり前だろ! オレはお嬢様の騎士になるんだ!」

「んでだ。逃げられないときはあるだろうし、もし周囲に護衛がいんなら離れるほうが危険だ」


「まぁ、そうですわよね」

「だからその場でできる簡単な対処を教える」

「そんなことができるんですの?」

「よくみてろよ。こうやんだよ」


 ヴォルフは別の団員を呼んだ。

「おい、お前。木剣で俺に切りかかってみろ」

 言われた傭兵団員は「はっ!」とヴォルフに襲い掛かる。


 その攻撃をヴォルフは半身になってかわす。

「こうやって」

 相手の手首を素早く掴む。

「こうして」

 その手首をひねりあげると団員が痛そうな声をあげた。

「こうだ」

 手首がひねられたことで、その剣の刃が相手の身体を切りつけるように動いた。


 …………えぇ?

 簡単な、対処??

 攻撃を見切る目と、思い通りに動く身体が必要ですわよ???


「な? 簡単だろ?」


 私は半笑いで

「ナイスジョーク」

 と言った。


「やってみたら簡単だからな? いいからやってみろ。ほら」

 とヴォルフは団員をけしかけてきた。

 団員は戸惑うように「え? ほんとに? いいんすか?」といっていた。


 するとヴォルフは「しゃーねえな」と頭をがしがしかいてから、木剣を自分で持つ。

「ほれ、いくぞ」と切りかかってきた。


 ひああぁ!?

 私は慌てそうになった。が、頭のどこかはずっと冷静だった。もし、これで死ぬのであれば慌てている暇などないからだ。

 私はしっかりと木剣の軌道を見た。

 見える。

 私は、なんとか、本当にぎりぎりで木剣を回避した。


 そのままヴォルフの手首をつかむ。

 つかむ……。

 つかむ?


「無理ですわ!」


 私の小さな手はヴォルフの太い手首の半分ちょっとくらいしか掴めず、触っている程度にしかならなかった。


「まぁ、悪くねえな。よく見れたな、お嬢。慌てずに剣の軌道を見られたの、なかなか稀有な才能だぜ」

「あなた簡単にできるっていってませんでした!?」

「難しいって言ったら最初諦めちまうだろうが」


「そうかもしれませんけど! 何がしたかったんですの!?」

「俺ぁ、冷静になってりゃ意外と剣は避けれるってことを教えたかったんだよ。一発でできちまったけどな。ちなみに最後のは遊びみてーなもんだ」

「むぅ……」


「断言してもいいぜ。その歳で、いや、年齢はいいか。令嬢でそれができるやつは1割もいねえ。だからあんたはすげえよ」

 ヴォルフが笑って見せた。

 心からの称賛に見えた。


 ちなみにそのあと私と同じことをしたロランは、一回で手首をひねりあげるところまで成功していた。

……これだからネームドは!!

 と私は謎の対抗心を燃やした。


 ロランはヴォルフに

「すげえじゃねえか。ガキ。こりゃ確かに才能があるわな」

 とほめていた。ロランもまんざらではなさそうだった。

 だが、はたとロランは喜びを顔から消した。


 そして私のほうを見た。

 彼の表情はどこか曇りがちで、眉間にしわが寄っていた。目は少し落ち着きを失っていて、不安そうに左右を動かしていた。


 ロランが口を開いた。

「なあ、お嬢様も、すごいって思うか? オレ、才能あるのかな」

 それを問うた後、唇は緊張して引き結ばれた。微かな不安の震えが感じられる。


 その不安そうな顔に、私の小さな対抗心なんかはサァっと消えてしまう。


「ばかね」

 いうとロランは少し俯いた。

「……うん」


「……だから言ってるじゃないロラン。あなたにはすごい才能があるわ」

 いうとロランは私の顔を見てきた。

「あなたは絶対に、この国有数の剣士になるわ。この家の騎士たちを抜き、遥か高みまで登って」

 彼はぽかんとした顔をしている。

「そこの髭もじゃもすらも抜いて。誰もがその力に憧れる騎士になれますわ」

 ロランの表情が、嬉しそうなものに変わる。

「だからそうなって、私を守ってくださいましね?」

 その顔は本当に温かく、大切なものを抱きしめるような表情に思えた。

「うん。……うん。オレ、なるよ。騎士に。アデライードお嬢様の、最強の騎士に」


 それを聞いたヴォルフは肩をすくめていた。



 そこで、声がかかる。


「お嬢様。準備が整いました」

 マッテオの声だ。


 私はマッテオに一つのことをお願いしていたのだ。

 それは、とある事柄の調査だ。

 あのマルクが関わっている事業についてだ。


「見に行きますわよ。マッテオ。実地調査ですわ」

「は。お嬢様」


「あとヴォルフのところの団員を、4,5人貸してくださらない?」

「そりゃぁ、いいけどよ」


「まさか強いのはヴォルフだけ、なんてことはありませんわよね?」

「うちのやつらは腕に覚えのあるやつばっかりだよ。でも、何に使うんだ?」


 私が使い道をヴォルフにささやくと、ヴォルフは笑った。

「なるほどな。いいぜ。好きに使いな。責任はとってくれるんだろう?」

「もちろんですわ」



「ヴォルフはロランを鍛えておいて。……ロランは、がんばるんですのよ」

「任せとけよ、お嬢」

「わかった。オレ、絶対強い騎士になるから!」

「期待していますわ」


 そう言って私はマッテオと五人の傭兵を伴って、街へと足を運んだ。

「さぁて。やらかしますわよー」

 私は、普段の私を知る人間が見ても私とわからないように、変装した姿でつぶやいた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >「あとヴォルフのところの団員を、4.5人貸してくださらない?」 コンマじゃなくてピリオドになっているので4人半貸せという恐ろしい要求になっている気が ((( ;゜Д゜)))
2023/06/24 06:44 退会済み
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