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15 傭兵と騎士。何もないわけがなく

 アデライードは傭兵団を雇い、屋敷に戻った。

 時刻はすでに夕刻になり、日は沈みかけていた。


 彼らの宿舎を決めようとしていたところ、訓練を終えたであろう騎士たちが声をかけてきた。

「おい。平民ども」

 馬鹿にするような口調だ。

 その声に、ヴォルフたちはそちらを見た。


 騎士はなおもあざ笑うような声を出す。

「ここは貴族の地だぞ。去れ」


 ヴォルフが面倒くさそうにため息をついた。

 彼が口を開く前に、私は口を開いた。

「彼らは私のお客様なのだけど? あなたはどこの騎士団のどなたかしら?」


 冷静に私が言うと、騎士たちは戸惑うような様子をみせた。

 私が言い返すとは思っていなかったらしい。


 騎士たちはアデライードに向かって言う。

「このような品性のない男どもに、どんな用なのですか? アデライードお嬢様。品位をどこへお忘れで?


「品性とは、相手の見た目で態度を変えることなのかしら?」

 私は尋ねるが、騎士はそのことについて返事をせず、違う話をした。

「あなたはまだ嫁入り前なのですよ? マルク氏も悲しみますな」


 ……マルク?

 ああ。この男もマルクに買われているのね。


「あら。騎士団というのは品性で敵が倒せるのかしら? 知らなかったわ。教えてくれてありがとう」

 優雅に一礼をしながらいってみる。

「なっ!」


「もし品性で敵を倒せるのであれば、あなたは品性で戦ったらよろしいのではなくて? 敵に品性バトルでも申し込んだらいかがかしら」

「ぶ、無礼な!」

「無礼なのはどちらかしらね」


「だいたい、このような男どもに何用なのです? 私たち騎士がいますが?」

 男の言葉を私は鼻で笑ってしまった。

 本当に愚かね。


「別の主人を持つ犬は必要なくてよ。主を忘れることこそ、品性が足りないのではなくて?」

 おほほと笑う。

「我らを犬だと?」


「別の主がいることは認めるのですわね? ならちゃんとなついてくれるワンちゃんを探すのは当たり前でなくて?」

 といってから私は、傭兵団をも犬扱いしていたことに気づいて、目線を向けて謝る。

 ヴォルフはどうでもよさそうに、ひらひらと手を振った。


「つまり彼らは私たちの代わりにしようと? このような平民に我々の代わりができるとは思えませんな」


「できますわ。騎士として取り立てる予定なの」

 にこりと微笑んでいう。騎士は顔を真っ赤にして、何か言おうとして、言えなかった。

 言葉が出ないのか口をぱくぱくとさせた。


 ヴォルフが山賊のような顔で私に声をかける。

「お嬢、俺らぁ、雇われとることにはしましたが、騎士になるのはまだ決めてませんぜ。もう少し考えさせてくだせえ」

「き、きき、きっさま!!」


 騎士は荒い息をはきながらいった。

「私たち騎士を愚弄するか! 貴様のような平民以下のごろつき風情が、なれるものではない! それを断るだと!?」


 ヴォルフはまた面倒そうに雑に髪の伸ばされた頭をかく。

「俺らがどうするか決めるのは俺らしかいねえんだ。あんたが決めるもんじゃねえ」

 

「うるさい! け、決闘だ! 貴様らと私たちで決闘だ!!」

 騎士はそう叫んだ。


 私はそこについ口をはさむ。

「もしかして、品性バトルかしら? 言葉遣いとか歩き方の美しさで戦うのかしら? それだったら、ヴォルフの負けね」

 私がそう言って笑うと、ヴォルフは肩をすくめた。

「馬鹿にするな! ラヴァル家の近衛騎士の剣技、みせてやる!」


 私はそれを聞いて内心でため息をついた。

 近衛騎士団だったのね……。


 ラヴァル家の第一騎士団である近衛騎士団。

 それは領主や貴族の身辺警護をする、一番領主に近しい騎士団だ。

 重要な行事や外交において、領主を守る役割を担っている。


 剣技の腕に優れるのはもちろんのこと、主に対する強い忠誠心を持つことを求められる騎士団である。


――それがあの有様。ほんと、うちってもうだめなのね。


 ついてこい! といって騎士は訓練場へと再び戻っていった。

 私とヴォルフの傭兵団はそのあとをついていく。


「ヴォルフ。面倒ごとだけど、頼めます?」

「報酬、弾んでくだせえよ」


「いいですわよ。あなたにはそれだけの価値がありますわ」

 私が言い切ると、ラヴァルはいぶかしげにいった。

「まだ戦いを見てもいねえのに?」


「私の目の正しさを、証明してちょうだいな。あの騎士たちをぼっこぼこにして、ね」

「……なんで俺がそんなことをできると? お嬢の家の騎士団っていやぁ、かなり名の通った騎士団でございやせん?」

「それはひみつ」


 答えは腕についた筋肉、重心の安定感、などなどいくつもあるが。

 一番はヴォルフ傭兵団の団員たちの様子だ。


 彼らは面白そうに笑ったり、リラックスしている状態に見える。

 つまりそれは団員たちはこの程度のトラブルは、トラブルだと思っていないのである。


 団長や自分たちがこの程度で困るなどと微塵も思っていない。

 ラヴァル家の騎士団は、それなりに精強で名が通っている。それと戦っても勝てると彼らは信じているのだ。


「そういえば武器は大丈夫なのですわ? 訓練用の木剣で戦うと思うのだけど。傭兵って斧とか槍とか、なんかいろいろ使いますわよね? 剣は使えますの?」

「まぁ得意じゃあねえけど、苦手じゃねえでござますよ。おぜうさま」

 ヴォルフはへたくそな丁寧語で言った。


――そして。

 訓練場の中央につく。


 騎士は途中で用意した木剣を一本、ヴォルフに投げつけた。

 渡すというよりは投擲であり、ヴォルフへの攻撃だった。

 しかしヴォルフはその木剣をなんなく受け取ると、構える。


「貴様のような蛮族崩れに、はたして剣が使えるかな?」

「俺にゃ武器なんてみんな同じにしか思えんがね」


「ははは! なんと愚かな! 武器にはそれぞれ特性があり、使い方がある! その言葉は子供が木の棒を使っている程度にしか武器が使えぬという証左よ!」

 戦う前から勝ち誇る騎士に、ヴォルフはあきれたような顔をした。

「どこが違うんだ? 硬いもん持って殴る。そんだけだろ」


「笑わせる!」

 そう言って騎士が剣を構える。

 優雅な構えだ。

 優美な印象を与えながらも実戦的。

 ラヴァル騎士団にに伝わる流派の、伝統的な構えだった。


 それに対して、ヴォルフの構え。

 ただ剣を肩に乗せただけ。

 一見すると乱雑な構えに見えた。

 隙だらけだ。どこからでも攻めれるような印象だ。

 しかし、攻めるべき隙がどこにもないようにも見えた。


「はぁっ!」

 騎士がヴォルフに切りかかる。

 ヴォルフは無造作に木剣を振った。

 木剣と木剣がぶつかりあう。


「ぐっ!」

 それだけで、騎士の木剣は大きくはじかれる。


「なんだ。そんなもんか」

「なんという力だ……! しかし! 扱い方が無様! その程度では、洗練された剣技には勝てぬ!」

 騎士はすばやくフェイントをいれながら、ヴォルフに攻撃した。


 ラヴァルの速剣術。

 変幻自在なその動きは、敵を簡単に翻弄する。


 だが、ヴォルフはフェイントに一切反応しなかった。

「無駄な動きをしてんなあ。斬られる気がしねえ攻撃に、反応なんてするかよ」

 騎士の剣に向かって、ヴォルフが木剣を上からたたきつけた。


 地面に騎士の木剣がぶつかって跳ねる。ヴォルフはその木剣を上から踏みつける。

「なっ!」

 そして剣を握った拳で騎士の顔面にグーパンをかました。


「が、はっ……」


 そばに控えていたマッテオがいう。

「素晴らしい闘技でございますな。剣技というにはいささか、品性にかけますが、それ以上に恐るべき使い手です」

「ふふ。思った以上ですわ。ヴォルフ。あの騎士も、品性バトルにしていたら勝ててたでしょうに」


「それに真に恐るべきはお嬢様ですな」

「私は何もしてないですわ」


「いいえ。まずあのヴォルフに威圧されても一歩も引かない胆力。あれがあったらから彼を雇うことができました。そして、ヴォルフという男の力を見抜く眼力。いやはや、お嬢様は、私の想像のはるか上をいくのお方なのかもしれませんなあ」


「まっ、ほめられて悪い気はしないわね」

 私が得意げにいうと、マッテオが何かつぶやく。


「全盛期の私でも、苦戦しそうな腕前ですな」

 私の素晴らしい耳はその発言をたしかにとらえた。

 だが、聞き返しはしない。

 聞かなかったことにする。

 マッテオが昔、闇ギルドのナンバーツーであったことをアデライードは知らないはずだからである。


 そんな話をしていると、先ほど絡んできた騎士五名全員がヴォルフ一人に打倒されていた。

 無名のモブなのに強すぎである。

 もしかしたらランダムエンカウントで自動生成されるマップボスかもしれない。


 そんな男と出会えた幸運をかみしめる。


 って、あ!!


「ヴォルフ! 後ろ!」

 私は叫んだ。


 先ほど敗北した騎士たちが、後ろからいきなり斬りかかったのである。


「そんな剣技は認めない!」

「平民が!」

「貴様のような蛮族が来ていい場所ではない!」


 騎士たちは口々に叫びながら、複数人で不意打ちをした。


 しかしヴォルフは振り返りざまに剣を一振りする。

 その一振りで三つの剣をはじき飛ばし。はじけ飛んだ剣が一人の騎士に顔に直撃。もう一人の攻撃を軽くかわして、腹に一撃拳を叩き込む。


 秒殺だった。


 ヴォルフが私のほうに、そのむさくるしい顔を向けた。髪と髭で顔のほとんどがおおわれている。

 今度切らせなきゃ。

「こんなんでどうっすかね? お嬢様」


「素晴らしいわ。ヴォルフ」

 そこで私ははたと思い立った。


「マッテオ、誰かにロランを呼んできてもらって?」

 拾った孤児ロランを、彼のもとで鍛えさせよう。


 ロランは原作のネームド敵キャラである。相当なポテンシャルをもっているはずだ。


 普通に騎士として鍛えようと思ったのだが、ロランを鍛えられる人間がいない。

 いや、鍛えることを任せて安心できる人間がいない、が、正しいか。


 私はロランをこのヴォルフに託すのだった。

 ロランがまずさせられたのは体力づくりであった。

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