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狂犬令嬢は悪魔になって救われたい~婚約破棄された令嬢に皇子様が迫ってくるけど、家門のほうが大事です~【完結です!】  作者: もちぱん太郎


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13 はびこるのは不正と詐欺師

 私はマッテオから様々なことを学んだりしながら、足りないものを手に入れるために奔走していた。

 いくらでも学ぶことや、足らないものはあった。


 その中でも早く手に入れたいものがあった。

 それは信頼できる兵力だ。


 ラヴァル侯爵家は金銭的に貧しい状態だった。なので報酬に目がくらんだ兵士たちは裏切りやすくあった。


 また親族と根深い問題を抱えるために、親族側についた騎士や兵士もいる。


 誰が裏切り者であるとか、ないとか、そのようなことはゲーム中でも細かく描いてなどいない。

 なので、戦力の拡充は急を要していた。


 私はマッテオの選んだ、信頼できる騎士と兵士たちをルイの警護にあてた。

 そして私は街へと向かった。


 昼前の日差しを浴びながら、マッテオと二人で馬に乗っている。

「お嬢様もそのうち馬に乗れるようにならないとなりませんな。貴婦人のようにいつも馬車を使うなら必要はないですが、お嬢様にそれは諦めてもらわねばなりませんな」


「ええ。馬の練習も、剣術の訓練も、魔法の特訓もするわ」


 そんな話をしていると、街の入り口につく。


 領主館は街から少しはずれたほうにあるため、移動に少し時間がかかるのだ。

 私たちは馬場に馬を預けて、街の中へと入っていった。


 広場には小さな噴水があり、その周りで市場が開かれている。


「わぁ……。人がいっぱいですわね!」


 もちろん、夢の中で見た世界に比べたら少ないのではあるのだが。

 市場には新鮮な果物や野菜、肉や魚、革製品や鉄製品などが売られている。


 私はきょろきょろと興味深く周りを見回しながら、マッテオの少し後ろをついていく。


「わ。いい匂い」

「ほう。市場で見かけるとは珍しい。あれはラヴァル・ブルームですな」


「へえ。初めて見るわ」

 鮮やかな紫色をした果物で、甘酸っぱくて独特の甘い香りがする。


「このあたりでしか栽培されていない高級品ですな」


「食べ――」てみたい、と思った。だけど、さほど金銭的に余裕があるわけではない。

「――たくない」

 ぐっと我慢する。


「そうですな。この状況が落ち着いたら、お祝いで食べることにしましょう」

 私は我慢を強いられながら、また歩を進める。


 その途中で剣や防具などを店頭に並べている店もあった。

 店の前を通り過ぎようとすると、店主が声をかけてくる。


「いらっしゃいお嬢さん! うちの武具は一級品だよ! 家族や護衛にどうだい!?」

 言われてみてみると、確かに剣は美しく光を反射していた。


 確かにもし戦力を集めるならば、武具は必須かもしれない。

 ラヴァル家にもあるにはあるのだが、その質はあまりよくはない。

 貧乏伯爵家だったのだ。


「少し見せてもらいますわ」

 そう言って私は近寄っていった。


「剣を手にとってもよろしくて?」

「ええ。どうぞどうぞ」


 店主に言われて手に取ってみる。

 その瞬間興味を失った。


「やはりやめておきますわ」

「うちのはそこらじゃ買えない剣ですぜ」


「たしかにその通りですわね」

 私が興味なさそうにいうと、男は吐き捨てるように返した。

「まあ、貧乏人には買えないか」


「金がねえなら、あんまり高そうな服をきてるんじゃねよ」

 言われて私はイラっとした。

 だから大声でいう。


「そうですわね! 確かにこの剣はなかなか手に入るものじゃございませんわね!」

 店主は怪訝そうな顔をした。


 実は私は前世で刀剣にはまっていたことがある。そのときにいろいろ調べたので、それなりの知識はあるのだ。


「まず刃がうっすぅ~~~いですわぁ! 刃の薄い剣はすぐ曲がったり壊れたりしますのよね~~! その分、材料費はお安くなるのですけど!」

「なっ!」


「次には刃が曲がっていますわ! こうやって光を反射させると、よくわかりますねえ? 手入れはして一見高級に見えますけどね!」

 私がそうやって騒いでいると、なんだなんだと周りの人間が見てくる。


 店主は顔を青くして

「やめねえか!」と怒鳴った。

「あとこうやって持つと、右に倒れていきますわね? これ、剣の重心狂ってますわよ?」


「やめろ!」と店主がつかみかかってくるが、その手をマッテオが捻りあげた。

「ぐ、いってぇ!」


「あ~と~は~。価格、めっちゃくちゃ高いですわね? 普通の剣なら十本以上買えるのではなくて? 使ってる金属の量はとても少ないのに?」

「やめろ! だれか、衛兵を! 衛兵を呼んでくれ!」


 私は彼の言葉を無視しながら続ける。

「それで極めつけはこの装飾ですわね。すっごい、豪華ですわね~~? 剣の性能にそぐわないこの装飾ですわぁ~!」


 その偽物の高級品である剣は、刃には浅い凹凸があるかのように見せかけていた。

 彫刻で細かく加工された錯綜した文様が刻まれていた。

 凹凸があるほうが切れ味がよくなるのだ。


 その文様は複雑で、一見美しいようにも見えた。しかし、見れば見るほど違和感を感じさせる。

 また、柄には銀や金色の装飾が施され、偽物であることを隠そうとしているように見える。

 ぱっと見ると、正統な高級品であるかのような威厳があった。

 しかし同時に粗悪さを感じさせた。


 などということを声高に、外の客に聞かせるように話していると衛兵が到着した。


「騒がしいが、いったい何があったのだ?」

 取り押さえられた店主は衛兵に懇願する。

「こいつらを捕まえてくれ! いきなり襲ってきたんだ!」


 しかし周囲の人たちが「それは違うだろ」「お前が詐欺みたいな商売してるからだ!」と擁護してくれた。

 衛兵はそれらの言葉に聞く耳をもたなかった。


「強盗か何かか? 詳しい話は詰め所で聞かせてもらう」

 あらかじめどちらの味方をするか決めているように、私たちに向かっていった。


 そこで私は短剣を抜いた。

「待ちなさい!」


「き、貴様! 抵抗するか!?」

 そういって衛兵は剣に手をかける。


「私はアデライード・ド・ラヴァル! ラヴァル家の令嬢よ! この紋章を見なさい」

 と剣に刻まれた紋章を見せつけた。


「な!? ラヴァル侯爵家の!?」

 衛兵と店主は驚いた表情をみせた。


「あなた、名前と所属は?」

 衛兵に尋ねる。

 すると彼は口ごもった。


「はやく答えなさい!」

 彼は消え入りそうな声で、自分の所属と名前を告げた。


「マッテオ。この衛兵の顔をよく覚えておいて」

「は」


「で、では、私は失礼する」

 そういって衛兵が立ち去ろうとする。

「待ちなさい。この詐欺師も連れて行って、取り調べをしなさい」


「……ぐ。おい、おまえ。ついてこい」

 そういって店主と衛兵は立ち去った。


「……はぁ。たぶんグルよねあれ」

「でしょうな」


「力を得たら、ここもなんとかしないとね」

 私は拍手する見物人たちに、笑顔で手を振って歩き出す。


 中心地から少し外れた場所へと向かった。


 傭兵ギルドの近くは少しさびれており、さらに奥へと向かえばスラムにすら見える場所がある。


 私は傭兵ギルドへとたどり着いた。


 この街には冒険者ギルドと傭兵ギルドがある。冒険者ギルドは獣や魔物などと戦うことが専門である。傭兵は獣や魔物とも戦うが、人と戦うこともその職務に含まれる。

 

 からん、からん。扉を開けるとそんな音が響いた。

 傭兵ギルドの建物は古い石造りをしていた。壁には多くの剣や盾、弓矢などが飾られていた。中央には広いロビーがあり、大きな受付があった。受付では依頼を受けたり報告している傭兵たちがいた。


 そこから少し離れたところに大きなテーブルがいくつかあり、それぞれに荒々しい人間たちが陣取っている。それぞれ別の集団に見えた。

 傭兵達はそれぞれが自分の武器や装備を身につけ、いつでも戦えそうな様子だ。彼らの中には、凶暴そうな見た目の人物もいれば、おおらかな雰囲気を持つ人物もいた。


 私たちは傭兵ギルドの雰囲気にそぐわないためか、彼らの視線が集まっている。何しに来たのか値踏みするような視線だ。

 しかし私たちはそんな視線はものともせず、値踏み返す。


「どこがいいかしら」


 マッテオは、ふむ、というと、尋ねてきた。


「お嬢様はどこがいいと思いますか?」

 集団は主に三つほど。


 古びた装備をしているように見える集団。

 酒を飲みながらバカ騒ぎしている集団。

 よく手入れされているのか、埃一つなさそうな装備をつけている集団。


「そうね。あちらのきれいな装備の――」

 言いかけて、やめた。


「いえ。あっちの古びた装備の人たちかしらね」

 いうとマッテオは面白そうに尋ねてきた。

「ほほう。どうしてそうお思いになったので?」


 わりと直感に近かった。


 どうして自分がそう思ったのか、少し考えて言語化してみる。

「そう、ね。まず酒くさいところは論外として」


 乱痴気騒ぎだ。殴り合っている人すらいる。あんな無秩序な集団はごめんだ。

「鎧がきれいなところは、あれ、多分新品でしょう。どこかスポンサーのついてる出来立てチームっぽいんですわよね。資金が潤沢にあるのなら私たちにしたがってくれるかも不安ですし」


「そうですな。付け加えれば歩く姿勢もどこか不慣れさが目立ちますな」


「それで、古びた装備のところ。あそこの装備は、一見古く見えますが、ちゃんと手入れされてますわね。あれだけ装備を使い古しているなら、相当なベテランではなくて?」


「よろしい。ではお嬢様。彼らを雇えますかな?」

「わかりませんわ。でも声をかけてみるしかないのでしょう?」


 目の前にいるのは荒くれ者たち。

 前世の自分を殺した人が、思い浮かんでしまう。

 だが、無理やりその気持ちを抑え込む。


――私は一度死んで、身投げをして二度死んで、生き返ったんですわ。ならこんなところで怖気づいている場合じゃありませんわ!


 自分を奮い立たせて、傭兵の近くへと歩いていく。


「皆様、ちょっとよろしくって?」


 傭兵たちの視線が、すべて私へと集まった。

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