12 やっぱりあのロランでしたわ!?
まじですの!?
私は内心でうひょーーーって叫んで飛び上がっていた。
ロラン・ド・ブリエンヌ。
それは原作キャラだった。
まだ少年ではあるが、もう6年ほど経てば、一人前の――いや、一人前以上の騎士になる。
どこかの段階で、彼の家族の無罪が証明される。
そのことで彼は汚名を返上し、騎士へとなるのだ。
――同姓同名、なんてオチはありませんよね?
――ゲームと性格が違いすぎる気がしますわ。
彼の設定は、敵側の騎士である。
重犯罪を取り締まる部隊の副隊長を務め、何度となく主人公たちを追い詰めるのだ。
剣技の腕は相当なもので、きっと成長すればそうなると思うのだが。
性格がかなりフワッフワッの軽い奴だった覚えがあった。
戦闘マップの開始時会話で、主人公を口説いてくることもしばしば。
そんな彼だが決して味方キャラにはならなかった。
味方にするDLCが欲しいなんて話もネットでみたが、結局出たのだろうか?
まあそれはともかく、私は彼をメイドに預けた。
お風呂に入れてきれいにすると、薄汚れてた彼はとても美しく仕上がった。
今は昔、客が泊まりに来た時に出すために用意していた、寝間着のような服を着せている。
ナイスショタ! と私は同じ年齢なのに思った。
しかし、細すぎる。
スラムでの生活は厳しかったのだろう。
どうみても栄養が足りていない。
私は料理長に言って、大量の料理を用意させた。
今テーブルの上に料理がどさぁ! と山盛り並べられている。
彼は戸惑ったようにいった。
「こ、これを、食べていいのか?」
「もちろんですわ! 好きなだけお食べになって! それとも、こんなにたくさんは無理かしら」
「いや、食べる。食べます。いただくよ!」
そう言って彼は久々だろうに、うまくカトラリーを使って食事をしていた。
食べ方は上品なのに、すごい勢いで食事が消えていく。
「うまい、うまい」
そう言って食べる彼はとても幸せそうに見えた。
食物を用意した後、最初はおかゆのようなものがいいのでは? と思い立ったが、特に問題なくロランは食べ続けている。
無用な心配だったようだ。
ひとしきりロランは食べ終えるという。
「俺はどうしたらいいんだ? お、嬢様」
私は少し悩んでから言った。
「しばらくゆっくりしててくださいまし」
「……雑用でも何でもやるぞ?」
「いいえ。ロラン。あなたは、まだ身体が疲れてます。しばらくはゆっくり休んで、いっぱい食べてくださいまし」
「でも、俺はあんたに、いや、お嬢様に恩を返したいんだ」
「ええ。もちろん返してもらうつもりではいますわ」
「ならっ」
「だからこそ、今日明日くらいはゆっくり休んでくださいまし。そうしたら――」
「そうしたら?」
「私の騎士になってくださいますか?」
私よりも少し背が高いロランを下から見上げるように言った。
するとロランは神妙な顔つきでうなずいてから
「もちろんだ。お嬢様。あんたがそれを望むなら、俺はあんたの騎士になる」
ロランが立ち上がり近づいてくる。
「ええ。よろしくお願いしますわ」
私の目の前までロランはやってきて、私の手をとった。
「え?」
「ありがとう。俺のお嬢様。俺は、あんたに絶対恩を返すよ。本当に、ありがとうございます」
そのまま彼は私の手に、手に――
――口づけをしたんですの。
そして彼は私に向かってウィンクをした。
つい昨日まで孤児だったというのに。こんな子供だというのに。元々男爵家の嫡男だったとしてもだ。
その様子はとてもサマになっていたのだ。
「そ、そんな、急に!?」
びっくりして変な声がでてしまう。顔が熱い。
――やっぱり! 絶対ロランですわ! 原作のロランですわ!? こんな、簡単に手に口づけを!
私はテンパりながら「と、とにかく! がんばるんですのよ!?」と叫んで、逃げるように部屋から転がり出た。
その翌日。
私は自分の領地の街へと赴いた。
婚約破棄してきた男に渡された金貨を持って。
目的は、戦力の確保だった。