孤児の少年
孤児の少年は昔は孤児ではなかった。
家が冤罪により没落して、両親と逃げ出したのだ。
両親はその途中で捕まり処刑。
少年は一人逃げしてスラムへとたどり着いた。
いつもひもじい思いをしていた。
雑草すら抜いてかじっていた。
けれど、間違ってると思うことはしたくなかった。
ただ生きているだけの日々だった。
殴られたら殴り返して、そうやって生きてきた。
誰も自分を助けてくれることなどないと思った。
なのに、なぜ目の前にいる少女は、自分を助けたのか。
少年にはわからなかった。
助ける意味なんかないっていうのに。
少年が殴られたところを助けてくれた。
価値のない自分を。
覚えたのは本当に久しぶりの感情だった。
「なあ、本当にどうして俺を連れて行くんだよ。いいことなんか、何もねえのに」
「気にしなくていいですわ。私がやりたいことをやっただけ。そして、私があなたに価値があると思うからですわ」
「……またそれかよ。こんなきれいな馬車だったのに、俺のせいで汚れちまってる」
少年は爺さんの持っていた布で体を拭いてきれいにしてもらったが、それだけで汚れは落ちなかった。
少年の座っている場所に土や泥の汚れがついている。
「そういえば名前を聞いていませんでしたわ。私の名前はアデライード。アデライード・ド・ラヴァルですわ」
「俺は、…………ロラン」
「そう。ロランというのね」
「……本当に、俺を連れて行かないほうがいい。あんたに迷惑をかけちまう。俺は昔は、男爵家で生まれたんだ」
そういって少年は過去の話をした。
もし、自分が取りつぶされた家の人間だとわかれば。彼女にも迷惑がかかってしまう。そう思った。
こんな、自分を助けてくれた恩を仇で返していいのか?
年齢だって同じくらいの少女だ。
彼女は一歩も引かずに、男たちに立ち向かった。
その意志と、その力が、とても尊いものに思える。
だから少年は自分が見捨てられることを覚悟して、言った。
「俺は、ロラン・ド・ブリエンヌ」
そういうとアデライードは驚いたように両目を見開いた。
「そんな、あなた、あの」
そりゃあ、嫌だよな。少年はそう思った。
犯罪者の息子であり、かくまえば迷惑になるだろうことはわかっている。
少年は自分でも驚くことにショックを受けた気がした。
「だから、次の街で降ろしてくれ」
「ロラン! 絶対に逃がしませんわ!」
思っていたのとは違う返事がきて、少年は驚いた。
なぜかそのあとアデライードは上機嫌になった。
そして屋敷につく。
するとアデライードは少年をきれいにするように指示して、部屋まで与えてくれたのだ。
――なんで、こんな親切にしてくれるんだろうか。俺は何も持っていないし、世間から見たら犯罪者の息子なのに。