私に狂犬になれというんですの?
初長編投稿です!
よろしくおねがいします!!
――凶報がもたらされた。
それは私――ラヴァル侯爵家の令嬢、アデライード・ド・ラヴァルが自室で紅茶を飲んでいたときのことだった。
執事長であるマッテオ・ディヴィッツィがいつもより強くドアをノックして、部屋へと入ってくる。
椅子に腰かけながら、近づいてくる彼を見上げる。
十二歳の私から見ると、彼はとても大きい。
初老の男で髪は白髪。背が高くがっしりとした体格をしている。顔には深いシワが刻まれている。服装はシンプルであり、黒いスーツに白いシャツ。黒いネクタイを着けていた。
いつもは優しい雰囲気をしているのに、今は恐ろしい印象を身にまとっている。
眼には物事を見抜くような鋭い光が宿っていた。
「お嬢様」
いつもとは違う彼の様子に、私は不審を声に乗せて尋ねる。
「なんですの?」
「旦那様がお亡くなりになりました」
その言葉を私は一瞬理解できなかった。
「……え」
「いかがなさいますか」
当主が死んだというのに、その声は冷たく平坦だった。
「……どういう、ことですの?」
「旦那様の侯爵家はこのままでは無残に終わりを迎えるでしょう」
冷たい声。
ガシャン、と音がした。私がティーカップを落として割ったのだ。
床にこぼれた紅茶とガラス片が広がった。
「いや、そんなの、まさかですわ。この名門ラヴァル家が……」
「名門とはいえ、もはやかつてほどの力はありません。経済の成長は停滞し、領民の人数も他領に比べて増えてはいません」
「だからといって、ラヴァル家が終わるなんて」
「終わりはしません。名門ラヴァル家は続くでしょうな」
どういうことなのかと私は思った。
「それではよろしいのではなくて?」
「旦那様の血は途絶えさせられ、親戚を当主としたラヴァル家となって、続くことになりましょうな」
「……なっ! そのようなこと、許されるわけが――」
「お嬢様はそういった生臭い話からは距離を置かれていたため、あまり存じてはおられないかもしれませんが。ラヴァル家を狙う勢力はたくさんあるのです。そしてお嬢様は、良くて親戚に娶られるか、他家への政略結婚の道具に。直系の男子であるルイ様は謀殺されましょうな」
冷たい未来予想だ。
「ま、待ってください。そんな急に言われても。気持ちの整理がつきませんわ」
私は混乱する頭を落ち着けようと、額に手をやった。
「このままでは、まずそうなるでしょう」
私は助けを求めるようにマッテオを見た。
「マッテオ……」
初老の執事長は何の表情もないような顔で、私を見つめた。
「私は旦那様に恩を返すためにお嬢様のお力になるつもりです。ですが私のできることには限りがあり、せいぜい破滅を先延ばしにすることしかできません」
「そんな」
「ルイ様はまだ幼い。だからお嬢様がなんとかするしかないのです。お嬢様もまだ十二歳。その若さで、おつらいとは思いますが。お嬢様しかいないのです」
「どうしたら、家門を救えるんですの?」
もしかしたら自分にできることかもしれない、と思って尋ねてみる。
すると、マッテオはこともなげにいった。
「狂犬になることですな」
「えっ!?」
マッテオはもう一度いった。
「お嬢様が狂犬になることでしょうな」
聞き間違えないように、ゆっくり、はっきりいった。
「きょ、狂犬ですの!?」
「私の知る手法ではそれしかありませんな」
まるで好々爺といった様子を普段からみせていたマッテオの言葉に衝撃を受けた。
「わ、私には無理ですわ」
「お嬢様のご英断、お待ちしております」
そういってマッテオが部屋から出て行った。
「むり、ですわよ」
親族を名乗る男がやってきたのは、その数日後のことだった。
本日、一時間おきに5話まで投稿予定です!!!
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