音也編 勇者始めます
元短編です。
「よくいらっしゃいました、勇者様。そして、我々の問題に巻き込んでしまったことを大変深くお詫び申し上げます」
わぁ、可愛い。てかここ、確実に日本じゃないな…。
うん、まぁ…これ、何となく察しつきますけど、いわゆる異世界召喚ですよね?
小説投稿サイトでよく見るあれですよね?
チートもらって無双したり、もらわなくても無双したり、ハーレム作ったりして尚モテるやつですよね?俺も読んでたから分かるよ!!
でも、いざフィクションが現実に、更に自分に降りかかるとこんなに訳分からないもんなんだね〜。初めて知ったよ。周りには…うん、誰も居ないね…。
「あの…その勇者って…もしかして、俺ですか?俺…ですよね?周りに誰も居ないし…」
「はい。我々の国に伝わる秘匿された魔法術式を使用し、勇者に相応しい人格と力を持っている者をお呼びしました。勇者様には大変申し訳無いのですが、これから半年間の訓練を受けた後に魔大陸へと私達と共に向かっていただきます」
「へ、私達とってことは…君と?」
俺は僅かな期待を込めてそう言った。
「いえ、私の他に護衛の三人が同行しますので、五人で魔大陸へ向かいます」
ま、流石に二人だけは無いよな~。少なすぎるし、男女一人ずつって戦力無さ過ぎるもんなぁ。
「分かりました。じゃあ―「え?」え?」
「いえ、す、すみません。こんなに早く納得していただける例は聞いたことが無かったもので…」
「…やっぱりそう思います?でも僕の方の世界だと、最近こういうの多いんですよ。物語とかで」
「は、はぁ…」
「だから、俺は全然大丈夫です!あ、因みに帰る方法ってあります?」
「あ、はい。有ることは有ります。ただ…」
「ただ?」
「ただ、魔力の充填に時間を必要としますので、帰るとなると、当分は難しいかと…」
「分かりました!で、俺はこれからどうすればいいんです?」
「はい、ではまず、こちらの魔力測定水晶に手を触れてください。一つの目安になりますので。その後陛下に勇者の召喚に成功したことと、魔力の報告に行きます」
「じゃあ、こんな感じで大丈夫ですか?」
そう言うと、俺は水晶に手を触れる。
おお、何か不思議な感じだ。
気力が吸い取られていくような、水が水道管を通り抜けてゆくような感じがする。
うん?何か神官さんみたいな人がびっくりしてるな。
「凄い…。魔力数値が530000!?見たことない…こんな魔力量…」
530000て…。どっかの帝王じゃないんだから。
◇◇◇
結局、あの後俺の魔力量は600000を越えたところで止まった。でも、神官さん曰く、最初からこの高さなら、もっと高くなれるとのこと。記録でも、五十万を越えたのは居なく、大体が三十万前後なんだそうだ。
この世界の人間だと、千前後が平均で、高くても二千ほどらしい。
歴史上の人物だと、帝国の初代皇帝が十万を越えていたそうだ。他だと、初代勇者は記録に残っていないが、驚異的な数値だったとも、測り切れなかったとも言われているんだと。
何だそれ。
「君が召喚された勇者様ー?」
「え!?」
誰だこの人は。秘密裏に行われてるから、関係者以外誰も居ないって言ってたのに…。
「あぁ、突然悪いね?でも、もう少し察しがいいかと思ってた。ここは今、関係者以外立入禁止。少し頭を使えば分かると思うけど?」
「おい。もう少し言い方ってものがあるだろ、ラディリアス」
「アイザック…。そうかもしんないけどさぁ…。召喚が行われたことはまだ公表してないどころか、城の内部でもごく一部の限られた人しか知らない。もうちょい分かっても良くない?」
「馬鹿か。召喚されたあいつはまだ殆ど何も聞いてないし、知らされてもないんだぞ。それに至ることはあっても確証は得られんたろう」
うーん。スゴイ置いてきぼり。
あの背の高い人には一応庇われてるんだよね?
あんまそう感じないけど。
「うーん…それもそうなのかな?ま、別にいーけど」
「おい…。おっと、すまないな。俺はアイザック。護衛の一人だ。そして。こいつが…」
「…ラディリアス。お互い面倒だけど頑張ろうねー。じゃ、また後で」
「おい、ラディ!…すまない。悪気がある訳じゃないんだが、口が悪くてな」
「あ…あぁ、よろしく。俺は―」
「勇者様。すみませんが、自己紹介は陛下にお会いした後にお願いします」
名前を言う前に、神官さんから、呼び止められる。
どうやら王様の所に行くらしい。
「え、あ…うん。じゃあ、アイザックさん。また後で」
「気にするな、それよりもこれからあいつにお目通しか。大変かもしれないが頑張れよ」
「…!アイザック様!陛下をあいつ呼ばわりとは…!」
「しまった、つい…。まぁ、ここだから大丈夫だろう?」
何の話だ、それ。全然ついていけてない。
王様をあいつ呼びする人と、それを注意する美少女神官。
もう全然分からない。
◇◇◇
「先ほどはお見苦しいところをお見せしました…」
「いえ、大丈夫ですよ。それよりもアイザックさんって一体…?」
「先代国王陛下と旧知の仲であったとか…。詳細は伝えられておりませんので分からないのです。ですが、陛下が彼の身を保証するとのことなので、王城に居るという訳です」
へぇー。今の王様がアイザックさんの身を保証ねぇ…。
…うん!?
「先代国王陛下と旧知の仲!?どう見たって二十代ってところですよ!?さっき聞きましたけど、王様は今年で即位して10年なんですよね?」
「あぁ、見た目に関しては彼が魔族とのハーフであるからでしょう。魔族はある程度歳を重ねると見た目に変化が出ませんから」
「魔族とのハーフ!?この国は魔族と戦ってるんじゃないんですか!?」
「えぇ…そういうのもあったのですが、陛下が彼が何か起こした暁には自分が責任を取ると申されまして…。我々としては陛下が命じて下さればそれに従うのみなのですが…」
「…ですが?なんですか?」
「…。謁見の間に到着しますので、お話はここまでに致しましょう。その話はまたいずれ。…直ぐに分かるかもしれませんが」
「え?直ぐに分かる?」
「…はい。個性的な方ですので…」
何か言い淀んでる感じだな。すごい頼りなさげな感じの人なのかな?
だとしたら大丈夫かな?王様にへりくだられても困るんだけど。
俺まだ学生よ?先月やっと17歳。立場も年齢も何もかも全て上の人に頭下げられるとか勘弁なんですが。
「…大丈夫ですか?謁見の間には陛下と軍団長、側近の3人だけですので、今回はまだ簡略化されている方ですが…」
「あ、うん。大丈夫。そうだ、神官さん」
「はい?何でしょう?」
「名前、教えてよ。これから長い付き合いになりそうだし」
「へっ?な、長い付き合い?いや、あの、その、そ、そう云うのはまだ早いと言いますか、まずはお互いを知ってからと言いますか…」
「え?ち、違う違う!同じ旅の仲間としてよろしくってこと!それで、まずは名前教えてほしいなーっていう感じできいただけなんだけど…」
「へ?あ、そ、そうですか…。取り乱し失礼しました。私はグレースと申します」
「じゃあグレースさん、よろしく。俺は皇音也って言います」
「だ、駄目ですよ!先に教えては、さっき制止した意味が…」
俺は口元に指を寄せ、しーと合図する。
彼女も俺のジェスチャーで察してくれたようだ。
その後、小声で『本当は勇者様は最初に名前を告げるのは陛下でないといけないんですが…内緒ですね』と悪戯っぽい顔で言った彼女の顔は最初に会った時よりも可愛く見えた。自然に出たものだからだろうか。
会ってまだそんなに経っていないが、これなら彼女と仲良くやっていけそうだ。
「では、行きますよ。良いですか?」
「うん。お願いします」
彼女が扉を4回、ドアノッカーで鳴らす。
すると、扉が音を立ててゆっくりと開いていく。奥の数段高い玉座に座って待っている人が居た。
マントを羽織って王冠を被り、杖を所持している。
間違いなくあの人がそうだろう。
だが、俺はまだひざまずくことはできない。したいのはやまやまだが、今はまだ異世界の客人、更には勝手に呼び出されているので王様とも対等にとのこと。
勇者に任命され、初めて跪くことが許されるんだとさ。
結局は王様に跪くのね。
そんなことを思いながら待っていると―
「おぉ、そなたが召喚された勇者か。待っておったぞ!」
「えぇっ!?」
いきなり玉座から立ち上がり、歩いてくると、俺に握手を求めてくる。
随分とフレンドリーな人だな。
「陛下!勇者様の名乗りがまだです!」
「おおっと。そうであったな。余はライアス·フォン·アルカイドである。貴殿の名を聞かせていただきたい」
遂に来た。ここで自分の名を名乗って、勇者の称号をもらうまで立っておくんだよな。
そして聖剣を受け取ってから、膝をつく。準備は出来てる。
「私の名は皇音也です。姓は皇、名は音也です」
「そうか。では、オトヤ·スメラギ殿と呼べばいいかね?」
「はい、お願いします。ライアス陛下」
「では召喚勇者、オトヤ·スメラギ。貴殿にこの聖剣を授ける。我等と共に戦ってくれ」
「はっ。承知致しました」
ここで剣を受け取って、膝をつく、と。
立ち上がって、腰に剣を差す。
「では、これから宜しく頼む。オトヤ殿」
「畏まりました。陛下」
「…よーし、堅苦しいのはここまでだ!オトヤ、私と手合わせでもせんか!?」
いきなり何言い出すんだ、この人!?
王様が剣を振れる訳―。
「…オトヤ。国王たるもの、自分の身を自分で守るとは言いにくいが、時間稼ぎが出来る程度には剣を嗜んでおるのだよ。それとも…私が三十代だから、見くびっているのかな?」
「…あー、もう、分かりました!やりますよ、ただし、刃を潰した練習用のやつですよ!」
「勿論だとも。怪我を負いたい訳ではないのでな」
それから俺は、王様と三本勝負をして勝ち、王様の無念を晴らす!と王様の専属騎士に1-2で負けた。
最後に一本取れたけど、ほぼ偶然みたいなもん。半年間の修行でどれだけ成長出来るか楽しみになってきた。
◇◇◇
それから俺は、あの時の二人を改めて紹介してもらい、いずれ行動を共にする仲間として、彼らから多くのことを学んだ。
中でも衝撃だったのが―。
「オトヤ、君には僕たちと盗賊の討伐について来てもらう」
「?二人の実力を見るってことか?もう十分知ってるけど」
「違うよ、オトヤ。君に殺しを知ってもらう為だ」
さも当然のように俺に人命を奪うよう言ってきたことだ。
でもこれには理由があった。
「!?何でだよ!」
「何故か?簡単なことだ。敵を逃がすと保障が出来ない。後の憂いを絶つ為にも殺すのは当然だ」
「オトヤ、この世界じゃ殺しなんて別に珍しくもないのさ」
「命を奪うんだぞ!?悪いに決まって―」
「オトヤ。それは君の世界の常識だろ?君の常識をこっちに押し付けないでくれ。文字通り君と僕たちの世界は違うんだから」
「悪いが、それに関しては同意だな。殺さなければ自分が殺される世界だ。命の重さが違う」
「…奪わなくてもいい命かもしれないじゃないか」
「…かもね。でも、こっちじゃ命は大して重くないんだよ。殺すか殺されるか、そう云う世界なんだ」
二人の言い分も全く理解できない訳じゃなかった。
勇者になるってことは、いずれそう云うのもあると思っていた。
けど、それはあくまで不可抗力みたいなもので、それほど強い意志を持ってやることだとは、思ってもみなかった。
二人の言葉に、俺はかなり複雑な思いを抱いていた。
そんな俺の心情を軽くしてくれたのが、もう一人の護衛である彼女だった。
「二人が君にはっきりとああ言ったのは、それほど君を心配してるからだと思うよ」
「…心配?」
「勇者という色眼鏡で君を見るのではなく、オトヤ個人を私達は見ている。君の持つ考え方や倫理観は私達の世界には多くないものだ。君にただ漠然とした思いのまま、それを経験させてしまったら、強い罪悪感に苛まれるかもしれない。だからこそ君を否定するのではなく、肯定しているからこそ、合わない部分は反発する。自分達に矛先を向けさせて。そっちの方がよっぽど良いことだと私は思うけどね」
「…ありがとう、ミアさん。まだ、納得は出来てないけど、違う捉え方が出来そうです」
「なら、良かった。それじゃ私はグレースのとこに戻るよ。何かあったら声掛けな」
そう言うと、ミアさんはこの場から立ち去って行く。
俺がこの世界に対して、あまり悲観的にならずに済んでいるのは、二人がこの世界の現実をきちんと教えてくれること、グレースとミアさんがフォローを入れてくれるからだろう。
◇◇◇
オトヤが異世界へ召喚され、一月程が経った頃。
「で?勇者の現状は?」
「…はい。順調に、いや、それ以上に学び、吸収しています。目安の成長具合には、あと一月もすれば達するかと」
「そうか…だが、二ヶ月で出すとなると周りからの声が懸念される。最低でも三ヶ月は居てもらわねばこちらとしても困る」
「いずれにせよ、彼の成長具合は目を見張るものがあります。私も危機感を覚える程には」
「ほう、間近で見てそう感じたか。ラディリアス」
上司である彼に膝をつくラディリアス。その男はラディリアスを見ず、窓から見えるアイザックと組み手中のオトヤを観察していた。
「はい。彼曰くそれなりに平和な世界であったようで我々とは違い、戦闘に関して強い忌避感が有りました。特に、命の扱いについて」
「なるほどな…だが、順応してもらわねば困る。でなければ召喚した意味が無い」
「はい。遂に明日、勇者と共に盗賊の討伐に参ります。その際に否が応でも知ることになるかと」
「うむ、だがそれで支障が出るようでは困る。勿論それについても考えているのだろうな?」
「はい。剣で直接ではなく、魔法と剣を複合して使用し、殺しの実感を少なくさせます。まずはそこから始めようかと」
「…これは特殊な任務だ。周りの人間にも一切他言無用は当然。分かっているな?」
「はい」
「なら、いい。下がれ」
「失礼します、オニキス様」
ラディリアスは立ち上がり、部屋を出る。ラディリアスのが立ち去ったことを魔力で確認した後。
「…聞いて居られましたか。ジェラルド様」
「オニキス、お前は随分と良い駒を持っているな…私に譲る気は無いか?」
「御冗談を。幾ら我が主とはいえ、それにはお応え出来ません」
「はっはっは!冗談だ。私もお前も立場というのがある。そう簡単には行くまい」
「どうなさいますか?暗殺者を用意し、今のうちに消しますか?」
「何を言っている。それで後々困るのは私だ。…そう云うのは後でいい」
「かしこまりました。それでは私も仕事がございますので、失礼します」
「あぁ。勇者の顔も見たことだし私は帰るとしよう」
そう言いながらジェラルドは姿を消していく。
「相変わらず何と凄い能力だ…。流石、魔王軍の幹部でいらっしゃるだけの事はある」
◇◇◇
俺はアイザックと魔法やスキルを一切使わない模擬戦を行っていた。
「いいぞ、オトヤ!本当に今まで経験が無かったのか?」
「だから…俺は拳法は知らないって!」
「本当に知らないのか!?…うん?」
「どうした?アイザック」
急に止まったかと思うと、空中を睨むアイザック。何を見ているんだろう。
「何でもない。オトヤ…少しそこで待っててくれ」
そう言うとアイザックは空中に飛び上がり、左手に魔力を集中させる。
そのまま空を殴ったかと思うとアイザックの拳は突如虚空より出現した、右手によって掴まれていた。
意味が分からない。今何が起きているのか、何故アイザックが分かったのかも、分からない。
「おいおい…どういうことだ?何故分かった?」
「感じたんだよ…魔族の気配をな!」
「お前…無茶言ってるな。これは私の固有スキルだ。分かる筈が無いだろう」
「なら、どうして俺にバレたんだ?答えは簡単。お前がそれを使い馴れていないからだ!」
「ふん、よく分かるな…が、私は戦いに来たつもりはない。消えさせてもらうぜ」
「…お前、魔族だな?何をしに来た!」
「答える義理は無い。じゃあな」
「なっ…ま、待て!」
アイザックが何かと言い争いをしているようだけど、遠くて俺にはよく聞こえない。
「くそ…逃した」
アイザックが空中から降りてくる。アイザックは何を見たんだ?
「何だったんだ?今の」
「悪い、オトヤ。後で答える。俺は王のとこに行ってくる」
そう言ってアイザックは陛下が居るところに飛んでいく。
話を聞いたら俺もあの魔法を教えてもらおう。出来るといいな。
「夢みたいだけど、やっぱり現実なんだよな…」
◇◇◇
「遂に討伐か…やだなぁ、昨日のも出来なかったし」
「あれはコツがいる。一日やそこらで出来るものじゃない。後で教えてやるよ」
あの後、戻ってきたアイザックに話を聞いたところ、魔族が侵入していたそうだ。目撃情報や紛失物等も無かったそうだが、一つだけ、俺が召喚された場所に何者かが入った痕跡があったらしい。
侵入者の目的は俺ってことなのか…?
「ま、そんなことよりも今やるべきことに目を向けようか、オトヤ」
「グレース、ミアさん…何で二人が居ないんだ…」
「二人は用事があるとあの後言ったろう。諦めて受け入れろ」
「ぐっ…分かったよ。盗賊でも魔族でも何でも来いや!」
「オトヤ、余計なこと言わないの。ほんとに来たらどうすんのさ」
◇◇◇
遂に到着した。この洞窟に最近違う国からやって来た盗賊が根城にしているらしい。
「オトヤ、もう一度確認するぞ。基本的には俺達3人で制圧。無力化させた奴らを護衛の騎士が回収。生死は問われていないが、唯一この盗賊のリーダー、ジョン・ドゥだけは指定されている。分かるな?」
「…あぁ。分かるよ、アイザック。要はそいつを…ってことだろ?」
「そうだ。報告によると、そいつは他人に成りすますことが出来るらしい。そうやって今まで逃げてきたとのことだ」
「許せないよな…人をなんだと思ってるんだ」
「オトヤ。逃がしちゃ駄目だ。これ以上多くの人を苦しませちゃいけない」
「あぁ、俺も覚悟決めたよ。人を守る為に、剣を振るう」
「その意気だ、オトヤ。勿論、俺達もサポートする」
「流石だね。勇者に相応しい人格…間違って無かったね」
「ありがとう、二人とも」
急に改まって言われるとむず痒いな。まだ勇者として何もしてないのに。
これがテンプレってやつなのかな?
いや、違うな。これは俺の人生だ。テンプレだとか、そんなのは関係ない。
どうするかはその時に考えればいい。明日のことは明日考えよう。人生って多分そう云うもんだろ。
「よっしゃ、やろうぜ、二人とも!」
「準備は出来てるのか?ラディリアス。俺達はあくまでサポートだぞ」
「アイザック、僕を何だと思ってるのさ?君こそ平気なの?」
「ふっ、当たり前だ」
俺達は3人で洞窟へと突撃する。始めに思いっきり大魔法をぶっ放す。
「敵襲、敵襲ー!騎士が来た―ぐぁっ!!」
「遅いな。仲間への連絡は迅速にするべきだ。こうなるからな」
アイザックが一瞬にして、敵を両断する。速いな。一切の迷いが無い。
「おい、何だこれは!てめぇ等、騎士の奴らが来やがったぞ!」
「たった3人で乗り込むとは、随分舐められたもんだなぁ!!てめぇ等覚悟し―」
「煩い。喋るな。消えろ」
ラディリアスが光魔法で偉そうなやつを消し飛ばす。
魔法の構築スピードが途轍もなく速い。俺はまだあの二、三倍以上はかかる。
そうやって下っ端共を殲滅していると、とうとうその時が来た。
「お前ら、俺の根城をよくもこんなにしてくれたな…あいつらも皆やられてるじゃねぇか。ちっ…使えねぇな」
「お前がジョン・ドゥか?」
「そうだと言ったら?」
「お前を倒す」
「良いねぇ。思い切りがいい。欲しいな…」
「オトヤ。奴の魔法に気を付けろよ」
「あぁ、分かってる」
俺は剣を構え、対峙する。相手も腰からダガーを取り出し低く構える。
いきなり相手が地面を蹴り、心臓付近を狙って飛び込んで来る。
俺はそれを剣の刃で受け止め、ダガーを弾く。それは向こうの方へ転がっていった。
「くっ!!」
「やるじゃねぇか。が、これはどうかな?」
そう言うと奴は俺から距離を取り、腰から笛を取り出す。
「幻惑魔法-無音の笛-」
笛で何かを吹いているが、何も聞こえない。
奴はニヤリと笑うと、腰からもう一本ダガーを取り出す。
すると、突如、ジョン・ドウが8人に増えた。
俺をあっという間に取り囲む。
どれだ?どれが本物だ?チラリと二人を見るが動く様子は無い。
つまり、これは俺一人で対処出来るということだろう。
ひとまず俺は、自分の背後に居る奴に狙いをつけ、突撃する。
「オトヤ、行くな!」
「うっ!?あっぶねぇ…やられるところだった…」
「ちっ、流石に其処まで馬鹿じゃねぇか…」
どういう訳か下から来ていた奴だが、すんでのところで身を翻して躱すことができた。後少しでも遅れていたらやられていただろう。
「お前、後ろのどっちかと変われ。もうお前に興味はねぇ。飽きた」
「何だと…!」
「そうやってオトヤの冷静さを失わせる気か?オトヤ、あいつの言葉を聞く必要は無い。とっとと終わらせるべきだ」
思わず頭に血が上りかけるが、ラディリアスの言葉で冷静に戻れた。
「…分かった。ラディリアス、済まない」
「そう思うんなら、さっさと終わらせちゃって。僕らはこんなのに時間かけてられないんだよ?」
「あぁ…そうだったな!炎魔法-地獄炎-」
俺は魔法を剣に乗せ、炎の斬撃を放つ。
その威力を察知したのか離れようとするが、奴は間に合わなかった。
悲鳴すら上げることなく、消し炭になる。
「ふぅ…これでやっとスタートラインか…」
「よくやった、オトヤ。俺達の援護は必要なかったな」
「ね。相手にデバフ掛けなくても平気だったもんね。でも、オトヤ。帰ったら修行して、魔王討伐に何ヵ月か先か分からないけど、行くからね」
この世界に来て、一ヶ月と少し。やっと勇者を名乗れそうです。
元々は短編で、別視点で続きを書こうとしていたのですが、後編に書くことが増えて置きっぱなしになってしまったので連載にします。
全3話の予定です。
閲覧ありがとうございます。
感想、誤字脱字等の報告よければお願いします。
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