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覚醒

◇武之-11才10カ月-


父の葬儀が終わり一カ月。母さんは、今のパートの仕事と、武之の食事や家事で働きながらも、小学生の武之をを育てるためパートをフルタイムでできる限り入りながらも、他のパートの掛け持ちするため面接に行ったり、在宅で仕事ができないか調べたり、日に日に痩せこけてきていた。


「武之も、学校にだけはできる限りいくのよ。場合によってはフリースクールっていって学校行けない生徒たちが出かける場所もあるからね。ちょっとずつでいいからおでかけしましょ。」


と優しく諭してくれるが、学校のイジメの恐怖が自分の心に色濃く残り、なかなか行く気になれなかった。


そんな優しと真逆に、武之は自室で、ネットサーフィンをしたり、母が近くの図書館で借りてきた本を読んだりしながら、気持ちを落ち着かせていた。


そういえば、父さんが託してくれた『覚醒玉』だっけ。大切にしなくちゃいけない。

このままだったら子々孫々にと言っていたお爺ちゃんの言葉を果たすどころか、自分が飢え死にしないかどうか考える方が心配だ。


「でも、なんかあの覚醒玉って玉、水晶っぽいけど、水晶じゃないよな。」


武之は、あらためて覚醒玉を目の前に置きながら、ネットで「鉱物図鑑」「水晶」「覚醒玉」「神人」などと検索して調べてみた。


そうして分かったことがある。


1.これは絶対に水晶じゃない

2.該当する鉱物が見当たらない

3.覚醒玉に関する記述は一切出回っていない

4.神人の定義はもはや空想的で意味は分からない


ということである。


あやしく虹色の光を薄く宿す覚醒玉を見て、これは本当に一体なんなのか、父さんを含め、ご先祖様は一体なにを僕に託したのか全く分からないまま謎に包まれれるのであった。


◇武之-11才11カ月-


母さんが倒れた。元来それほど体力があるとは言えなかった母さんだったが、ずっと気丈夫に働き、過労で倒れた。夜も眠れない日が続いていた。


パートに家事に、父の死に、心も体も限界に至ったのは明白だった。


それなのに僕は、何もできなかった。部屋に閉じこもって引きこもり、母さんに心配ばかりかけてしまった。武之は、もうこのまま引きこもってはいられないとすぐに救急車を呼び、母さんを病院に連れていくことにした。


救急車の隊員が、「ボク、お母さんは大丈夫だよ。必ず良くなるからね」とニコッと励ましてくれたが、痩せこけた母の姿に、心配はしているようだった。


神野家では、もうすぐ成人とは言え、世間ではまだまだ小学6年生だ。親の保護が必要な年齢であり、なんの力もない無力な少年でしかないだろう。


近くの総合病院で診察をしてもらった結果、母さんは精密検査が必要だということで、入院することに。


その間、小学生の武之をどうするかと、病院の先生に母さんは相談していたが、一時的に児童養護施設に預けらえることになり、速やかに手続きが進めれた。


「神野めぐみさんのこどもの武之くんだね。大丈夫だよ。お母さんが元気になったらまた会えるからね。少しの間だけ寂しいだろうけど我慢してね。」


でも武之は、決意した。


「大丈夫です。僕家でちゃんと留守番します。家事もできます。」


周囲が「えっ」と驚いた。聞くところによると武之は患者としているシングルマザーとなった神野めぐみで、一人っ子。そしてまだ小学6年生だ。さすが児童保護の視点から大丈夫か心配かと思われたが、武之の目に宿る決意にも似た目に圧倒された。


それはもしかしたら、父親の託した成人という言葉を、独り立ちという意味で捉え、間近に迫る自分の誕生日に向けて、何かの皮を剥こうとしている武之なりの決意だったのかもしれない。


それから、母の診察と入院の手続きが終わり、武之は、めぐみから自宅で生活する諸注意を聞きながら、わずかながらも1週間分程度の生活費を託され、家に帰ることにした。


母さんが、心配してタクシーを呼ぼうとしたが、救急車で20分。徒歩60程の帰り道だ。

節約して、徒歩で帰ることにした武之。父も死に、母もこのような状況になった今、自分の人生を真剣に考えざるえなかった。もう「こども」のように無邪気に遊んでばかりはいられない。


父は言った。神野家の成人は12才だと。そして生前父が肌身離さず大切にしていた『覚醒玉』を成人の証として最期に預かった。


右手に覚醒玉をぎっちり握りしめ、


「もう甘えてなんかはいられない」


「父の死を、母の病状を悲しんでばかりではいられない」


昔何かの偉人伝で読んだ、『天は自ら助ける者を助ける』という言葉がふと心に浮かんだ。

そう母に、父に頼ってばかりいても何も解決しない。自分のことは自分でなんとかする!


◇12歳の誕生日1週間前。


母さんが入院して3週間が経つ。なぜか母さんの入院日数が延びている。毎日のように電話がかかってきて、「今日は何食べたの?」「家の掃除は?」「可燃ごみは水曜日よ」「何か困ってることはない?」「食費は事前に渡した銀行のカードから下してね。パスワードは4649、ヨロシクよ。忘れないでね」など事細かに連絡をくれて、心配をしてくれた。


ただ、武之は、試行錯誤はしたが生活はなんとかできるようになっていった。


預けられたお金で、近くのスーパーまで自転車で行き、安い食材を購入。

炊飯器の説明書を見ながらお米を炊き、卵をかけて食べる所から始まり、母さんがベランダに育てていたネギや、小松菜なども利用しながら、簡単な野菜炒めをするなど、その日の生活を過ごした。

いじめから引きこもっていた小学生が、近くのスーパーまで買い物するのだって勇気がいることのだが、背に腹は代えられない。


ネットで節約レシピを検索して、餃子やパンを焼いたりもして母さんを驚かせたりしたし、今まで引きこもっていた僕が自立していく姿を母さんに報告できるのが毎日の自信につながっていった。


当たり前だが、家に母さんがいないからといって贅沢はもってのほかだ。

こどもだからって、もうこどもじゃないんだ。家計のことも自分で考えなくちゃ。


母さんは食費を二人で2万円で計算してた。今は母さんのパートの収入もなくなる。

貯金は50万あったけど、母さんの入院費用と今後の家賃や生活費を考えるともう焼け石に水だろう。


母さんの入院日数が延びている。最初は一週間ぐらいだと聞いていたが、本当に大丈夫なのか。

いろいろ不安がよぎる。


どうする?あきらめるのか?母さんもきっとこんなことを毎日考えて精神的に疲弊していったんだろう。

だけど生き筋を見つけ出せ。


きっと何かあるはず、考えろ、考え続けろ!


武之は、12才になる直前、必死に自分の殻を破り、生まれ変わろうと、毎日、何時間も考え続けた。

生きようとした。何に母が悩み、父が悩み、自分の人生の生き筋はなんなのか、このままいけば絶対絶命は必至だった。


そして、なぜか母の入院日数が延びていく内に、武之は12才の誕生日を自宅で一人で迎えることになった。


◇12才誕生日-覚醒!?-

5月27日。そう僕の誕生日だ。相変わらず学校には行けていないが、生活には慣れてきた小学6年生の武之。いつの間にか進級してて、封を開けない学校からの便りが何通も溜まっていた。


一昨年の秋に父がリストラされてから、神野家は一気に転落していったが、気持ちの面では、1カ月前母さんが倒れてから、逞しくなったものの現状は変わらない。

今も考える。

「力が欲しい」と。


何の力?と自問する。

「現状を打破する能力」

「世界を根底から変える強い力」

「自分の不運を、逆境を、困難を、苦しみを全てを変える力」

「父のリストラ依頼、悩みの根っこにあり続けた経済力、そしてそれを洞察する知識」


なぜ自分はこんな不運な世界で生きなくちゃいけないの?とまた自問する。

「自分よりもひどい逆境を乗り越えた人はいくらでもいる」

「戦争や紛争で、亡くなる人だっている」

「もっと幼く施設に預けられているこどもだっている」

「必要ななのは世界を動かしている知識」

「自分にないものは見識」


それは単たる哲学?空想?思考停止?

「違う!現実の努力はいくらでもしたい!」

「しなければならない!」


母が倒れて、ずっと考え続けた。それはこどもの空想と言われるかもしれない。

でも現実に必要で足りてないもの。

誕生日だというのに、ふと気づけば右手に父さんの形見ともいえ、託された「覚醒玉」をぎっちり握って、いつしか自問自答から、大きな声を張り上げて叫んでいた。


◇武之-覚醒-

大きな声を張り上げた後、なんと右手に持っていた「覚醒玉」が急に輝き始めた。

薄っすらと虹色に輝いていた透明な『覚醒玉』が、徐々にその光を強め、ますますその光を強くしていく。

一体何が起きたんだ?

まばゆく光に武之は、驚きのあまり頭が真っ白になったが、その真っ白な頭脳に語りかけるように声が響いた。

「神野武之、あなたに全世界の叡智と繋がる神人と認めん!」

厳かに聞こえてきた声とも言えぬ声の後、今までのわずか12年で学び、触れてきたもの忘れていたような知識、記憶、映像、文字、物と物、人と人のつながりが一斉に頭の中で渦巻き始めたのだ。それは学校で学んだ授業の一言一句はもちろん、友人との会話、何気に聞き流したテレビの一コマ、まだ赤子だった時に両親にかけられた言葉の端々、さらには書店や図書館でペラペラとめくったページの詳細にいたるまで、全ての知識が、大洪水のごとく溢れた。


大量の知識の大渦の中で、急速に噴火し、沸騰し、冷却しするマグマのように、過去の記憶の全てが、あふれ出し冷却されていった。

もっと言うなら脳内のあらゆる神経網が一旦は断裂するかのような混沌と困惑の後に、急速に整理されていったのだった。


神野武之12才。神人として覚醒した日であった。

『覚醒玉』が武之に与えたものは、武之が”認識”したあらゆる世界にアクセスし、知識を引き出す全能の力であった。


彼の現状は未だ変わらない。そして彼が『覚醒玉』から得たものもたかだか12年の間で得た認識程度である。これから不運の中から、逆境を打破し無双していく始まりの日をご覧頂こう。



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