1 天才と謳われる副隊長が誘拐されました
正直言って、それは僕が想定しうる事態の中で最悪なものだった。
「動くな、動いたらこのまま心臓を引きちぎる」
何の冗談だろうか、何故僕の身体の中に人間の手が入っているんだ。
「くくく、驚いただろう?俺は触れたいものだけに触れることが出来る。だからこうして、貴様の胸の中に手を入れ、直接心臓を手に取ることが可能だ」
「………それで、親衛隊副隊長、ドライアル=ポリストリーの僕に何の用?」
「なんだ、随分と落ち着いているじゃないか」
「君のその腕があれば僕なんて瞬殺できたはずだよね?それをしないってことは、僕自身に用があるんでしょ?で、何が望みなの?帝国の犬、ゼファリン=ハウスフロー君は」
相手の眉が不機嫌そうにぴくりとしたと同時に、胸に激痛が走る。
引きちぎりは――されていないようだ。
「ふん、顔を見ただけで俺が誰か分かるってわけか。流石大国カルデリアの裏で糸を引く主ってことかい?なら、……この顔はどうだ?」
ゼファリンの顔が一瞬歪んだかと思うと、全く別のものに塗り替えられていく。
いいや、顔だけじゃない、身長、体つき、指の先まで、何もかもがぐにょりと変化をとげる。そして現れたのは…。
「――悪趣味すぎて反吐が出るね」
見間違うはずもない、僕の顔だった。
*
突如に、爆発音が響き、王城全体が揺らいだ。
「爆撃です!第一、第二部隊は女王様の身の安全を、第三から第五部隊は現状の確認、犯行者への武力行使を許可、第六部隊はソラン様――」
「私は必要ない。爆撃されたのはどこだ」
戸惑っている者も多い中、落ち着いて指示を出そうとしていた赤い鎧の親衛隊員を捕まえて、最も気になることを聞いた。
「ソラン様…!武器庫です。連鎖爆撃で、続く部屋が全て。恐らく砲弾を中心に多くの武器を損失致しました」
「………分かった。ドライアルはどこだ」
「副隊長…ですか?先程までレウリア様と共に執務室に居られました」
「……ヨベルを呼べ。執務室で待ってる」
「しかし、隊長は親衛隊の指揮権が」
「貴方がやって、第三部隊部隊長サンズ。これは王族命令よ」
「!――畏まりました」
間違いであればよかった。武器庫の爆撃は、私が知る限り最悪なシナリオだ。確かめなければならない、場合によっては、この国の命運がかかっているのだから。
サンズは一礼してすぐに駆け出した。洗礼された動きだ。
この城の戦士は皆一流だ。親衛隊は騎士学校でもトップ層で卒業しなければ入隊できない。少数精鋭を貫いていて、有事の際のみ動く軍とは違って、主に王族周辺の護衛を常時務めている。この王城はそうした人たちに守られている。そう……無事で武器庫まで侵入し、火をつけるなど考えられないほどに。
…無事でいてくれ、ドライアル。
執務室に向かいながら、私はそう願わずにはいられなかった。
*
「レウリア、ドライアル!」
勢いよく開いたドアの先には、親衛隊員に囲まれた二人が居た。
「お姉様!どうしたの?」
自分と同じ栗色の髪を傾けて、心配そうに私を見る妹と、その側に黒髪の美青年は立っていた。
「この騒ぎについてなら、武器庫が爆撃されたってことらしいよ」
その紫色の瞳は、うっとりするくらいに綺麗だった。そんな瞳をじっと見つめた。
「………ドライアル、貴方がいながら、どうして武器庫が爆撃された」
そう問うと、瞳は一瞬揺れて、そして彼は眉を下げて笑った。
「勘弁してくれないかな、僕も万能じゃないんだ、予想外のことくらい起きる」
「………」
「そんなに責めないでもらえる?はいはいごめんなさい、今回ばかりは何も分からないんだよ。全くの予想外。でも次はない。必ず元凶を突き止めて、貴女の目の前に引きずり出してみせるから」
「……分かった」
違和感は、感じられないくらいに小さかった。それでも私は確信を得た。
今すぐに動かなければいけない、ここでゆっくりしている暇なんてない。
「ソラン様!いかがなされましたか!」
「ソランさん、隊長さんまで呼ばなくても。今は犯行者の追跡の方が大事でしょう」
「お願いがあってきてもらった」
そう言うと、駆け足で部屋に入ってきた彼は軽く膝をついて手を胸にかざす。
「何なりと」
その姿勢に満足して、私は部屋の全員の前で命令を下した。
「私、この事件について調べたいの。暫く王城を抜けるかもしれないから、その間、レウリアの側にいて欲しい。片時も離れずに」
「ちょ、お姉様!」
「ソランさん、それは少し警護が厳重すぎますよ。せめて僕と交代で…」
「それでもヨベルにお願いしたい。ドライアル、貴方は戦況の分析を続けて。帝国は一筋縄では行かないんでしょう?頼りにしてる」
「……分かったよ」
「…ご命令、確かに承りました。ですがソラン様、無理だけは…なさらないでください」
ヨベルは、少しだけ心配そうな瞳をして、私を見つめた。それに構うことなく、部屋から出ていく。私が考えうる最悪の可能性が起きた時、国家で私を除いて武力面で最も頼りになるのは彼だ。ならば彼を常にレウリアの側においていくのが、一番良いのだろう。
部屋を出てまっすぐに廊下を突き進んだ。階段を上る。後ろに注意を向けるが、誰もついてきてはいない。武器庫は反対側だから、皆そっちに集まっていっているのだろう。
廊下をさらに進んで、目的の部屋の前で立ち止まる。
最上階の、城内がよく見える位置の部屋。人を監視するのが大好きなドライアル(やつ)の部屋だ。
「さて、大抵やばいことをしている貴方は、入ってくるなといつも言っていたけど、失礼するよ」
ドアノブの鍵穴は王族のマスターキーで開く。中に入ると甘い香水の匂いが漂い、女たちを迎えるための大き目で柔らかいベッドが整えてあった。これだけでも十分に広い空間だが、迷わずに私は本棚に向かう。
三段目の左から九冊目、赤いカバーの本を取ると、奥からレバーが倒れてくる。これを押すと、同時にカチャリと音がして、本棚の右側が手前に開かれていく。
なんてことのない隠し扉だ。建物の間取りの不自然さを考えれば気づくものだが、それでも大抵の人間は気づかない。気づいたところで、その能力がある人物が、わざわざ悪名高い裏の支配者ドライアルに喧嘩を売るほどの勇気はない。だいたい部屋の鍵だって彼が肌身離さず持っているのと、マスターキーくらいだから、まず入れない。
「…これは」
彼の奥の部屋へ足を踏み入れて、確認したのは地面の巨大な魔法陣だった。農業から政治まで幅広いジャンルの報告書。ここは彼だけの執務室だ。
だが…この魔法陣だけは、彼の趣味ではない。
「…転移魔法陣」
無意識に、腰の剣に触れる。恐らく転移先はこの国ではないのだろう。それくらい、長距離移動用の大きさだ。もしかしたら敵地の中心かもしれないし、そもそも罠だという可能性だってある。
けれども、行かなければならない。彼と約束したのだから。
「ごめんヨベル、これはちょっと…無理をすることになりそうかな」
懐からクリスタルの欠片を取り出すと、魔法陣に向けて翳した。そして自分の生命力を込めて――私は転移魔法を発動させる。
*
「!――がぁ」
身体に激痛が走り、眠りから無理やり起こされる。
「……っ、やめて、くれないかな?……人を起こすのに、いちいち体の中に手を突っ込むのは……っ」
唇を血が出るほど噛んで、痛みに耐える。
そもそも僕はアホみたいに忠誠心が強い隊長と違って、痛みに対する耐性はそんなにないんだ。勘弁してくれ。
「この状態だというのにお前は余裕そうだな」
「あのねぇ……これが余裕そうに見えるなら君は目の病気だよ。もう、四日目の朝だよ?僕をこの牢に繋いで、好き放題に身体を弄られて」
「その言い方だとまるで性的拷問だな」
「似たようなものでしょ。見えざる手で僕の臓器を弄りまわしてさぁ、何が楽しいわけ?」
「ただのストレス発散だ。俺は触れた人間の外見になれるが、死人のコピーはできない。だから安心しろ、用が済むまでお前を殺すことはない」
「毎日挨拶代わりに僕の身体の中に手を突っ込んでいたら、そのうち間違えて殺されちゃいそうなんだけど?そろそろやめた方がいいんじゃない?」
「まぁ、確かにそれも一理ある」
そう言うと男は立ち上がった。
内心ほっとした、今日は長居せずにこれで帰ってくれそうだ。
「ッ!――がはっ」
そうはいかなかった。突如透明な手を僕の体の中に突っ込んだかと思うと、そのまま具現化させて勢いよく引き出した。
脳内まで響くような痛みに、喉から湧き上がってくる血を勢いよく吐いた。
「それじゃあな、その傷は明日来た時にでも手当てしてやろう」
「ゲホッ……待っ……ゲホッ」
咳き込むたびに腹部に激痛が走る。懸命に声を出そうにも男は見向きもせずに牢を出ていく。
僕は痛みを噛みしめて、荒い呼吸を繰り返し、なんとか意識を保とうとした。
「くそ……反吐が出る」
悪態をついて、少しでも楽な体勢を取ろうと身体をよじらせるが、両手を拘束具で壁に固定させられて、倒れることさえ許されない状況ではあまり変わりそうにない。
男は毎朝元の顔で現れて、僕をいたぶってから、僕の顔になって去っていく。
僕の顔で何をしているのか想像もしたくない。反吐が出る。
「まだ……まだだ」
まだ僕は負けてはいない。あんな男が僕より一枚上だなんて死んでも認められない。
全身に疲労感がどっと募るが、痛みで眠るに眠られない状態に陥る。男は僕を殺さないといったが、奴の用事が終わるのはそう遠くないのだろう。…それまでには、ここを出ないと。
虚ろな状態で、しばらく時間が経った。
牢へ続く階段を下りる足音に、まさか男が戻ってきたのかと一瞬顔を強張らせたが、すぐにその足音が男のものにしては軽いのだと察した。
「――僕の勝ちだ、ざまぁみろ」
僕はこんな状況だというのに、ほそく笑って見せた。
*
ドライアルが偽物かもしれない。
そう思ったのは、初めはただの勘だった。
けれども、私達はある約束をしていたのだ。
「ちょ、武器庫に爆弾を仕掛けるって、貴方本気?」
「本気だよ。しかも火をつけておくんだ。このろうそくは四日間で燃え尽きる。燃え尽きるとね、下の導火線にそのまま火がついて、どっかーんって感じ」
「連鎖爆発で全部終わるよね?城の砲弾の全てが」
「うん。ついでに武器もほとんど使えなくなると思う。それでもその全て以上の価値があるものを守るのに必要な保険だよ」
「価値あるものって?」
「僕」
「ふざけてる?」
そう聞いた私があまりにも可笑しかったのか、彼は楽しそうに笑った。
「至ってまじめだよ。僕は毎回、ロウソクが燃え尽きる前に新しいものと交換をしにくる。この仕掛けのことは君以外に誰にも教えていない。つまり――もし武器庫が爆破されたなんていう大事件が起きたのならば」
「貴方が、身動きが取れない状況だという証拠」
「うん、流石僕が見込んだ剣姫。君が僕を守る最後の砦になるってわけ。この国は、僕という頭脳を失うくらいなら、幾分か武器を失った方がずっとましだ。僕も想像はしたくないんだけど、万一誰かの策略に嵌って囚われた時は、これが君への合図になる」
「貴方を策略に嵌められる人が本当にいるとしたら、あんまり戦いたくはないんだけど」
「大丈夫。その時は僕が君の頭脳になるから」
「私は貴方の駒ってわけね。…分かったわ。約束する、合図が果たされたときは、必ず貴方を助けに行くと」
――貴方は、こうなることでさえ予見していたというのだろうか。
勝ち負けに拘る貴方だから、最後にはどうしても勝ちたいと考えたのだろう。
想像の範疇を超えるイレギュラーな相手にさえ、前もって対応できるように準備をしていたんだろう。
ならば、私は貴方の駒になろう。
好きなように使うと良い。
「――水龍」
手に集中させた神経は、そのまま水を生み出す。生み出した水は拘束具の鍵穴の中へ染み込み、やがて氷となる。その氷の右を回すと、ガチャという音がして、鍵が外れる音がする。
彼の左右の手を拘束するそれを外すと、支えを失った身体は重力のままに倒れ込む。決して衝撃を与えないように、自分の身体で受け止めるようにして静かに抱きかかえる。
「ごめん、遅くなって」
彼を抱きしめた手は血に染まっていた。特に腹部の出血が激しい。新しい傷口と…それから古くて化膿してしまった傷口は、数日経ったものなのだろう。
「僕も運が悪かった。ロウソクを差し替えたばかりで攫われたからね」
「!……まさか、四日もここで」
口調こそ軽かったものの、彼の声は普段の美声から考えられないほどに掠れていた。
すぐに腰を探り、布袋に入った水を取り出す。
「飲ませてくれるの?」
彼の手先に目を向けると、細くて綺麗な指は血まみれになっていて、爪は何枚か剥がされていた。
何も言わず、私は水を自分の口の中に流し込むと、そのまま抱きかかえた彼に口づけをする。
――ゆっくりと、水を口移しして、飲み込ませる。
顔を離すと、紫の瞳が見開かれていた。
「このまま傷の手当てをする。応急処置だけだ」
「……いや、あの、…え?」
「なに?」
「……今の……、なんでもない」
そう言って彼は瞳を逸らした。
追及はせずに、私は静かに彼を寝かせると、上着を脱いで破り、彼の腹部に巻き付ける。
…細いけれども、筋肉がしっかりついた腰だ。それが、まるで内側から引きちぎられたように傷ついていた。
「…ドライアル、一体何があった?ここはどこだ」
「僕をしっかりと見つけてくれた割には、随分ともの知らずだね」
「……それは、貴方が目印を残してくれたから」
転送された先は、見たこともない石造りの部屋だった。どこかの城のなかだろうか。
そして地面には血痕があった。
その血痕は――ぽたり、ぽたりと、一滴ずつ、一定間隔で落ちていた。
「あれは、ドライアル、貴方が自分の血で残した案内だったでしょ」
ここまで、かなり距離があったというのに。彼はこういうことは自分の身を顧みずにやり遂げてしまうのだから恐ろしい。
「質問に答えよう。ここは帝国国内、恐らくは帝都内の宮殿の一角だね。僕は攫われてきた。向こうにも僕が居たと思うけど、あれは偽物」
「敵地の真ん中ってわけね。…ここまで来るのに使った転移魔法陣がある。同じように帰るための転送魔法陣もあると思うか」
「あると思うけど、やめた方がいいと思う。たぶん、君が来たことはもうばれているんじゃないかな」
「!…ここにも、長居しない方がいいのか?」
「うん。この宮殿のおおよその構内図は過去に読んだことがあるから、頭に入ってる。僕の案内に従えば良いよ」
「……分かった。手当てが終わり次第ここを出よう」
*
「ねぇ……これ、本当に出口に向かってるの?」
ドライアルに肩を貸しながら、城の中を進んでだいぶ経つ。しかし、一向に外に出る気配はない。寧ろ奥深くに進んでいるようにさえ感じる。
「ううん?出口なら真反対だね」
「ちょ!……ふざけないで。貴方、この状態で何を言って…」
「僕は至って真面目だよ。折角彼らがここまで案内してくれたんだ。ついでに王手をかけようと思ってね」
「何を、するつもりなの…?」
彼はほそく笑うと、私の耳元で教えてくれた。
「奴らはクリスタルを盗んでる」
「!…どういう、こと?」
「そのままの意味だよ。隊長がこの国でクリスタルと共鳴したこと、ソランさんが治癒魔法と空間遮断を使えなかった理由が、やっと分かったんだ」
「まさか、この国にもクリスタルがあると?」
「少し違うね。地表に出てるクリスタルはカルデリア王国が所有する一つだけだよ。そしてソランさんのペンダントは、王城地下深くにあるクリスタルの場所に繋がっている。そのクリスタルがあるはずの場所からなくなったとしたら、ペンダントから力を抽出することはできなくなる」
「クリスタルは、今はユーシティ城にないっていうの?あんな巨大なもの、一体どうやって」
「転移魔法でこの帝国まで持ってきたんだよ。あの場所は封印が厳重だからこそ、誰も簡単に入れない。だからなくなったことにも、すぐに気付けなかった」
「封印は解かれていない、これは確かだ。レウリアに異変が起きていないのが証拠でしょ?」
「うん。だから僕も疑ってなかった。…まさか、壁をすり抜けられる能力がこの世にあるなんてね」
「!…会ったのか」
「ゼファリン=ハウスフロー。反吐が出るほど気に入らない奴だよ。向こうで偽物の僕を演じて、こっちで僕の身体の中に手を突っ込んで、弄りまわして…」
だから…なのか。ドライアルの腹部にもう一度目を向ける。応急処置で巻いた布は既に血で染まっていた。
ゼファリン――彼を傷つけた者の名前を、しっかりと記憶に刻んだ。
「恐らく奴が、クリスタルが封印された地下まで侵入して、長い時間を使ってその場に転移魔法陣を書いたんだろう」
「……ねぇ、今向かってるのってまさか」
「うん、やられっぱなしなのは気に食わないからね。取り返しに行こうかと思って、クリスタルを」
そう言う彼の上がった口角からは、血が流れていた。
「……反対だ」
「戦力なら心配いらないよ。僕が、ソランさん一人で十分だと見込んでるんだ」
「……だけど」
「あと数日もしたら、カルデリアは総攻撃されるよ。奴を見てると分かるんだ、僕の顔が必要なのはあと少しだって。それってつまり、奴に勝算があるってこと。根本的にこっちから叩き潰さなきゃ、国が潰れるよ?」
「防衛線は、ヨベルが」
「足りないね、隊長さんじゃ。このまま城を出て国に戻るまでどれくらいかかると思ってるわけ?僕と剣姫がいなくてどうやって勝つっていうんだい?」
「………分かった」
しぶしぶ承諾した私を見て満足すると、一つ咳をして血を吐いてから、彼はこの先の階段を降りるよう私に指示した。
*
「ゲホ――ッ、ゲホッ!」
ドライアルが、激しく咳をするのを見て、私は足を止めた。
「何を、しているん…だい。もうすぐ…だから――ゲホッ」
そして彼はまた苦しそうな顔をして血を吐いた。
「――だめだ。このまま進むことはできない」
「何言って……っ!むぐ」
決断をしてからの動きは素早かった。腰に付けたバッグから錠剤を一つ取り出すと、自分の口に含んでから、彼に口づけをした。
――どうせ、説明しても素直に飲んでくれそうになかったから。
「ちょ、何飲ませ……ソ…ラン……さ……」
すでに疲れ切っていた彼の身体に、効果が表れるのは早かった。
そのまま気を失うように眠りにつき、倒れそうになった彼を抱いて支え、私は一つ息をついた。
「催眠薬だ。……貴方の傷は、このまま無理をしたら命に係わる」
周囲を見渡す。正直、この場所は知っていたのだ。近くに身を隠すのに丁度いい部屋があることも知っている。
クリスタルを取り返さなきゃいけないことは分かっている。ただ…半日休んでからだ。




