娘は父親に似ると言う
娘は父親に似ると言う。
産まれたばかりの娘の顔を眺めながら、ふとそんな言葉を思い出す。
確かに目元の辺りなどは父親である彼によく似ている。
「あなたに似ているわね」
私が彼に言うと、彼は産まれたばかりの娘の顔を覗き込む。
「産まれたばかりの赤ん坊なんてみんな同じ顔で誰に似ているのかなんてわからないよ」
そう言う彼は照れ臭そうだけどまんざらでもないようだ。
出産を終えて間もなく私の両親が見舞いにやって来た。
「パパそっくりね!」
孫の顔を見るなり母が言う。父親の彼は「そんなことはないですよ」と謙遜する。そんな彼を見て母が笑う。
「違うわよ。ウチのパパにそっくりだと言ったの」
遠慮もなしにずけずけと言う母に彼も私の父も苦笑している。
「産まれたばかりだからまだわからないよ」
私の父はそう言って彼を慰める。
「いいえ、お母さんの言う通りだと思います。彼女もお父さんによく似ていますから」
私は小さい頃から父によく似ていると言われてきた。物心ついた時にはそう言われるのが嫌な時期もあったのだけれど、今では父に似ていてよかったと思っている。
退院して実家へ戻ると、父は私が小さい頃の写真が収められているアルバムを見ていた。
「この子はお前にそっくりだな。と、いうよりお前と同じ顔をしている」
「だからパパに似ているんだってママは言ったのよ」
「そういうこと」
退院に付き添ってくれた母が自慢げに言う。
「本当に同じ顔をしている」
アルバムを覗き込んだ彼も思わず口にする。
「今はこうだけど、そのうちきっと君に似て来るよ」
「そうですかね…」
「そうだとも」
二人の父親に顔を覗き込まれても寝息を立てている我が子を私はそっと彼に預けた。ぎこちなく我が子を抱きかかえる彼はこの上なく幸せそうな顔をする。
「そんな抱き方じゃダメよ」
そう言って母が彼から奪い取る。そのとたんに泣き出す我が子。
「あら、失礼ね。きっとお腹が空いたのね。ママのおっぱいを貰いなさい」
そして再び私の元へ戻って来る。この子がどれだけ甘やかされて育つのか、今から心配だ。