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03.後衛に下がってろ



「ごきげんようキャシー、挨拶は終わった?」

「ごきげんようアンナ」


赤毛の少女が近付いてくる。

キャサリーンはサッと淑女の仮面をかぶり優雅に挨拶を返した。


アンナは隣の領地に住む幼馴染。

引きこもりでお茶会にも夜会にも参加しなかったキャサリーンの、唯一の友人である。

家族以外でキャサリーンを愛称で呼ぶ、数少ない人物だ。


「王様の前だとさすがに緊張したわ。粗相しちゃうんじゃないかとブルブル震えてたのよ」


同い年のアンナもデビュタントだ。

真っ赤なドレスが赤毛によく映えている。

緊張したと肩と乳を震わせるアンナはとても可愛らしいが、さすがに幼い頃から、それこそ小便漏らしていた時のことまで知っている相手に興奮はできない。

キャサリーンは分別ある変態なのだ。


「キャシー、ずいぶん熱心に物色してたわね」


――やめてくれ、女の子は物色なんて言葉使わないでくれ、夢を壊さないでくれ。


「キャシーが声をかければ誰だって全財産差し出してくれるんじゃないの?」

「そんなカツアゲみたいな……オヤジ狩りの苦い記憶を思い出させないでほしいわ」


後半は思わず小声になってしまう。

あれは痛かった。世間はオッサンに冷たいのだ。


アンナは活発な子で、年頃の娘達とのお茶会にもよく参加している。引きこもりキャサリーンの貴重な情報源だ。

そんな彼女はいわゆる肉食系で、今日の社交デビューをとても楽しみにしていた。



「何人かめぼしいのは居たんだけどガツガツしすぎると引かれちゃうでしょ? 今日は愛想振り撒くだけにしておくの」


(何人のモテない男がそれで勘違いすると思ってるんだ! この赤い悪女め! そんな女に育てた覚えはないぞ!)


「キャシーは誰かとお話した?」

「大人しそうで巨乳の女の子には片っ端から声掛けたけど全滅だった」

「ちょっとちょっと、女の子にしか話かけてないの? パパの言い付け律儀に守ってるわけ?」


――そんなつもりはないんだが。


「もう贅沢言わないから、乳揉ませてくれそうな女の子いないかな」

「また変なこと言ってる……。ほら、あの公爵家のご子息、ずっとキャシーのことチラチラ見てるわよ」


徐々に言動がオッサン化するキャサリーンの進化過程を側で見てきたので、いつもの発作だとアンナは軽く流した。

アンナの指す先には身なりのいい男性がいた。頬を染めるな、気色悪い。


「うーん、ナシ」


中学時代のイジメっ子に似ている。

しかもイケメンだ。


「じゃああの方は? 少し年上だけど落ち着いていて素敵よ。ほらまた目が合ったわ」

「アイツはダメ」


目が合うと微笑まれた。

同期一番のモテ男に笑顔がそっくりだ。イケメンだしダメだ。


「ワイルド系なら壁際の、ほら、あの方なんてどう? さっきお話したらキャシーのこと聞かれたのよ」

「却下」


密かに想いを寄せていた受付嬢をゲットしたヤツと同じ匂いがする。

やっぱりイケメンだ。


相方の条件としては、もっとこう、華がないような冴えない感じの……


「もうちょっと地味で小汚ない人はいないの?」

「キャシーは雑巾でも探しているの?」


アンナが呆れ顔になった。

ちゃんと将来の百合相手を探してるに決まっているのだが、あまりにも相手にされないものだから協力者も同時進行で探しているだけだ。





「キャサリーン・ブルーノ嬢。お会いできて光栄です」


アンナと話してると、キラキラしいイケメンが声をかけてきた。

ずいぶん身なりもいいし、なんか纏っているオーラが違う。

彼の一声で周囲の視線が一斉にこちらに向いたのが分かった。

ただ……


(誰だコイツ)


こっちは全然光栄じゃない。お呼びでないから後衛に下がってろ。

アンナは隣で口をパクパクさせている。


「フィリス王国第一王子のエドワード・フィリスです。私を探してくれていたのでしょう?」


――探してない。探してるのはお前じゃない。


隣国フィリス王国はこの大陸で最大勢力を誇る大国。

現在は我が国と同盟を結んでいるが、はっきりいって我が国は田舎の小国なのだ。

つまりエドワードはこの大陸一の優良物件である本物の王子様。

こんなヤツを相方にしたが最後、可愛い女の子は根こそぎ隣国に連れ去られてコイツのハーレムにされてしまう。


こんな田舎くさいオッサンオーラ漂う、女の子にことごとく避けられるようなキャサリーンにまで声をかける見境のない男だ。きっとこのキラキラした笑顔で数多の女性を泣かせてきたに違いない。

キャサリーンはエドワードを完全に敵認定した。


「一目見て決心がついた」だの「貴女に逢うためにここまで来た」だの「妃の座は貴女のために空けてある」だの恩着せがましい。

こういう(やから)はどうせ今日だけで五万回同じことを言っているのだ。

おおー金髪がシャンデリアの光でピカピカ輝いている。すげえ。

かぐや姫の竹もこんなふうに光ってたのかな、と現実逃避が止まらない。


ボーッとしていたらエドワードが跪き、手を差し出した。


(え、なんだ? お手か?)


よく分からないので、さっき馬車に落ちていた馬の抜け毛を渡しておいた。なかなか立派だったので拾っておいたのが役に立った。



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