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33. 皇帝との会話




 二十代未満の少し低めな声。

 少し伸びた艶のある黒い髪。

 男っぽくない女性のような細い腕。

 服装は……


「今は皇帝らしい威厳? のある格好をしているのね。正直似合わないわよ、それ」


「相変わらず、厳しい女だ」


 皇帝は口の端を若干吊り上げ、呆れたようにそう言った。


「本当のことだもの。優しそうな顔をしているくせに、服がゴツすぎるのよ。大衆の面前では絶対に素顔を見せないと聞いていたけれど、正しい判断ね。

 それに口調。偉そうな口調を意識しているのだろうけれど、それも合っていないわね。タイチを演じていた時の方が、まだ愛嬌があったわよ」



 表情は変わらない。

 でも、少し複雑な気持ちになっていることはわかった。



「一応聞いておくけれど、あなたの本当の名前は?」


「アルバレスト・ガロンベータだ」


「……そう。アルバレストね、覚えたわ」


「案外、驚かないんだな」


「なに、驚いてほしかった?」


「いいや、それがアンタらしい」


 アルバレストは適当な椅子を運び、腰掛けた。


「アンタも座れ。どうせ来たんだ。ゆっくり話そうじゃねぇか」


「どっかの誰かさんのせいで、事後処理が大変なのだけれど?」


「そりゃすまんな。あれは俺だって本意じゃなかったんだ」


「……どういう意味?」



 やけに大人しいとは思っていた。

 敵と相対した者の言動ではない。


 命を諦めた様子もなく、普通に会えることを楽しみにしていたような感じさえする。


 出会ってすぐに斬りかかられることを想像していた。

 罠が仕掛けられている可能性も考慮していた。


 でも彼は、武器らしき物は何も持たず、魔王である私と座って話そうと言っている。

 余程の馬鹿か、度胸のある者しかしない行為に、私は興味を持った。



「貴方も、ウッドマンに操られていた感じかしら?」


「そうじゃない。俺達は一応、協力関係という形だった」


「なのに本意じゃなかったと? それ相応の理由があるのでしょうね」


「順番に話す。聞いてくれるか?」


「……の前に、マリン。出て来なさい」


「ぴゅい」


 崩れ落ちた扉から入って来たのは、青色のスライムだ。


「ぴゅ? ぴゅい。ぴゅい〜」


 マリンは『あれ? タイチじゃん。久しぶり』と言っているけれど、アルバレストにはただ『ぴゅい』としか聞こえていないのだろう。


「マリン。彼の名前はアルバレスト・ガロンベータ。津雲タイチというのは、仮の姿だったようね」


「ぴゅい〜」


「……おいアンタ。どうしてマリンがここに居る。連れて来たって感じはしなかったが、まさか……」


「帝国は一応私の敵なのよ。探り入れているに決まっているじゃない」


 と言っても、マリン単体はあまり強くはない。

 その分体となれば更に弱くなってしまう。


 この城を覆っていた魔物の侵入を防ぐ『結界』のせいで、分体は十分な調査ができていなかったけれど、私がここに来る途中に結界を斬り刻んでおいたので、分体でも安全に入って来ることができている。



「流石は魔王だな。徹底している」


「私はただの人間だもの。これくらいしないと心配なのよ」


「嘘つけ。たった一人で帝国軍と転生者五十人を相手にして、余裕で生還したアンタが何を言ってやがる。……俺は忘れてねぇからな、マジで生身で竜種と戦わされたスパルタ特訓のこと。一生恨んでやる」


「あら、貴方の悲鳴と絶叫は心地良かったわよ。ありがとう」



 恨み言を適当に流しつつ、マリン分体に手を突っ込み、とある装置を取り出す。



「これは嘘発見器。貴方が嘘を言った瞬間に斬り殺すから、そのつもりで」


「おっかねぇ……本気で言ってやがる」


「私は魔王よ。時には非情にもなるわ」


 特に『転生者』には。


「準備は整ったのだから早く話しなさいな。私は暇じゃないと言っているでしょう」


「わかった。わかったからその剣を収めてくれ」


 言葉と物理で『さっさと話せ』と追い詰めると、彼は降参のポーズをとった。


「まず、俺は転生者じゃない」


「……え、そこから?」


「だって、そう言わないとお前問答無用で殺しに来るだろ」


 酷い言われようだ。

 私だって『転生者』から何か良い情報が入るのであれば、ちゃんと話は聞くし、その間は剣を収める。


 話が終わって用済みになったら、何もかもは保障しないけれど……。


「ウッドマンは俺に話を持ちかけてきた。『貴方が皇帝になる手助けをしてあげましょう。その代わり、聖遺物を大量に集めてください』と」


 聖遺物……魔物を相手にする際、非常に役立つ道具だ。


 新皇帝が即位したのは一年前だ。

 そこからウッドマンの野望は動き出していたのだろう。


 奴は操りやすそうなアルバレストに協力を持ちかけ、魔王を殺すための算段をつけていた。


 魔王の配下は、ほとんどが魔物だ。

 聖遺物を装備されていたら、私の誇る配下でも厳しい戦いになっていた。


 魔王本体は『転生者』を大量に投下すればいいと、安直に思っていたのだろう。


 でも、私一人で全てを相手にすることは予想外だったはずだ。


 私の性格を理解できなかった。

 それと最初に私を狙ったことが、今回の敗因になったわけだ。


 ウッドマンは私のことをなぜか嫌っていたようだし、私が人間というのもあって下に見られていたのだろう。


 だからこそ序列というのがあるのに、それを深く考えず、自分の力に自信を持ちすぎたことによる愚かな選択が、ウッドマン自身を滅ぼした。



 ざまぁない。



「それがまさか、魔王と戦争をするために使われるものだとは思いもしなかった。俺はずっと商人達から聖遺物を集め──気が付けば帝国兵のほとんどは、ウッドマンの傀儡となっていた」


「結局、貴方の油断が原因じゃないの。それで私が尻拭いするとか、本当に面倒なことよね」


 アルバレストは苦笑する。

 ぐうの音も出ないと言った感じだ。


「俺はセリカ・ブラッドフィールを誘き出すために動くことになった。アンタは転生者が絡むと絶対に表舞台に出て来る。だから転生者のふりをして、帝国と転生者の関係を話し、アンタを誘き出すことに成功したんだ」


「見事に釣られた身としては、ちょっと耳が痛いわね」


 よくよく考えてみれば、おかしな点は色々あった。

 帝国を覆っていた結界は、最高品質と言えるほどの強度を誇っていた。


 なのに、どうしてウッドマンが帝国の情報を知っていた。

 彼の配下を使ったというのであれば、まだ帝国が動きを見せていると気付くかもしれない。


 ──でも、どうしてネックレスを持っている?


 『転生者』が持つチート能力は、魔王の誰もが知っている。

 私は強いからいいけれど、ウッドマンの配下達はハッキリ言って弱い。


 自分からは動こうとしない臆病者の彼が、わざわざ配下を投入して帝国に喧嘩を売るとは思わなかった。それこそ私だけに任せておけば、彼は何もすることなく、帝国の件は片付いただろう。


 つまり、ウッドマンは私をおびき出したいがために、やり過ぎたというわけだ。



「はぁ……真面目に色々と教えていた私が馬鹿みたい……」


 恥ずかしい話だけれど、私は彼のことを『転生者』だと疑わなかった。


 まさか偽装しているとは思わないだろう。

 私はフォリアやリンシアのような眼を持っていないので、自分で判断するしかない。


 ……今回は、そこを上手く突かれたことになる。


「だが、あの森で聞いた話はすげぇわかりやすかったぞ。赤目に関しては俺も知らなかったから、良い勉強になった」


「妙に真面目に聞いていたと思ったら、まさか本当に勉強のつもりで聞いていたなんてね。上手く出し抜かれた──あ、」


「なんだ。どうかしたか?」


「私のお金返しなさいよ。ドブに捨てたと思っていたけれど、本当にただのドブだったじゃないの。皇帝なのだから、金くらい腐るほど持っているでしょう?」



 アルバレストは、ガクッと座りながらコケた。

 その表情には呆れが浮かんでいる。



「……まさか、ここに来て金のことを言われるとは思っていなかったぞ」


「恩を売れるなら軽い金だと思っていたけれど、貴方には無意味でしょう。しかも人の温情を仇で返すなんて、どういう神経しているのかしら?」


「謝るから今回だけは勘弁してくれ。今回の戦争で兵士が全滅したせいで、色々と金が足りないんだよ」


「あら、それは大変ね」


 アルバレストは何も言わない。

 その代わり、「誰のせいだと思っていやがる」と言いたげな視線を向けてきた。


「私は謝らないわよ? 不本意だとしても、先に喧嘩を売ってきたのは帝国なのだから。自分で頑張りなさい」


 ……でもまぁ、ドブに捨てた金くらいは見逃してやろう。


 金貨五枚で五十人のゴミ処理が出来たと考えれば、むしろお買い得だったと思える。

 帝国軍の全滅という結果を以って、世間に魔王の恐ろしさを今一度知らしめることができたので、今後は人間側の動きも大人しくなるだろう。


 案外、今回の戦争で得た利益は大きい。


 そこだけを考慮したら、ウッドマンは良い働きをしてくれた。

 自分の身を犠牲にして魔王の尊厳を保つなんて、仲間思いの素晴らしい敵だった。



「……まぁ、話を聞いて帝国側の主張は理解したわ。今回だけは特別に、これ以上の追撃はしないであげる」


 その言葉に、アルバレストは目を丸くさせた。

 まるで信じられないものを見たような反応だと、少しイラッとしたのは内緒だ。


「本当に良いのか? 俺はアンタの敵になったんだぞ?」


「だったら今、この場で自分から首を差し出す?」


「……それは、遠慮したいな」


「なら、私の優しさをありがたく受け取っておきなさい。正直、これ以上は面倒臭いのよ。目的の転生者は殺したし、もう帝国に興味は無いの。今後一切、私にその牙を向けないと誓うのであれば、特別に見逃してあげるわ」


「わかった。俺が皇帝に君臨している間、絶対に貴殿に手を出さないと誓う。……ついでに迷惑料として、転生者探しも手伝おう」



 今度は私が驚く番だった。



「それは嬉しいけれど……良いの?」


「構わない。そっちだけで探すのも大変だろう? 人間のことは、同じ人間側の方が情報を得られやすい。俺はアンタのことが気に入った。だから手伝わせてくれ」


「一応言っておくけれど、こちらからは何もしないわよ?」


「別に良いさ。俺がやりたいと思ったから、勝手にやらせてもらう」


「…………強情なのね」


「アンタには負けるさ」


 笑い出したのは、ほぼ同時だった。

 まさかこんなところで協力者を得られるとは思わなかった。


 アルバレストは、帝国は一度私に敵対した。

 でも、今後は協力者として利用できる。


 彼もそれを理解しているため、無理の無い範囲で助力してくれることだろう。


 これで私は動きやすくなる。

 『転生者狩り』も、これまで以上に順調になる。



「よろしく頼むわ。アルバレスト殿」


「こちらこそよろしく頼む。セリカ殿」


 この日、魔王と帝国は秘密裏に手を組んだ。


 それを聞いたリンシアが面白がって帝国に様々な道具を持ち込むようになり、実験を繰り返して皇帝をガチ泣きさせるのは、まだ先の話だ。






          ◆◇◆






 帝国と魔王セリカ・ブラッドフィールの戦いは、帝国軍の全滅という形で終わりを迎えた。

 それは歴史に名を刻む大戦ではなく、一方的な惨殺であったと、記録者は語る。



 『紅蓮の魔剣姫』にして『裏切りの魔王』、セリカ・ブラッドフィール。



 彼女の力は世界を震撼させた。


 もはや彼女のことを『ただの人間』だと思う者は居ない。

 彼女も人類の天敵である『魔王』なのだと、誰もが認めざるを得なかった。




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