29. 最後の一撃
呆気なかった。
奴らは確かに『転生者』だったけれど、今までの中で一番弱かった。
「所詮、野良だったわね」
どこにも所属せず、冒険者として活動している『転生者』は『野良』と呼んでいる。
今回、帝国が用意した者は全てが野良だった。
戦い方を知らず、能力で力押ししているだけの子供達。
決して油断はできないけれど、しっかりと対策していれば他愛無い。
「そういえば、タイチは最後まで見えなかったわね」
あの男も参加しているものだと思っていたけれど、途中で怖気付いたのだろうか。
何にしろ、私は獲物を一つ逃したということになる。
でも、別に構わない。
生きてさえいれば、いつか私が見つけて殺してやる。
その時まで、無意味な人生を楽しんでいると良い。
「はぁ……疲れた」
溜め息を一つ、会場を包む炎を消滅させる。
数が多いから逃げられないようにと檻を作っていたけれど、あれは本来、敵を隔離したまま縮小させ、絶対に逃がすことなく焼き殺すという技だ。
維持するために作られたものではなく、いつまでも維持していると魔力消費が馬鹿にならない。
その状態で最後に『煉獄』の大技を放ったことで、流石の私も魔力がすっからかんになってしまった。
体中が鉛のように重く、このまま城に戻って眠ってしまいたい。
剣くらいならどうにか触れるけれど、これ以上魔剣に魔力を注げば『魔力欠乏症』となり、意識を保っていられなくなるだろう。
「終わったのね」
「……フォリア。ええ、問題なく」
炎が消えたことで、上空から待機していたフォリアが降りてきた。
彼女は黒焦げになった五十の死体を見つめ、呆れたように首を軽く振った。
「相変わらず、異常な火力をしているわね」
「威力は絞ったわよ。本気でやったら、ここら一帯が吹き飛んでしまうわ。……でも、流石に色々と魔力を使いすぎて、これ以上の激しい動きは不可能ね」
フォリアは感情の見せない顔で、「そう」と小さく呟いた。
「それで? この後はどうするのかしら」
「城に戻って戦後処理と被害把握。街の方にも連絡しなきゃだし……ああ、考えるだけで頭が痛くなってきた」
疲労状態なのに対して、この後に続くことが山盛り過ぎる。
どうせリンシアは手伝わないだろう。
事後処理は面白く無いとかふざけたことを言って、自分の工房へ戻るに決まっている。
「とりあえず戻りましょう。リンシアからも城で待っていると言われたし、どうせその足じゃ動けないでしょう。私がまた運んであげるわ。後ろを向いてくれるかしら?」
「……ええ、頼んだわ」
『煉獄』を霧散させ、フォリアの背中を向ける。
──ドスッ。
と、肉を穿つ音と共に感じたのは、鋭い衝撃だった。
そこからじんわりと熱が広がるように、痛みが体を支配していく。
「……か、はっ」
喉を逆流してきた生温かいものを吐き出す。
それは私の血だった。
視線を下に向けると、真っ赤に染まった細い手が胸から飛び出しているのが見えた。
この場でそれが出来るのは、ただ一人。
「フォ、り、……」
「ごめんなさいね」
彼女は表情を一切変えず、ただ一言、謝罪の言葉を口にした。
「こういう命令だから、仕方ないのよ」
手が引き抜かれる。
支えを失った私の体は、私の意思とは関係無くゆっくりと地面に倒れこんだ。
「あ、なた……は……」
魔力をほぼ失っている状態で、血を出し過ぎた。
私に出来ることはフォリアを見上げるのみ。
最早、動く気力なんて残っていなかった。
「ごめんなさい」
もう一度呟かれた謝罪の言葉。
それを最後に、私の意識は途切れた。