表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/35

20. 新たな標的を




「ってことで、来たよ!」




「呼んでないわよ」


「ひどっ!?」


 帝国が裏で何か動いている間、特に何もすることがなくて暇していた時──そいつはやって来た。



「……リンシア。来る時は手紙を寄越してって、前にも言ったはずだけれど?」


 手に持っていたティーカップを置き、執務室の入り口に視線を移す。

 そこには予想通り、魔王であり私の友人でもあるリンシアの姿があった。


「いやぁ、いちいち手紙書くのも面倒臭くってさ。だから直接持ってきたよ」


「貴女は手紙の意味を理解しているのかしら?」


「細かいことは気にしたら負けだよ?」




 ──ムカッ。




 手に握られてぐしゃぐしゃになった手紙を受け取り、そのまま暖炉に放り投げる。


 流石に中身すら読まれないとは思っていなかったのだろう。

 リンシアは「あぁ……!」と声を上げ、灰と化す紙切れを眺めていた。


「ひっどいなぁ、資源は大切にしなきゃ」


「文句を言うところはそこなの? ……まぁ、いいわ。貴女がここに来たということは、頼んでいた品が完成したと思っていいのかしら?」


 その言葉でリンシアは自慢気な表情に切り替わった。

 どうやら、私の予想は当たっていたらしい。


「張り切って作ったんだよ。追加注文には驚いたけど、それもバッチリだ」


 帝国に向かわないと決定を下したその日、私はすぐに手紙で追加注文を頼んでいた。

 忘れていたのではなく、単純に必要になったためだ。


「はい、これが完成品と、こっちが追加注文のやつね」


 手渡されたのは青い宝石が埋め込まれた腕輪と、文字や記号が幾重にも刻まれた巨大な画用紙だった。


 前者が以前から注文していた物で、後者が新たにお願いしたものだ。


 リンシアは何かを作るだけではなく、魔法の知識も魔王一だ。

 何かの魔法陣が必要になった時は、彼女に頼むようにしていた。


 ……でも、流石はリンシアだ。


 かなり複雑な魔法陣を、ほんの数日で描きあげてしまうとは恐れ入った。


「追加注文の方はリンシアを信じるとして、腕輪の方はちゃんと機能するのよね?」


「その宝石に魔力を注げば機能するはずだよ。実機試験もやったから安心して。でも、効果が効果なだけに魔力消費が激しくてね」


「私だと、どれくらい持っていかれるかしら?」


「セリカの魔力量だと、半分くらいかな。ごめんね。アタシでも、これ以上の魔力消費を抑えることはできなかったよ」


「半分しか持って行かれないのであれば、十分な必要経費ね」


 不敵に笑うと、リンシアは呆れて肩を揺らした。


「流石はセリカ。エリザベートに似て傲慢だね」


「あら、私は事実を言っているだけよ。それに、一応言っておくけど、うちの母親は傲慢じゃなくて怠惰よ。今日も魔王の業務をサボって部屋に閉じ籠っているんですもの。リンシアの方からも何か言ってあげてくれる?」


「勘弁してよ。あの人の眠りを妨げると後が怖いんだ」


「……そう。まぁ別にそこは期待していないわ。とにかくご苦労様。有効利用させてもらうわ」



 持ってきて貰った物をマリンに食べさせ、私は一息。

 両手を叩き、使用人にリンシアのお茶を出すように伝える。



「アタシはすぐに帰るから、別に気にしなくていいよ?」


「友人をタダで帰すわけにはいかないわ。どうせ暇でしょう? ゆっくりして行きなさいな」


「うーん、相変わらずズバッと言ってくるね。……それじゃ、お言葉に甘えちゃおうかな」


 そう言い、リンシアはソファにどっかりと腰を降ろした。

 もう少し品のある行動を……と言ってやりたいところだけど、そういうところも彼女らしいので口出しはしない。



「にしても驚いたよ。転生者が居るところには何が何でも行っていたセリカが、急に帝国には行かないって言い出しちゃってさ」


「わざわざ私が出向く必要が無いだけのこと。私の性格を知っている貴女なら、その理由がわかるでしょう?」


「セリカは無駄なことが大嫌いだもんね。今回、そう判断したってことは、もうすでに帝国の目的は判明しているんだよね? 流石はセリカ自慢の諜報部隊だ」


「何よ。教えないわよ……と言っても、聡い貴女はすでにある程度の予想は付いているのかしら?」


 リンシアは笑う。

 それが何よりの肯定だった。


 恐ろしい女だ。


 無邪気に見えて、知らぬ間に全てを見通している。

 たとえ友人の仲だろうと、彼女にだけは弱みを見せたくない。


 私は本気でそう思っている。


「アタシの予想が間違っていないなら、今すぐにでも止めるべきだ。セリカには危険すぎる」


「あら、私の心配をしてくれるのかしら?」


「アタシが気を許せる数少ない友人だよ。心配するに決まっている」


「それはありがとう。大切な友人を持てて嬉しく思うわ。でもね、」


「……わかってる。それでもセリカはやるんでしょう? 転生者を殺すために」


 流石は私の友人を名乗るだけのことはある。

 心配しているとは言ってみるものの、その程度の言葉では私を止められないと理解している。


 だから少しでも力になれるようにと、予定よりも早く完成品を届けに来てくれたのだろう。



「セリカは、まだ転生者を恨んでる?」


「その問い。答える必要があるかしら?」


「セリカの過去を壊した転生者と、今を生きている転生者は違う。それでも殺すんだよね」


「愚問ね。私が奴らを殺す理由は一つよ」



 ──奴らが転生者だから。



 そこに理屈も信念も必要ない。


 奴らを根絶やしにできるのであれば、それでいい。

 この喉の渇きを癒せるのであれば、それで構わない。



 楽しいお話を聞かせてくれるお父さんが大好きだった。

 いつも優しく笑いかけてくれるお母さんが大好きだった。

 色々なことを沢山教えてくれる姉が大好きだった。

 生意気だけど可愛いところがある弟が大好きだった。


 そんな家族は殺された。私が望む彼らは、もうこの世に居ない。



 だから彼らの代わりに──殺す。



 私自ら、この手で殺してやる。


 そうすれば私は、皆は、報われるはずだから。




「無駄話はここまでにしましょう」


 残りの紅茶を飲み干し、立ち上がる。

 ルアンが執務室の扉を開けて入ってきたのは、ほぼ同時の出来事だった。


「セリカ様。『影』より、新たな情報が」


「話しなさい」


「帝国が戦争の狼煙を上げました。その矛先を向けられたのは」


 ルアンは言葉を区切り、一呼吸。




「セリカ・ブラッドフィール。貴女です」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ