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17. 清々しい仲間




「そういえば、二人に相談したいことがあるのよ」


 お茶会も時間が過ぎ、少し落ち着いた頃、私はそう話を切り出した。


 まさか私が相談するなんて思わなかったのだろう。

 ポカーンと呆けた顔を数秒晒した二人はすぐ我に返り、同時に身を乗り出してきた。



「相談!? いいわよ、お母さんにドンと任せなさい!」


「セリカが相談なんて珍しい! いいよ、アタシも聞くよ!」


 私はいつも一人で全てのことをやってきた。


 エリザベートに教えられたことを無駄なく活用すれば、大抵の物事はどうにかなったからだ。


 それは特に親しい二人も知っていることだ。

 だからこそ、私が直々に「相談がある」と言ったことに、大きく興味を示したのだろう。


「ウッドマンって居るでしょう?」


「ウッドマン? 誰だったかしら……」


「あの根暗そうな奴でしょ? いつもニコニコしていて気持ち悪い魔族の男」


「ああ、思い出した! 自分から絶対に動こうとしない臆病者のウッドマンね!」


 返ってきた答えは、案外酷いものだった。


 思った以上にリンシアは辛口評価だ。

 誰よりも根暗そうな見た目をしている彼女に『根暗で気持ち悪い奴』と言われたら、もうお終いだ。とはいえ彼女と同じ感想を私も抱いていたので、わざわざ突っ込むようなことはしない。


 エリザベートは認識すらも怪しく、思い出してようやく出てきた言葉が『臆病者』とは、流石私を育てただけのことはある。

 以前カタストロフが「セリカちゃんがエリザベートに染まってきた。もうそっくり。怖い」と言っていた意味が、今になってよくわかった。



「意外と皆、あの男に対しての評価が低いのね?」


 私が見た感じ、誰もが親しげに接しているような気がしたけれど、どうやら違うらしい。


「やぁねぇ、そんなのただの社交辞令よ」


「仲間内で社交辞令ってどうなの?」


「でも、あそこまで嫌われてるのって、魔王の中であいつだけだよね」


「……まぁ、そうね。二人の話が本当なら」


 魔王は個性的な奴らばかりだ。


 復讐に狂った私も、我ながらおかしい奴だなとは自覚しているけれど、そんな自分が普通なのだと思えるほどのヤバい奴らが集まっている。



 だから、なのだろうか。



 世の中には『類は友を呼ぶ』という言葉がある。


 個性的とはいえ、皆同様に派手好きな魔王は、かなり仲が良い。

 完全な信頼関係にある『仲間』というよりは、長年付き合ってきた『悪友』という言葉が適切だ。


 私も、彼らと話すのは嫌いじゃない。

 魔王は唯一苦労を分かち合える同胞であり、気心の知れた友人同士でもある。


 でも、ウッドマンだけは違う。


 エリザベートの言った通り、彼は『臆病者』で、その上『野心家』でもある。

 そういう傲慢さは時には大切だと思うけれど、先程挙げた二点が皆に嫌われている理由なのだろう。



「それで? そのウッドマンがどうしたの?」


「先日、入浴中にウッドマンの使い魔が乱入してきて」




「──あの根暗野郎! うちの娘に何しやがった……!」




 ダンッ! とテーブルを激しく叩き、激昂したように敵意を剥き出しにする義母。


 一瞬、その力でテーブルだけじゃなく大地まで割れかけたけれど、リンシアが咄嗟に魔法で修復をかけたのが功を奏し、私達が奈落に落下することは無くなった。


 でも、リンシアの額に嫌な汗が伝っていることから、かなりギリギリだったようだ。



「早い早い。落ち着きなさいってば。まだ何もされていないわ」


 一先ず、先走りしかけたエリザベートを落ち着かせ、話を戻す。


「その時に言われたのよ。『帝国が動き出しました。セリカさんもお気を付けください』……ってね」


「怪しいね」


「怪しいわね」


「いっそ、清々しいほどに疑うわね」


 迷いなく疑いをかける二人に、私は呆れて溜め息を吐き出した。



「一応、あいつはそれなりに情報通じゃない? だから個人的に調べて見たのだけれど、どうやら帝国は転生者を集めているみたいなの」


「どうして帝国? そんなことをしそうなのは聖教国くらいだと思うけど」


「そうねぇ。転生者を集めるとしたら聖教国の人間くらいだけど……その情報は確かなの?」


「ええ。まだ完全に調べ上げたわけではないけれど、そこは確かよ」


 この世界は宗教が強く根付いている。

 人間は世界を創りし神に祈りを捧げ、天界より自分達を守ってくれていると信じているらしい。


 そんな神が差し出したのは、異世界の人間。


 奴らは別の世界からやってきた、この世界を救う英雄──別名『神の使い』とも言われているらしい。

 普通、神の使いと名乗れば「不敬だ!」と騒がれそうだけど、神から与えられたと言われる『チート能力』は凄まじい。


 しかも、転生者どもを容認しているのが『聖教国』と言われる宗教国家なのだから、誰も奴らを『神の使い』だと疑っていない。



 ──二人の疑問は間違っていない。



 実際、転生者の何人かは聖教国に匿われているらしい。

 自分達が信仰する神の僕が居るのだから、我先にと擁護するのは当然のことだろう。


 でも今回、奴らを集めているのは帝国だ。



「大方、戦争でもおっ始めようとしているのではなくて?」


「それか、単に武力を示したいだけか……よね」


「ありえそうだけど、どうして転生者なのかな?」


「私だって知らないわよ。でも、帝国が奴らを集めている情報と、ウッドマンの言葉は関係している。そう思うわ」


 私が結論付けると、二人は静かに頷いた。


「…………胡散臭い奴だけど、情報だけは確かなのよねぇ」


「臆病者のあいつがわざわざセリカに情報を伝えたってことは、何か裏があると考えていいだろうね」


「帝国の行動はあの男にとって不利益になるから、転生者を餌にセリカを利用しようとしているのではなくて? ……あの野郎、うちの可愛い娘を利用するとか、良い度胸してるじゃないの」


「エリザベートはもう少し落ち着きなって。でも、セリカを利用しようとしているのは間違いないね。あいつは今までそうやって来たから……それで? セリカは帝国に潜ってみるの?」


「帝国の狙いと、ウッドマンの目論みがどうであれ、転生者が居るなら行かない手は無いわ。……つい最近親しくなった獲物も帝国に行くと言っていたから、自由に泳がせて情報を集めているところ。そろそろ情報が集まる頃だから、一週間ほどすれば出発するわ」


「親しくなった獲物って……言葉がおかしいよね」


「ああ、ごめんなさい。言い方を間違えたわ。正しくは、私と親しくなったと勘違いした獲物、ね」


「もっと酷くなったねぇ」



 タイチはあの街を旅立ち、帝国行きの馬車に乗っている途中だ。

 現在、マリンの分体に見張りをさせているため、彼の情報は逐一私の元へ届いている。


 どうやら、今は転生者としての力を遺憾なく発揮し、馬車の旅を有意義に楽しんでいるらしい。


 竜種との戦闘で自信を付けさせてしまったみたいだけど、その程度ならまだ問題ない。変なところで死なれたら私が困るし、ちょっと腕に自信を持った辺りで切り刻み、その自身に満ちた顔を絶望に染め上げるのが一番楽しい。



「すでに手は打ってあるのね。流石は私の娘だわ」


「最近忙しいって、それだったんだね。……でも大丈夫なの? 最悪、転生者だけじゃなく、帝国まで敵に回すことになりそうだけど」


「そこは問題ないわ。今まで以上に慎重に動いているし、帝国が敵に回ったところで今更よ。兵士が集まったところで雑魚は雑魚。魔王の敵ではないわ」



 ただ一つ、懸念点があるとすれば『蘇生魔法を扱う術者』だろうか。


 これは確証が取れているわけではないので、二人にはまだ話さない。

 不確定な情報で身内を動かすのは好きではない。


「ま、それもそうだね。えー、楽しそうだなぁ。アタシもそれ、参加したかったよ」


「いくらリンシアでも獲物の横取りは許さないわよ。……でもその代わり、注文品は頼んだわ」


「うん! その話を聞いて、俄然やる気が出たよ! ……ウヘヘッどうしよう。次から次へと創作意欲が湧いてくる。今すぐ帰って工房に籠りたいくらいだよ」


「…………まぁ、ほどほどにお願いね」



 リンシアはこの手のことになると、本当に頼りになる。

 でも、創作欲の暴走で余計な機能だけは付けないようにと、一応釘を刺しておくけれど…………これは聞いていないな。



「ねぇセリカちゃん。私は? 私は、何かあるかしら?」


 期待するように、キラキラとした瞳で訴える、私の義母。

 それを一瞥し、私は一言。



「留守番」


「そんなぁああああ!!!」





 お茶会が終わった後の夜。


 「娘に捨てられたぁ!!」と何処かの傍迷惑な魔王が数時間ほど泣き喚いていたらしく、私の元に『助けてください』と従者が頭を下げて来たけれど、何も見なかったことにした私は静かに耳栓を装着し、布団へ潜り込んだのだった。




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