16. 魔王達のお茶会
後日、私は中庭に呼び出されていた。
別に緊急の用ではない。
前から予定していた、女性限定のお茶会があるのだ。
時間帯?
もちろん夜ですけど?
本音を言うと眠い。とても眠い。
最近はやることも明確になってきたので、忙しい。
不参加にしてやろうかと思ったけれど、流石に誘いを断るのはダメだと考え直し、私は一人、廊下を歩いていた。
マリンは私の部屋でお留守番をしている。
女子会なのだから当然だ。
エリザベートの配下に案内された先には、すでに二人、テーブルに座って優雅に談議していた。
「あら、待たせちゃったかしら?」
「いいや、アタシが早く来ただけだよ。……久しぶりだね、セリカ」
私の登場に笑顔で振り返ったのは、緑の長髪の中に紫の線が入った、どこか気怠げな雰囲気を纏った見た目二十代……より少し若めの女性だ。
彼女の名前はリンシア。
種族は珍しい『幻魔』で、名前にある通り相手を惑わす幻術を得意としている、精霊族の一種だ。
魔王の中で私が数少ない『友人』と呼べるのが彼女で、封魔の仮面や様々な装置を作ったのも彼女だ。
「ええ、会議ぶりね。相変わらず元気なようで安心したわ。お義母さんも、一応ご招待ありがとうと言っておくわね」
「忙しいところ来てくれて嬉しいわ。いらっしゃい」
エリザベートは優雅に微笑んだ。
いつもは堕落しまくっている吸血鬼という印象しかないけれど、客が来る時のみ別人のように着飾る。
「……フォリアがまだ来ていないようだけれど、どうしたの?」
女性の魔王は私含めて四人いる。
「彼女は急用が入っちゃったようで、欠席すると連絡が入ったわ。その代わりに彼女の配下が沢山の茶葉と砂糖菓子を届けてくれたから、今日はそれを楽しむとしましょう」
「あら、それは嬉しいわね。彼女が欠席なのは残念だけど、急用なら仕方ないわ」
本当は私も休みたかったけれど、これは急用ではなく体調管理の問題なので、仕方なく出席することにした。
本音は今すぐ引き返してベッドに潜りたいけれど、この機会に相談したいこともあったし、我慢するしかない。
「ちょっとセリカ。貴女少し顔色が悪いわよ。ちゃんと眠れているの?」
「最近は忙して、あまり眠れていないのよ。転生者関連でやることが増えてね。時間が来るまで少し仮眠を取ったけれど……疲れは取れていないわね」
「女の子は健康に気をつけなきゃダメよ。いつか、リンシアみたいになるわよ?」
エリザベートからリンシアに視線を移す。
なるほどと頷き、視線をエリザベートに戻した。
「わかった。合間合間に仮眠を取ることにするわ」
「……うーん? なんか複雑だなぁ? これってアタシ馬鹿にされているんだよね?」
「「気のせいよ」」
「そっかぁ、気のせいかぁ」
他愛ない話をしながら、私は席に座る。
「セリカ。飲み物は?」
「ハーブティーをお願いできるかしら」
「砂糖多めでよかったかしら?」
「ええ、ありがとう。悪いわね。主催者なのにやらせちゃって」
「いいのよ。振る舞うのは好きだから」
エリザベートの動きは手慣れている。
多くの月日を過ごして来た彼女は、ほぼ全てのことを完璧にこなす。
貴族社会の礼儀作法も熟知していて、淑女として大切なことは私も全て受け継いだ。
そんな彼女が淹れるお茶は、一流の従者が淹れるよりも美味しい。
私も一応、お茶の淹れ方は学んだけれど、まだまだ彼女の腕には追いつけそうにない。
「ねぇセリカ。さっき転生者のことでって言っていたけど、何か問題でも起きているの? いつもならそこまで苦戦してないでしょう?」
「……今回のはちょっと特殊なの。今は動かせる配下を総動員させて調査しているところよ」
「なに、そんなに大規模? 本当に大丈夫なの? アタシも手伝おうか?」
「リンシアの手は……いや、そうね。お願いしてもいいかしら。作って欲しい物があるの。後日、詳しい書類を配下に届けさせるわ」
「はいよ。セリカのためなら、アタシも頑張るよ」
「……ありがとう。頼りにしているわ」
「ねぇ、私は? 私は何かやれることないかしら?」
私とリンシアが手を取り合ったところで、エリザベートがそわそわしながら横から入り込んできた。
「……貴女が出て来ると面倒になるから遠慮するわ。獲物を横取りされたくないの」
「えぇ〜?」
「えぇ〜、じゃないわよ」
以前、エリザベートに転生者狩りを手伝ってもらったことが一度だけある。
当時は私もまだ若く、自分の実力にも不安があった。
万が一にも危なくなった時のために見守っていてくれとお願いした私に、彼女は何を勘違いしたのか、私が何か行動を起こす前に転生者を切り刻んでしまったのだ。
「あの時は、娘が初めて私を頼ってくれたと嬉しくなったのよ」
「エリザベート、会議の時すっごく喜んでいたもんね。その時は娘自慢だけで会議が終わったよ」
「ちょっとあんた。娘の居ないところで何やってんの!?」
その時はまだ私は魔王では無かった。
それは単純に力不足だったから、修行をしていた。
まさか、知らないところでそんな恥ずかしいことを暴露されていたなんて……!
「悪かったと思っているわよぉ……でもね? 養子とはいえ我が子のことは自慢したいじゃない?」
「あの時のエリザベートは久しぶりに輝いていたからね。……うん。懐かしいよ」
一応、エリザベートは二人目の母親だ。
恥ずかしいのは山々だけど、それでも彼女の気持ちは理解できるところがある。
本当に申し訳なくしている母に、これ以上文句を言うのも酷だろう。
もうどうにでもなれと、盛り上がる二人を尻目に、私はティーカップの縁に口を付けるのだった。




