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恋色の蝶々 第1章  作者: 峰金良介
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1話Part8 加藤奈々との放課後の話

 その日の放課後、僕は加藤さんと一緒に学校近くの広場にあるベンチに座っていた。ことの発端は村川さんとの会話が終わった後に遡る。荷物を運び終え、帰ろうとしていた僕は、廊下を歩いていた。加藤さんは、僕に追いつくと、僕のシャツの袖をつかみ、僕を引き留めた。話を聞くと、どうやら加藤さんは今日は部活がないらしく、少し僕と話がしたいようだった。さすがに学校で話し込んでいると怪しまれそうだということで、今に至る。

 広場に着くと、そこには誰もいなかった。まあいつもは人がいるのかと言われればそうじゃないが……

「どう?春風希君は次隣の席の人と仲良くできそう?」

「まあ、ね……」

正直あまり不安な点はない。ただ、加藤さん以上に話したことがあるわけではないし、あんな感じで接してくれるのは今だけなんじゃないか、その点だけは不安だった。

「そうなんだ……」

隣を見ると、加藤さんは下を見て少し悲しげな表情をしていた。

「ど、どうしたの加藤さん……」

「私は不安だよ春風希君……」

「え……?」

「私まだあんまり友達いないし……」

「そ、そうなの……?」

「そうなの、だから春風希君と離れるのちょっと寂しいよ……」

「う、うん……」

確かに加藤さんは僕と同じであまり積極的ではない。でも僕みたいな生粋のボッチって感じではなかったので、僕なんかと離れるだけでこんな風なことを言うとは思っていなかった。

 この発言で、加藤さんが前に見せた表情の意味が、少しだけ分かった気がした。


 加藤さんはその後、少し言いづらそうにしていたが、決心したような顔をすると、僕のほうを見た。

「あのさ、また隣の席になったときはさ……」

そこまで言って、加藤さんは顔を赤らめる。また少し言いづらそうにして、今度は恥ずかしいのか少し上目遣い気味でこちらを見る。

「隣の席になったら、また仲良くしてね?」

そう言って加藤さんはニコッと笑った。

 こんな一言、こんな一つの行動だけで、僕は加藤さんを意識しないではいられなくなってしまった。僕がチョロいのは重々承知だったが、まさかここまでとは思っていなかった。

「ふふ、春風希君顔赤くなってるよ?」

「か、加藤さんもだろ……?」

「うん、そうだね」

そう言うと加藤さんは顔を隠す。でも加藤さんの顔が真っ赤なのは隠していてもバレバレだった。

 自分の顔が真っ赤なのを僕に見られたくないのか、加藤さんはわざとらしく僕に背中を向け、時計で時間を確認する。

「あれ?もう四時半じゃん……」

広場にある時計を見てみると、加藤さんの言う通り、四時半前になっていた。これ以上長い間いると、さすがにお母さんに怪しまれるし、何より心配性のおばあちゃんが面倒だ。そう思っているのはどうやら加藤さんも同じらしい。ベンチを立つと、自転車に乗る僕を見ながら、加藤さんは少し頬を赤らめる。

「春風希君、ありがとね」

「こっちこそありがとな」

「春風希君と隣の席でよかった、楽しかったよ」

「こっちこそ、加藤さんが隣の席でよかった、楽しかった」

そう言うと、東方向に帰る僕に、西方向に帰る加藤さんが手を振る。

 控えめに、可愛らしく。

「じゃあね、春風希君」

「うん、またね、加藤さん」

加藤さんは、またニコッと笑うと、僕に背を向けて歩いて行った。


 本当はここで加藤さんを引き留めて、また隣の席になった時じゃなくて、明日からも話そう。なんて言ったらよかったんだろうが、この時の僕にはそんな貪欲さ、強欲さはなかった。

 僕は、加藤さんの姿が見えなくなるのを確認すると、自転車に乗り、家へとこぎだした。


 それからしばらく、加藤さんが話しかけてくることはなかった。





 特にイベントもない、慌ただしい日々はあっという間に過ぎ、水瀬さんと出会った夏休みも越え、高校生活における一大イベントである運動会が刻々と迫っていた……


[1話完結、2話Part1に続く]

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