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恋色の蝶々 第1章  作者: 峰金良介
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1話Part7 席替え

 あの席替えから一か月、御咲市も梅雨の時期に入り、ジメジメとした毎日が続いていた。春風希たちの教室も、体育の後ではとても不快になるほどジメジメとしていた。

 そんな中、僕と隣の席の加藤さんとの関係は一か月前とほとんど変わっていなかった。朝は普通にあいさつを交わし、普段は怪しまれないような距離感で、ただただお互いに『隣の席の人』と思っていた。少なくとも僕はそうだった。


 六月のある日のこと、日直だった僕は放課後、黒板消しをしようとしていた。

「春風希君、ちょっといいかな?」

背後から聞きなれた声が聞こえる。

 振り返ると、そこにはノートと筆記用具を持った加藤さんが、今まさに黒板を消そうとしている僕のほうを見ていた。

「そこまだ私書き切れてないんだ、だから消すのちょっと待ってくれる?」

急いでるんだ、だから無理だね。なんて言えるはずもなく、僕はOKを出す。

まあ、そもそも急いでないから断る理由もないんだけどな……

 加藤さんは僕がOKを出すと、教卓にノートを置いて板書を再開する。

 加藤さんのノートを見ると、先生が黒板に板書した以外のこともビッシリと書き込まれていた。そういえば、加藤さんは結構学力が高かったような気がする……

「加藤さんめっちゃ書き込んでるなあ……」

僕がそう言うと、加藤さんはちょっと困ったような顔をする。

「まあね、こうやってしないと私覚えられないんだ……」

「そうなんだ……」

僕は少し安心した。学力が高い人はみんなもともと頭がいいんだと勝手に思い込んでいたから、加藤さんみたいに努力してテストでいい点を取っている人もいると知れてよかった。そう思うと同時に、僕も少しはやったほうがいいのかもなと感じた。


 それから数日後、席替え二回目は唐突にやってきた。金曜六時間目のHRの時間、担任は二回目の席替えを提案してきた。時期としては妥当だとは思ったが、クラスの意見は賛成と反対で半々という感じだった。

 そんな中、僕は少し寂しいような、次の席が楽しみなような、そんな気がしていた。今までは感じなかった気持ちだ。

 今回も席はくじ引きで決まる。

「じゃあ春風希はここな~」

そう言って担任が指差したのは、今とは全く違う、中央の列の前から二番目だった。一番目じゃなくてよかったとは思ったが、あまり好まない位置だったので少し残念だった。


 HRの時間も終わり、クラスの皆が荷物を移動させていた。

「春風希君、結構大変な位置になったねえ……」

声を掛けられ、隣を見ると、荷物を持った加藤さんがいた。

「本当だよ、どうせまた一か月なんだろうなあ……」

「大変だね……」

話題がなくなり、自然と黙り込んでしまう。そうしているうちになんとなくお互いの距離が開いていくような感じがした。

「奈々ちゃん、ちょっといいかな?」

「あっ、うん……」

友達らしき人から呼ばれると、加藤さんはちょっとこちらを気にしながら小走りでその人のもとに向かった。


 明日からの席に荷物を持っていくと、そこには一人の女子がいた。持っている道具からして書道部所属と思われるその女子は、こちらに気づくとすぐに声をかけてきた。

「あ、君が春風希?」

「そうだけど……」

「やっぱり?じゃあ明日から隣かあ……」

「そうなの……?」

「あ、そうだ、私は村川幸(むらかわみゆき)っていうの、よろしくね!」

「僕は諸岡春風希っていうんだ、よろしく……」

そう自己紹介すると、村川さんはニコッと笑った。

 少しだけ不安だったが、何とかやっていけそうな、そんな気がした。


[1話Part8に続く]

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