1話Part5 加藤奈々との出会い①
3ヶ月前、その当時も僕は1人だった。御咲高校に入学して1ヶ月、ようやく高校の授業にも慣れ始め、隣の席の人とも業務連絡くらいならできるようになった頃、その瞬間は唐突に訪れた。
「じゃあもう1ヶ月経つし、席替えするぞ〜」
そう、席替えである。僕のクラスの担任が若くてよく通る声で告げたのは、僕のようなおひとり様には非常にどうでもいいイベントだった。
「えー先生早くなーい?」
「よっしゃ!」
クラスメイトがそう言いあう中、僕は早いとか遅いとかではなく、嬉しいとか嬉しくないとかでもなく、ただただ興味がなかった。
「じゃあ春風希はここな」
そう言って担任が指さしたのは窓際の前から3番目だった。窓際の席から順番に決まっていくものだから、僕はそれ以降はとても暇だった。だからといって単語帳を見るとか、今日提出の宿題をこっそりやるとかしていると怒られるので、せめて隣と前後くらいは覚えておこうと決めた。
僕はクラスメイトくらいなら結構すぐに顔と名前が一致させられるので、ああ、あいつかとか心の中で思いながら、窓の外をぼんやりと眺めていた。
今日は快晴だった。ここ数日雨が続いていて、いよいよ梅雨入りかとか言っていたのに、まるでそれが気のせいだったかのように今日は晴れている。こんな日はいつもと違う道を通って帰りたくなる。おまけに今日は風が心地いい。自転車で坂を下るときっと気持ちいいだろう。まあ、帰り道ずっと上り坂だけど。
「よーし、明日からこの席だから、今日帰る前に席確認して、荷物移動させとけよ〜」
どうやら放課後の予定を決めている間に席が決まっていたらしい。正直面倒だが、これは黒板に貼ってある座席表を見るしかない。ショートホームルームが終わった直後は混み合うので、今日までの自分の席で少し暇をつぶし、早く寄り道して帰りたい気持ちを抑えながら、黒板に張り出された座席表を確認しに行くのだった。
[1話Part6に続く]