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恋色の蝶々 第1章  作者: 峰金良介
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1話 Part4 放課後デート(?)②

 先程までいた公園とはうって変わって周りには建物が密集し、それなりに人もいる街の中心部のコンビニに僕らはいた。

「なあ、ここじゃ目立つんじゃないか……?」

「さっきからそればっかりだよね……」

こう言って僕は周囲を見渡す、

「だってさ……」

気にしすぎと言う人もいるかもしれないが、僕にとっては仕方のないことだった。ただでさえ女友達の少ないこの僕が、突然デート(?)に連れ出され、こんな美少女の隣を僕みたいなのが歩いている。好奇の視線にさらされるのは確定事項だった。道行く人は皆こちらを見ている、そんな気すらした。

なんとなくそれを訴えようと水瀬さんのほうを見る。しかし水瀬さんは全く聞いていないうえ、こちらを見てすらいない。

「早く中に入ろうよー」

だから当然僕の心情になんて気づくはずもなく、早く中に入ろうと急かすばかりだった。


 店内に入ると平日の昼間だからなのか、会社員やら同じ高校の学生やらがいた。それぞれに弁当やらお菓子やらを買って世間話と花を咲かせる。

「ねえねえ、何買うの?私欲しいものあるから買ってほしいなー」

そんな中でも水瀬さんは態度を変えることはなかった。相変わらずさっき初めて話したばかりの男子相手には不適切とも思える距離感で、しかもいきなりおごれとかのたまう。

「あり得ない、いろんな意味で……」

こんな本音にも

「え?何があり得ないって?」

水瀬さんはいちいち反応してくるのである。

 お菓子やらアイスやらを持ってレジへ行くころにはお昼時の混雑も解消され、意外とすぐに会計が始まった。目標金額に勝手に設定していた1000円以下で買えた、と思ったその瞬間

「はい、これも追加でお願いしまーす!」

僕の視界の外から、レジ打ちするいかにも優しげなおばさんの前に一つで税抜き200円もするジュースが2つも置かれた。始めはレジ打ちのおばさんも驚いたのか手が止まっていたが、水瀬さんの顔を見るなりそれをレジに通してしまった。

「え?ちょっと……」

そして表示された会計は1200円をオーバーしていた。

まあ、払えないわけではなかったので払ったが、僕はかなり損をしたような気がしてちょっと嫌だった。

おごらせておいて追及を避けるためにさっさと店の外に出た水瀬さんを追って外に出ようとすると、レジ打ちのおばさんに呼び止められた。

「な、何ですか?」

「仲良いねぇ、あの子君の彼女?」

「はぁ!?ち、違いますよ!さっき初めて話したばっかりですよ!」

慌ててそう言う僕の顔を見てレジ打ちのおばさんはニヤニヤしていた。

「あらそう?その割には仲が良すぎるんじゃない?」

「そ、そうでもないですよ……」

「まあ、どっちにしてもあんな可愛い子なんてそうそう捕まえられないんだから、大事にしなさいよ?」

「は、はあ……」

一通り説教を済ませると、レジ打ちのおばさんはまたニヤニヤしている。

「また来なさいねー彼女と一緒に」

「だ、だから彼女じゃないですって!!」

そういう僕の顔は多分、とてつもなく真っ赤だったと思う。

 コンビニを出ると、水瀬さんがこちらを見ながらニヤニヤしていた。

「彼女、彼女……!」

「な、なんだよ……」

「私が彼女で、春風希くんが彼氏……!」

そう言う水瀬さんはなぜだか興奮しているようだった。

「な、何でそんな興奮しているんだ……?」

「ね、ねえ!もっとそばで歩いてもいいかな?いいよね!」

「は、え?」

有無は言わせないとばかりに水瀬さんは距離を詰めてくる。

「ちょ、近いって……」

「えー?何てー?」

絶対聞こえているはずなのに水瀬さんはとぼけている。

「だから近いって……」

「んー?恋人なら普通でしょ?」

「いつから僕らは恋人になったんだよ……」

おまけに事実無根のことを言っている。

「ほら、彼氏なら彼女を駅まで送って行ってよ!」

「ちょ、だから僕は別に水瀬さんの彼氏じゃない……」

「はいはい、そんなことどうでもいいから早くー!」

背中を押されるままに僕は学校近くの駅へと歩いて行った。


 駅に着くと、ホームはおろか改札までの階段にも、待合室にも誰もいなかった。

駐輪場に自転車を止めて、水瀬さんに言われるままに待合室へと向かった。

「今日は楽しかったよ春風希くん!」

「そ、そう……」

「また放課後デート、しようね?」

「だ、だからデートじゃないってあれは……」

「デートだもんあれは!」

珍しくちょっと怒ったような、すねたような口調で水瀬さんはそう言う。

「第一僕ら恋人でも友達でもないし……」

「恋人じゃないかもだけど、もう友達だよ!」

「そ、そうなのか……?」

「そうだよ!なんならもう普通の友達でもないし!」

何を根拠に、と最初は思ったが、今日の出来事からするとそうかも知れない。そう思うと何も言えなかった。

「うん、分かったよ。また今度付き合ってやるよ」

少しの間沈黙が続いた後、そう僕が答えると、水瀬さんは少し嬉しそうだった。

「じゃあ、また学校でな」

そう言って立ち去ろうとした、だが水瀬さんはそれを許さなかった。

「ちょっと待ってよ……」

言いにくそうにしながらこちらをチラチラ見る水瀬さんの顔は、どういうわけか少し赤かった。

そんな顔をする水瀬さんを見ていると、なんかこっちまで恥ずかしくなってしまって顔をそむけた。

また初めて話した時のような沈黙が訪れる。

数秒間沈黙が続き、どうにか打開しようと思考をめぐらし、何とか見つけて言う。

「レ、レイン交換しない?」

口にしてから気づいた、こんな場面で言うべきじゃないと。

「は、春風希くんも同じこと考えてたの?」

しかしどうやら水瀬さんも同じことを考えていたらしい。

「なんか変な空気になっちゃったけどね……」

「ま、まあとりあえず交換しよ?もうすぐ電車来ちゃうし……」

そう言うと、変な空気を残したまま、手早くレインの交換を済ませた。

僕のレインの友達の欄に新しく水瀬さんの名前が追加された。

アプリをインストールしてから早4ヶ月、0人だった友達の欄に初めて1人と表示された。

「ふーん、私が初めての友達かあ……!」

いつの間にか僕のスマホの画面を見ていた水瀬さんは、僕のレインに自分の名前だけが表示されていると知ってとても嬉しそうだった。

テンション高めになった水瀬さんは、もうすぐ来る電車に乗るために改札へと向かう。

 改札前に着くと、水瀬さんは僕に手を振ってホームへ続く階段を足早に下りて行った。水瀬さんを乗せた電車を見送ると、荷物を整えて自転車に乗り込む。すると僕のカバンの前ポケットに何か挟まっているのに気が付いた。取り出してみると、それは手紙のようなものだった。そこにはこうあった。

『今日はありがとう、本当に楽しかったよ!また放課後デート行こうね?』

放課後デートじゃないって言っただろ?そう思いながら僕はクスクス笑った。

こんなに自然に笑えたのは、多分3か月ぶりだ。

久々にもれた自然な笑みをかみしめながら、3か月前を思う。

高校に入って本当に一番最初にできた友達のことを思う。

初めての席替えでできた今は話していない友達のことを……


[1話 Part5に続く]

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