1話 Part2 水瀬美波との出会い②
「だって私もC組だもん」
これを聞いたときは本当に耳を疑った。こんなに可愛い子、普通忘れるはずがないはずなのに、しかも同じクラスなのに僕は彼女のことを忘れてしまっていたのだ。
「まあでも覚えてなくてもしょうがないよね……クラスメイトなのに一回も話したことないもんね……」
「そ、そうだな……」
こう言いながら僕は自分のコミ障かげんに心底呆れた。
それにしても彼女は僕なんかのことを知っていたのだろうか……それだけは分からなかった。
「なんで水瀬さんは僕なんかのことを知ってたの……?」
水瀬さんは、この言葉に君何言ってるの?とでも言いたげな顔をする。
「いや、だから同じクラスじゃん?」
「まあ、そうなんだけどさ……」
さも当然かのような言い方をするな、コミ障なめんな……
なんてことを心の中で言いながらも、ただただ僕たちの前にはまたあの静寂があるだけだった。
別に何かあったわけでもないのに、気まずい感じがした。
「あ、あの……」
どちらが先だっただろうか……
僕らはほぼ同時にこの静寂を打ち破った。
「あれ?言うタイミングかぶっちゃったね?」
「そうだな……」
そういうと水瀬さんはクスクスと笑い始めた。
「何かシリアスな場面みたいになっちゃってたね」
「別に水瀬さんと何かあったわけじゃないのにな」
「まるで告白してるときみたいだったね~」
「何それ?僕には経験ないから分かんないんだけど」
「マジ~?」
「コミ障なめんなよ?」
「はいはいすみませんでした~」
「はいはいじゃないよほんとに~」
こう言いながら僕が自然に笑えていることに気が付いた。
もちろん水瀬さんもそれに気づかないはずもなく……
「なんだ、春風希くんも笑うんじゃん」
なんて結構失礼なことを言ってきたりなんかもした。
「当たり前だろ?僕だって笑うよ」
「そりゃそうだよね~」
「ただそうやって笑いあう友達がいないだけだ」
「あ……うん」
正直この一言は余計だったのかもしれない、水瀬さんがめちゃくちゃ困っている。
「なんかごめん……」
「いや、気にするな」
「ごめん……」
その一言を最後に言葉が途切れ、またあの静寂が訪れる。
たった数秒のはずなのに何分にも感じられた。
水瀬さんは少しの間俯いた。
「その……ということは今もまだ友達いないの……?」
何も言わずに僕は小さく一回だけ頷いた。
水瀬さんはまた少し俯いたが、何かを閃いたふうにこちらを見る。
「じゃあさ、私が友達になってあげるよ!」
「はい……?」
今日初対面の陰キャに対してそれが言えるのは結構すごいと思ったが、友達ってこんな感じでなるものだっけという問いが頭の中で反芻して、しばらく黙り込んでしまった。おまけに
「ダメ……かな……?」
そういう水瀬さんのねだるような上目遣いも見ることができなかった。
ん……?あれ?意外としっかりと見てないか?
それから一時間もの時間が経って、やっと僕と水瀬さんは友達(?)となったわけだが……
「春風希くん~♡」
そういう水瀬さんは今僕の隣、それも手を伸ばさなくても触れられそうな位置にいる。
どうしてこうなった……
その理由を知るには少しばかり時間をさかのぼる必要がある。
あれは今から小一時間前の話だった……
[1話 Part3に続く]