1話 Part1 水瀬美波との出会い①
1話『出会い』
『彼女なんて僕には出来たりしない。』御咲市に住む僕、諸岡春風希がそう感じたのはもう何年前のことだっただろうか。八月の暑い日差しが照り付ける中、目的もなく午前中の補習を終え、帰るでもなく学校から少し離れた公園のベンチで汗を拭っていた。
「それにしても暑すぎるだろ……」
天気予報によると今日はどうやらこの夏一番の暑さになるらしい。
こんな猛暑の中僕がここにいる理由、それは……暇だからだ。
自慢というより自虐に近いが、僕は今通っている御咲高校に入学してからというものの、一人も友達がいない。暇が人生一番の敵だと勝手に考えている僕としては一番避けたかった状況なのである。
そんなわけで暇は嫌、でも友達いない、ならその辺に涼みに行こうとなったのである。
遠くで小学生だろうか、鬼ごっこをしてはしゃぎまわっている。昔は僕もああだったのだろうか……
ろくに覚えていない幼少期を思い出してぼんやりしていた。
そんな時だった……
「あれ?春風希くんだよね?ここで何してるの?」
声がしたほうを見ると、僕が座っていたベンチの横にどう見ても御咲高校の女子生徒がいた。
身長は160㎝の僕より少し小さくて、髪は黒髪ポニーテール、体型は程よくスリムで、主張すべきところはしっかり主張していた小さいながらもファンクラブがありそうな、結構可愛い女子生徒だった。少なくとも僕は彼女のことを可愛いと思った。
「どうしたの?私なんか変だった?」
「ん?あ、いえ……」
どうやら見惚れて自失してしまっていたようだ。
改めて彼女を見直してみる、さっきも言ったように彼女は御咲高校の生徒であるのは間違いない。毎日のように制服を見ているから間違いない。名札の色も僕の学年のものだ。しかし僕は彼女を知らない。だから僕は失礼とは分かっていてもこう聞くしかない。
「すみませんが、どちら様でしょうか?」
「あ、紹介遅れたね、私、水瀬美波っていうの、春風希くんって1年C組だよね?」
御咲高校は各学年A組からG組まであり、僕はC組なのだが、どうやら彼女はどういう訳か僕のクラスを知っているようだ。
「そうだけど……なんで知ってるんですか?」
正直謎だった、僕は彼女を見たことがない、でも彼女は知っている。
もしかしたら先輩かも……そう思って敬語を使うが、部活に入っていない僕に先輩との接点はない。中学でも彼女は見たことがない。どれだけ考えても出てこない……
困惑する僕に彼女は平然と驚きの事実を告げる。
「だって私もC組だもん」
「え……?」
驚きで周りの音が小さくなり、訪れた静寂の中、彼女のその一言だけがやけに響いた。
[1話 Part2に続く]