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奸雄ノ始末  作者: 山崎十一
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警邏隊突入

とりあえず、本日はここまでです。

 カンテラを消し、双子月の輝きのみを頼りに廃聖堂の正門に近づく。

 周囲には黄花葛の煙が薄く漂っている。この煙は人間には殆ど影響はないが、蛇馬たちを大人しくさせる効果がある――事実、蛇馬たちは冬眠中のようになっており、舩坂たちが近づいても警戒の啼声を上げることはなかった。

 それに警邏隊の纏う黒い軽鎧は大規模戦闘には向かないが、ほとんど音を立てないので隠密行動には適している。舩坂は所定の位置に到達すると丁字大剣の革鞘を外した。

「第三継嗣に何人か付けてやった方が良かったんじゃないですかね……」

 甲野が舩坂にだけ聞こえるように愚痴った。領主の子が戦死すれば、その責は確実に警邏隊に問われる。ましてや舩坂は十年前の内乱の関係者であり、厳しい取り調べが待っているはずだ。

「来るなと言ったのは向こうだぜ。あれ以上、無理強いすれば、命令に従わなかったと言われる」

「何かあったら証言はしますよ。副長は第三継嗣の命令に従っただけだって――」

「ありがとよ。嬉しくて涙が出てくるぜ」 

 豪胆な気質なのか、若者特有の気負いなのか――その判断をつけられぬまま、第三継嗣の行動の自由を許してしまったことを舩坂は少しばかり後悔していた。だから――。

「正面を抜いたら俺は教導師の部屋に直行する。隊の指揮はおまえに任せた」

「畏て候」

 第三継嗣との同行は拒否された。だが正門を突破して、第三継嗣たちとの合流が早くなることに関しては、制限されていない。

「――いいな、女は燃やすんじゃねぇぞ」

 吐龍機を背負った巨漢――坂崎に小声で指示を出す。

「甲野、坂崎を頼むぞ」

 吐龍機の操者は、燃水樽の重さから素早く動くことができなくなる。よって操者の護衛が必要になるのだ。

 正門への攻撃開始は裏門への突入を待ってから――裏門を目視できる位置に連絡役の兵を配してある。

 本命は向こうのようだな――舩坂は臍を噛んだ。おそらく人質は大広間にはいない。いるのであれば、もっと騒がしいはずだ。

 月夜の空に一条の火矢――裏門への突撃が敢行されたという合図。

 走り出した舩坂は無言で正門大扉に丁字大剣の渾身の一撃を与える――扉面が割れ、閂が折れる。扉を蹴破って突入――だらしなく眠りこけていた賊どもが目を覚ました。

 数が多い――賊は三十人程度と予測していたが、それより更に五人は多いようだ。だが練度が違う――隊士たちが左右に別れて展開したのを舩坂は背中で感じていた。

「巡回警邏隊だ、武器を捨てて降伏しろ! ――歯向かう奴には大剣をくれてやる!」

 舩坂は雄叫びと共に手近にいた賊の頭に丁字大剣を叩き込む。賊は剣で受けようとしたが、それは無意味だった。丁字大剣の重い斬撃は確実に賊の頭を叩き割った。どろっとした白いものが頭部の裂け目から溢れていく。舩坂が大剣を引き抜くとバリバリと頭蓋骨が裂ける音がした。

 次の瞬間、廃聖堂の大広間が橙色に染まる。吐龍機の炎が賊たちを焼いていき、怒声は悲鳴に変わる。完全に匪賊どもの気を呑んだと舩坂は感じた。

 こうなれば最早、人数差は関係ない――抵抗する意思がある者だけを殺していけばいいだけだ。舩坂は近い距離にいるふたりの賊の頭を叩き潰した。

 武器を捨て命乞いする者、逃げ出そうとする者――そして、それらを制す巡回警邏隊の猛者たち。

 戦闘の喧騒の中で舩坂は冷静だった。一刻も早く第三継嗣と合流しなくてはならない。領主の息子に死なれては困るのだ。






よろしくお願いします。

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