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31/31

-適切な彼らのエピローグ-

今までお読みくださりありがとうございました! この31話をもって本作は完結です。多謝!

 一方総合病院の待合室には眞琴がじっと詰めていた。


 最初の日曜のあの日、猛を説得することが出来たら、一人では無理だ、顕彦だってもう少し協力してくれたって良かったじゃないか。

 それをシムルグの哲学談義に加担してしまい、余計に猛は偽鳥の王の終末論に耽溺(たんでき)を深めて行ってしまった。

 後悔しても後悔しきれない。

 眞琴は壁越しにぼそぼそと聞こえてくる医師と優奈の両親の話に耳を(そばだ)てた。


――はい、手術が成功しても普通に歩行することは困難だと思われます、また内臓にも損傷を受けてますので、開腹手術が必要です。


 優奈は集中治療室にいるはずだから、話を聞いてるのは彼女の両親だろう、母親だろうか嗚咽(おえつ)がここまで聞こえてくる。


――ああ、優奈! 何故卜部(うらべ)となんて付き合ったりしたの!?

 怒号、哀しみに満ちたそれは、猛の蛮行より己の無力を(のろ)っているかのように聞こえた。様々な感情が入り混じり、それは絶望、困惑、恐怖、憤怒など様々な負の感情が渦を巻き、今にも吹き出しそうなほど荒々しく眞琴を責め立てた。


 あとはまた嗚咽が聞こえて来るだけで、医師も困惑しているようだ。


「ぼくが優奈に出来たことって何かな……」


 今更なにが出来たというのだろう? その時にだって出来なかったことが、今できるわけもないのに。

 しばらく眞琴の大きな目がぼんやりと待合室の壁を見ていた。

 腰で折ったスカートから長い脚がのぞいている。

 とはいえ実のところ何も見てはいなかった、眺めているのは壁でも、視ているのはなにもないがらんどうの世界だ。

 それは日常の消えた世界だった。


 メフィストフェレスはつめたいリノリウムの床にしゃがみ込んで、長椅子に座って放心している眞琴に話しかけた。

 悪魔とはいえ気の利いたことの一つでも言ってやりたかったからに違いない。


「私がして遣れることはあるかい眞琴ちゃん」


 すると眞琴はメフィストとは目も合わせず、否、合わせることができないのだ。


「ぼくだって気の利いた言葉の一つでも掛けてほしいくらいだ」


 普段の眞琴とは全く違う反応に悪魔は驚いた。


「例えばどんな? 私は何をしてやれる? 哀れな優奈と眞琴に」


 眞琴は瞼を伏せると長い睫毛(まつげ)が青ざめた頬に影を落とした。そして(ようや)く一言呟いた。


「せめて、今だけは一緒に居てくれる?」


 するとメフィストフェレスは眞琴の肩を抱きこう言った。


「人は孤独であるよりも悪と供にあるのが良いと見える」


 神秘とは世界がいかにあるかではなく、世界があるというそのことである。


 生の問題の解決を、ひとは問題の消滅によって気づく。

(疑いぬき、そしてようやく生の意味が明らかになったひとが、それでもなお生の意味を語ることができない。その理由はまさにここにあるのではないか。)

 だがもちろん言い表しえぬもは存在する。それは示される。それは神秘である。


 語りえぬもについては沈黙せねばならない。

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