火起こし
俺にはネーミングセンスが無い。大体ゲームでは自分の名前でプレイしていたし、実家で買っていた犬はそのとき読んでいた漫画の主人公の名前からとった。なんというかしっくりくる名前を考えるのが苦手なんだよな。
だが、今、名前のついてない幼女がこぼれんばかりに目を見開いて期待の目を向けてきている。・・・本当に目が落ちそうだ。これは期待にこたえなくてはならない。付けてやるぞ~かわいいね前をな!
えっと、何がいいかな。やっぱり一番目に付くこのクルクル、フワフワの髪の毛が印象的だしここからインスピレーションを・・・。うん、やっぱり綿菓子っぽい、でも綿菓子だと安直すぎる。ここからさらに捻りを加えて・・・
「・・・シュガー、なんてどうだ?
「シュガー?」
「どうだ?お菓子みたいでかわ・・・」
「やっ!」
少女の期待に満ちていた顔が一瞬でいやそうな顔に代わる。お気に召さなかったようだ。いや、かわいいじゃん、シュガー。俺にしてはいいほうだと思うんだけど・・・シュガー。
まあ、気に入らないなら仕方ない。
幼女が「違うのー、違うのー」と要求してくる。っく、仕方がない。もし、将来彼女が出来て、その後結婚をして、幸せな家庭生活を送ることになって、さらには子供なんかできちゃったりして、しかもその子供が女の子であった時のために考えておいた名前を特別に大公開してやろうじゃないか!
あぁ、そうだよ。彼女いない歴=年齢だとこうでもしないとやってけないんだよっ!・・・いいじゃん、妄想乙(泣)
「な、なでしこ。これならかわいいだろう」
日本人なら誰でも一度はつけてみたくなるだろう名前を堂々と言い放つ。・・・ふふふ、これなら満足だろう。
「やっ!!」
「っ!?、何で?何がダメなんだよ!可愛いじゃないか」
「意味わかんないーーー、だから、やっ!」
い、意味だと!?日本人なら絶対に嫌と言わないだろう由緒ある名前に向かって意味わかんないだとっ!分からなくてもいいじゃんか、ゴロがいいじゃん、響きがいいじゃん。
付けたかったんだよ自分の娘になでしこって・・・。可愛いし漫画だと主人公とかお嬢様系の友達とか宇宙船の名前とかよくあるし。なんか、いいじゃん。なぜわからないのだ。くそう。
その後も考えていた名前を言ってみるがどうも気に入ってはくれない。こまち、花、香織、栞、香音。
くそおおおお、俺のレパートリーが底をついたぞ!全部かわいいじゃんか。日本人ならどれもいいって言いそうだろうがっ!・・・って日本人じゃないからかっ!
あ、もういいや、適当で・・・
幼女も最初はキラキラしていた瞳が今は作業のようにやっやっ言っている。
「レイ」
「やっ」
「アスカ」
「やっ」
「ミサト」
「やっ」
「えっと、映画で出てきた・・・。マリ?」
「絶対やっ!かっこよくないー」
「・・・・エヴァ」
「うーん、ちょっとやー」
「なんでだよ!」
なんて遊んでたら日が暮れ始めた。すぐに着くと思っていたが、いまだ遠くに森が見えるだけでまだまだたどり着くには時間がかかりそうだ。どうするかな、さすがに夜は危険だよな。異世界だし魔物とかが出てきてもおかしくはない。
ぐーーーー
隣から可愛らしい音が響く
「ご主人様、お腹すいたよ?」
そういや、俺もこの世界にきてから何も食べてないな。考え始めると途端に腹が減ってきた。
そうだな、何か食べるか。と言いながら俺はおもむろにポーチ口を開く。こんなこともあろうかとつぶれた屋台から食べられそうなものを見繕ってポーチに入れてある。どれだけ入れても膨れないんだからと他にも必要そうなものを拝借している。魔法様様だ。
肉まんのような食べ物を幼女に放り投げてから、火を起こすための薪をを探す。ある程度集まったところで木を加工する。
「ごしゅびんさふぁ、なにしふぇるのー?」
「火を起こすんだよ」
「ふぃ?」
「そうだ」
まずは、木を板状になるように剣でたたき割る。この剣は召喚の際に初めから腰についていたのだがやっと使う機会が来た。ま、本来の使い方ではないけどさ。
板状になった木に切り込みを入れ、その先を丸くなるように少し掘る。下にも板状の気をおいてその上に加工した木。そうしたら太さの丁度いい枝を剣で砥いでざらつきをなくせば準備完了だ。
幼女は俺がすることに興味があるのか目を大きく見開いて凝視している。また、目がこぼれそうだ。
さて、初めてだけどうまくいくかな。
俺は準備した木の穴に砂を少し入れ摩擦力を高めてから棒を勢いよくこすりつける。
シュコシュコシュコシュコ
シュコシュコシュコシュコ
シュコシュコシュコシュコ
シュコシュコシュコシュコ
思ったより辛い、少し砥いだおかげで掌の皮はめくれることはなさそうだが両手が異常なほどだるい。汗もかいてきた。とはいえ必死でこすっている先は黒く焦げ始めている。今やめるわけにはいかない。
「これで火が付くの?」
幼女の問いかけに答えてやりたいが余裕がない。今しゃべると手が止まってしまいそうだ。
シュコシュコシュコシュコ
シュコシュコシュコシュコ
お、やっと火種ができた。
それを準備していた枯草の中に落とし息をそっと吹きかける。初めは煙しか出なかったがほどなくして火が起こる。
「おおおおおおおおおお!」
起こした火の上に小さな木を置きそれに火が燃え移ったところで俺は一息ついた。
「ご主人様、魔法使えるんだ!」
あ、この世界には魔王があるんだったか。ちらっとポーチを見ながら今更気づく。というかさっき魔法様様って思ってたじゃん。
「あ~、魔法ではないぞ」
「違うの?」
俺は摩擦について両手をこすると熱くなるところから教えた。幼女は起った火と俺を交互に見ながら何度も俺の真似をしている。和む。
しかし、それからが地獄だった。質問攻めが始まったのだ。
「ご主人様は何でそんな事が出来るの?」
「前にこれと同じことをしてる人を見たことがあるんだよ」
実際にはDVDで見ただけだけどな。何とかなるもんだ。世界一のサバイバー熊さんの動画を見るだけでこんなことができるようになるんだから。凄いもんだ、見ててよかった。
「その人は今何してるの?」
「さー何してるんだろうな」
「知らないの?」
「知らない」
「じゃあ、ご主人様は何でお城にいたの?」
あ、やばいこれ終わらないぞ・・・
「召喚されたんだよ。魔法で」
「しょうかん?」
「呼び出されたんだよ」
「ふーん」
あ、そこにはあんまり興味がないのか。勇者であることをかっこよく言いたかったのに。何とかいい感じに話を持ってけないかな。その後も幼女から質問が飛んでくるがなかなかいいタイミングがない。
「じゃあね~」
「なんで呼ばれたとか知りたくないか?」
「ん?べつにいい」
おいいいいい、なんでそこだけ興味ないんだよ、こいつ。あ、こら寝るんじゃない。まだ俺が勇者であることを説明できていないぞ!あ、可愛らしくあくびなんかしやがって。
うう、お休み。
「お休み」
「ん~」
寝るときに幼女は俺の手を握ってから離そうとしない。これが母性本能をくすぐるという奴だろうか、男だし父性か?俺が守ってやらないとって思いがわいてくる。
・・・守ってやるからな。
自らの手で崩れ去った国を思い出しながら高垣は小さく呟いた。