名前
「やっぱり誰も生き残っていないか・・・」
「そうなの?」
王城だった場所から離れた城下町であるはずの場所を通っているが、やはり人の気配は無い。幼女は外に出られたことが嬉しいのかちょこまかと高垣の周りを飛び回っている。騒ぎすぎて転ばないように注意しつつ王城から一直線に続いている大通りを幼女の手を引きながら歩く。
王城から遠のくにつれて兵士の宿舎や学校、公共施設、その近くには貴族が住んでいただろう豪華な屋敷、高級そうな店や中に何百人も入ることのできそうな建物もあった。その先には一般市民が生活するための住宅街、小道の先には井戸もあって洗濯をするために集まった奥様方が日々の噂話に花を咲かせていたはずだ。
今はさらに進んで商店が連なる商業区画まで進んでいる。少し先には屋台がひしめき合っていて王都に来た旅人はまずここで買い物をしてさぞかし賑わっていたに違いない。宿屋も近くに会って便利だ。道が迷路のように細かく分かれているので兵士の目の届かない場所ではスラム街のようにもなっていることだろう。
「これ、どこまで続いてるんだよ・・・」
「ガタガタだー」
「気をつけろよ」
「うんっ!」
きっと大昔に絶滅した恐竜の最後の一匹は、今の俺とおんなじ気持ちだっただろうな。ま、根本的に違うのは原因の所在か・・・
貴族が恭しくかつ傲慢に暮らしていた場所、庶民が慌ただしくも充実した生活を送っていた場所、町の荒くれ共が隠れ住んでいた場所、・・・今はその分け隔てもなくなり只々瓦礫に覆われていて時折、人だったものの一部が露出している。
あたり一面何も無くなっていた。
足が震えてきた。自分がしでかしてしまったことがどれほどの人の命を奪ったのかをこうして回ることで実感した。
途方もないことだ、自らの力だけでこんな事が出来るはずがない。これは事故だったのだと何度も頭の中で呪文のように唱える。
早くこの場所から離れたい。
「これからどうするの?ご主人様っ!」
「君は、どこか人のいない、近寄らない場所は知らないか?」
「んー、こっち。こっちにたぶん森があった」
幼女に名前を聞いたが名前はまだ無いみたいだ。しかも、なぜだか俺のことをご主人様と呼ぶようになった。何度かやめるように言ったのだが効き目がないのでそのままにしている。
幼女にご主人様と呼ばれるのは特定の人種なら嬉しいんだろうがなぁ
王都の外に出ると石畳で舗装された街道がまっすぐに続いていた。幼女曰くここをまっすぐ行けばクコの大森林と呼ばれる場所につくらしい。そこなら人はあまり入ることはないということだ。大きな森なら隠れて住むには十分だ。
お、俺は悪くはないけどほかのやつに話してもどう考えても大罪人だし・・・。スキルの使い方さえわかれば俺だって勇者だし森での生活くらい何とかなるだろう。そうじゃないとおかしいだろ?何たって勇者だし。
「ねー、行かないの?」
「おお、行く、行くぞ」
街道はほどなく行くと舗装がなくなり土で出来た道となった。特段歩きにくいわけではないが先ほどまで石畳だっただけに少しの窪みにいら立ちを覚える。まだ歩き始めたばかりだが長年の不摂生かそれとも老いか、なかなかに堪える。
「毎日小走りで店内を走り回ってたんだけどな。やっぱりあれは運動とは言えないのか」
高垣が時の流れの残酷さに悲しみを感じている間景色を眺めていた幼女も代り映えのしない風景にさすがに飽きたのか話しかけてきた。
「ねぇ、ご主人様のお名前はなんていうの?」
「ん、名前は高垣っていうんだ」
「タガキ?」
「いやいや、た・か・が・き。だ」
「タガキだー。あははははは」
人の名前を間違えて何を可愛らしく笑ってんだこの幼女は、自分に名前はないくせに・・・。いや、大人としてひどい考えに至ってしまった。この子はかわいそうな子なのだそんな子に対して・・・最低だな、俺は。
少しでも気分が落ちるとさっきまでの足の震えが戻ってきそうだ。気持ちを切り替えよう。
幼女のほうを向くとタガキタガキと何がそんなに面白いのか笑い続けている。
目が合った。
「お、お前は、名前は欲しくないのか?」
恥ずかしさをごまかす様に聞いてみる。
「ほしい!ご主人様が付けてくれるの?」
「お、おう任せろ」
ネーミングセンスはないがかわいい名前を付けてやろう。何がいいかな?
ブックマークありがとうございます!今後もゆっくりと投稿していきます。